それまんま虎杖とじいちゃんだ
私は高橋にメガネをかけてやろうかと思った。わざわざメガネを買ってきて、嫌がる高橋に無理矢理かけてやろうかと思ったのだ。それでクラスメイトの笑いものにしてやろうかと思った。
「なんで死んだじいちゃんとの思い出を漫画に例えるんだよ」
私はじいちゃんの"最後の言葉"を思い出して冷静に言った。じいちゃんは友達を大事にしろって言っていた。だから真剣に伝わるように冷静に言った。夕日を背景にして後光を背負う高橋は応えた。
「ごめん」
私は高橋の素直さにむかついた。だがまたじいちゃんを思い出して抑えた。
「じいちゃんさ、最後に2人だけで話したいって言ったんだ」
私は自分を落ち着けるためにも、高橋にもじいちゃんの想いが伝わるためにも続けた。
「じいちゃんが最後に2人で話してくれたんだ。病室からうちの両親とか親戚とか全員出て俺とだけ話したいって言ってくれたんだ。2人だけの病室で思い出話してたらじいちゃん咳しながらベットの上で背中向けて縮こまってさ。"オマエは大勢に囲まれて死ね、俺みたいにはなるなよ”って言ったんだ。じいちゃんうちの両親や親せきも側にいるのにそれでも俺みたいになるなって言ったんだ。しかもじいちゃん笑ってたんだ。それがかっこよくてさ」
日は山の稜線に沈みつつあり、高橋の険しい表情をより深刻に見せた。
「でもそれでわからなくなったんだ。じいちゃん寂しかったのかなって。俺って親身になれてたのかなって。そう思ったらさー」
「待ってくれダメだ」
高橋はますます表情を険しくして、また私の向かいの席についた。高橋は席について私と目線を合わせて肩を持ち上げて一呼吸おいた。
「落ち着いて聞いてくれ」
私は固唾を飲んだ。
「呪術の主人公とまったく同じだ。それまんま虎杖とじいちゃんだ」
中ごろで高橋は吹き出した。最後は笑いながら言った。
私は怒っていいのかわからなかった。わなわなと湧き上がるものがあったが、しかしそれを怒りというのかもわからなかった。ただ机の木目にぴったりと掌を押し付けて落ち着きなくさすった。
「ごめん、良くないとは思うんだけど、でも本当に完璧に一緒なんだ。じいちゃん絶対に読んでる。呪術好きだよ。おまえのじいちゃん」
私はすっかり魂が抜けた。ただ高橋の言葉を聞いた。
「それじいちゃんの冗談だったんじゃないか?お前と漫画の話したいのもあってつっこみ待ちだったんじゃないか?お前中学のときじいちゃんとこに泊まりに行った話してたけど、switchできないからってベイブレイド改造して待ってて一緒に遊んでたじゃん。俺めっちゃ笑ったよ。中学で一番笑った。お前のじいちゃん破天荒でおもろいじゃん。だから"いやいやじいちゃん、この状況で漫画再現せんでよ!"が正解だったんじゃないか。-いや正解とかじゃないよな。そうやって心に刻んでも良いんだと思う。素晴らしい言葉だし」
高橋は人のこの間死んだじいちゃんについて好きに語った。真面目に話すふりをしながら、でも口角の上がったまま。しかも最後に下手な思いやりを示して都合の良い帳尻合わせをして罪悪から逃げる高橋を私は睨みつけてから、立ち上がった。
「明日の体育、柔道だ。覚えてろよ」
捨て台詞を吐いた。
「お前は運動部のくせに俺よりやや強いくらいじゃん」
教室の扉を出る背中に的確な煽りを受けた。言い返す気力もなく教室を後にした。力なく帰路に着いた。
もちろん翌日の柔道は高橋と世紀の接戦を演じた。
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