ep.2 お昼の雨宿り
「はよーっす、
「はよー」
友人と朝の挨拶を交わした海は、窓際の席に鞄を置くと、黒板近くでたむろしている一軍グループに目をやる。
「――でさぁ、」
「マジで?」
華やかな雰囲気を帯びて楽しそうな男女数人のやりとり。
その輪の中で、北原
「海、うーみ」
「っ、おぉ」
海は友人の言葉に振り向き間抜けた声を発する。
「なに陽キャグループに目ぇ奪われちゃってんだよ。俺たちは俺たちらしく、地味にやってこうぜ」
後ろの席で頬杖をつき、ぽんと海の肩を叩く。
そんな友人の言葉に、海は「あぁ、」とあいまいに頷きながら前に向き直る。
「……そう、ね」
黒板のあたり、どこか遠い世界の住人のような、彼女を見つめながら。
――――
……
午前の授業をこなして、お昼休み。
「
と友人が手を合わせて申し訳なさそうに去ってしまったので、海には一緒に食べる相手がいない。
「屋上でも行くかな……」
誰を誘うでもなく、鞄を持って立ち上がる海。
こういう時は、たいがい一人。
だから、次の瞬間――
「
とかけられた鈴を転がすような声に――海は目を丸くする。
「いっしょにご飯食べたいんだけど、どお、かな……?」
目の前に立ち、頬をうっすらと朱に染めて提案する明日花。
「……宮坂に癒されたい、的な?」
「はぁ……?」
――やっぱ陽キャは、苦手だ。
顔に上る熱の正体を量りかねて、海は顔を逸らす。
不思議そうに覗き込んでくる明日花の無垢な目線に、妙に心臓が跳ねた。
*
空き教室で待つこと十分。
「おじゃましまーす……」
がら、と扉が開いて、
こちらに気付くと安心したのか、ぱっと微笑んで「やほ♪」と小さく手を振る。
一六四センチの身長にぱっちりした目は大人っぽい印象。
紺色のカーディガン越しにもわかる胸の膨らみと肉感ある太もものラインはとても健康的で、目のやり場に困った。
「こんな場所あったんだ。鍵借りたの?」
「名も知らぬ誰かから、ね」
かつて軽音楽部が使っていたと思われる空き教室。書棚のバンドスコアや
鍵は職員室で管理しているのだが、おそらくは軽音部OBなのだろう。廊下のロッカーに誰かが残していったスペアの合鍵を、海はひっそりと使わせてもらっていた。
「昨日はありがとね。夕ご飯、とってもおいしかった」
フローリングの上にぺたんと座る明日花。
「また来てって母さんも言ってたよ」
「ありがと。すずちゃんにも、よろしく伝えて」
穏やかに告げて、購買のサンドイッチをほおばる明日花。
その言葉からは、かすかな遠慮が感じられた。
「
「北原が誘ってきたんでしょうが」
「な、なんかモーションかけた的な表現でアレじゃない? それ」
頬を赤らめて明日花が
「いいのか? 彼氏に怒られんじゃないの」
「い、いないし! 処女だし!」
「聞いてねえよ!(汗)」
揶揄い半分で尋ねたら、さらにとんでもないことを言ってきた。処女をアピールされて一体どうすればいいのか。
「み、宮坂こそ、どうなのよ?」
「はぁ?」
「だから、その、彼女とか……」
「いないですね(半ギレ)」
「ほんと⁉︎」
「なんで嬉しそうなんだよ‼︎」
身を乗り出して目を輝かせる明日花。
どうせ心の中では『よかったー、宮坂も仲間だね⭐︎』とか思っているに違いない。
ウソでも『いる』って答えておけばよかった……。
心の中で、海は激しく後悔した。
「んふふ、そっかそっかぁ」
海の不満とは裏腹、満足そうにサンドイッチをぱくぱくと食べ始める明日花。
海も弁当を持ち直しておかずへと箸を伸ばす。野菜の肉巻き。
「――ねぇ宮坂、」
「んん?」今度は何だよ、と彼女を見れば。
「こ、ここなら誰も見てないよ? なーんて……」
薄く桃色に染まって、そわそわと。
その口元は、何かを期待していて。
「――はい、あーん」
「あー、ん♡ ――ん……??」
食べたいなら素直にそう言えばいいのに。
「確かに、あーんなんて誰か見てたらできないもんな」
「って
ちなみに明日花は朝がめちゃくちゃに弱いらしい。
「二つも三つも変わらないから、北原の分も作ってくるよ」と提案すると、明日花は「ありがとうございます!」と頭を下げた。
なんだか妹が増えたみたいだ――
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