遺品整理

布団は優しく私を包み込んでくれた。じいちゃんがしたように体を強張らせて縮こまる。もうなにもしたくない。天井の木目をただ眺めた。


「おい手伝ってくれ」


父が私を呼んだ。ノックもせずに勝手に扉を開けて有無を言わせなかったから、私は起き上がって父の手伝いをした。自分の親が死んですぐなのに父は元気だった。


車のトランクや後部座席にも荷物が詰まっている。じいちゃんの遺品だった。


「トランクのこの5箱、お前のだから持って行ってくれ」


私はその箱を持ち上げた時にはもうすでに気付いていた。両腕にずっしりとくる段ボール箱。重心を持っていかれそうになる密度。私用に中身。


自室に運び込んだ箱を前にして私は息をのんだ。車と自室を往復して汗ばんだ体をクーラーの風が冷やしてくれるが、気持ちは昂っている。


ガムテープをはがす。閉じたダンボール箱に手をかけ開く。びっしりと漫画が詰まっている。背表紙にはJCと描かれた漫画たち。


私は結局手に取り読み始めた。


私はチョッパーではなかった。ヒルルクは確かに余命僅かではあったが毒キノコが直接の死因で、私は元々トナカイではない。


しかしやはり虎杖ではあるかもしれない。じいちゃんは一言一句違わず呪術の1巻を再現していた。


ヒロアカはアニメで見ていたより面白かった。線のしっかりした絵で綿密に書き込まれたキャラクターや背景はアニメにはない迫力を作っていた。


気付いたら朝陽が昇るころだった。じいちゃんと一緒に本を読んだことはなかった。いや初めてだった。


じいちゃんはどの作品も最終回を見ずに死んだ。私は最終巻を買って読もうと思った。


柔道の授業が終わってから高橋と漫画の話がしたい。

そうだ、漫画家になろう。誰かの遺言を私も描きたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る