ep.11 証明
『――二人きりにしてあげるね?』
雨音を背に。
ささやかれるままを真に受けて、リビングで待ってた自分もどうかしてる。
けど、
ソファの座面になかば押し倒した彼の、
耳に、瞼に、頬に口元を這わせるたびに、
どうしようもなく気付かされていた。
たぶん、本当はもっと早く気付いていたのだろうけれど……。
「……」
心に残るわずかなためらい。
ふと
「……どうした?」
「ッ、べつに……ただ」
「ただ?」
「――宮坂と、えっちしたいって思っただけで」
思うままを告げる。
明け透けすぎる思い。
でも、「あたしは、」選ばれたい。
そのためには、『できる』と示したい。
たとえ順番が逆だと言われても……
*
だから、妙だとは思っていた。
着せられたようなベビードール、おずおずとした態度。
まるで何かを恐れているように……
どこか踏み込む覚悟が決まってない彼女の姿は、誘われるというより。
――友達として心配になるような。
そんな気持ちを、
「……馬鹿なの? 明日花は」
「な、なんでよ?」頭を掻けば、彼女は唇を尖らせる。
だから、正直に言った。
「僕は別にやれなくても明日花を嫌いになったりしない。……『昔のままじゃない』なんてこと、証明しなくたっていいんだよ」
「!」
纏ったランジェリーの裾をぎゅっと握って目を戦慄かせる明日花。
というかこのベビードールはどこから出てきたのだろう? まぁ
「つか、意外と明日花って肉食系なのな?」
「ふぇっ⁉︎」ぼんっと真っ赤に染まる。
「怖いとか言ってたくせに、そんな欲情するなんて」
「う、うっさい! あんま言うな!」
「まぁ流れでこのまま行くとこまでいっちゃってもいいかなとも思ったんだけど」
ちら、と自室の方向を見る。
「――僕はそういうのは、きちんと相手を決めてからにしたい」
「ッ、」
前もそうだったから、
なんて無用なことは言わなかったけれど。
「僕は部室で平和に弁当を囲める明日花がいいんだ」
「……うん」
それ以上は彼女も迫ることなく。
スウェットを渡すと、「これ、洗って返すね」とランジェリーの薄いひらひらをつまんでマジメに言ってきた。やはりこの家にあったものらしいが、あまり深く考えない方がよさそうである。
――――
……
「宮坂は、いるの?」
「ここにいるな」
「好きな人」
冗談を無視して明日花は尋ねる。
「あ、あたしは言ったんだからね? 宮坂は、どうなの……?」
少しだけ恨みがましく、明日花は告げて。
ソファに並んで座った海はふっと息を吐きながらぼんやり天井を見上げる。
時計は二時半。
干し場から持ってきたグレーのスウェットに身を包んだ明日花の表情は、緊張しながらも柔らかく朱に染まっていた。
「……忘れたよ」
「、そんなごまかし方」
ずるい、と彼女から小さく言葉が漏れて。
「宮坂に好きな人がいても、あたしはちゃんと受け入れるから」
明日花が宣言する。意地を張ったような、真剣な目。
「……ウザいかも、だけど。
――あたしが誰かを好きになるって、そういうことだから」
そう告げると明日花は、か〜っと上った頬の熱に気付いてか、ふいとうつむき気味に目を逸らした。
「……」
「……な、なに?」たじろいで明日花が見返す。
「いや、北原ってすげぇ一途なんだなって」
「ッ、ま、まぁ、そうかもね?」
まんざらでもなさそうに、前髪を指でいじっている。何事かぼそぼそと独りごちて。
「北原のそういうところ、僕は好きだな」
「ふぇっ? ――……、!」
「な、北原ぁ⁉︎」
刹那、ぼんっ、と耳から湯気を噴き出して――明日花は卒倒した。
*
「ねんみ〜……。。」
「どしたんアスカ? めっちゃクマできてっけど」
朝、一度家に帰り登校した明日花はどんよりと重だるそうに机に突っ伏していた。
リナが気にして声をかけるが、呻くばかりで伏せったままだ。さながら二日酔いである。もちろん飲んだことはないが……。
「海、大丈夫かぁ?」
友人の心配に海は「あぁ、、」とぼそりと呟く。こんな日に限って一限は数学だ。いや、むしろ心地よく眠れるから救いだろうか。
その時、教室の真ん中後方で一人の女子生徒が「ん〜?」と気だるい声を発した。確かゆことか、ゆかとか。
ゆるふわパーマが特徴の、女子力高めなおしゃれ女子。
オレンジ色鮮やかな指先のネイルを見つめて。
ぽつりと。
「宮坂っちとキタちゃんが揃って寝不足ってゆーのはさぁ……――もしかして、そゆコト?」
「……ふぇっ、⁉︎」
「なッ、、」
「「「えぇ〜〜〜〜っ!???」」」
――――――――……
その日、海は放課後を迎えるまで野郎どもの誤解を解くのに始終奔走する羽目になるのだった。
「
「にゃは〜……」
⭐︎本作はここで打ち切りです!遊心ちゃん、好きになれそうだったんだけどなぁ……
『好き』の気持ちに雨が降るまで みやび @arismi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます