第六話『黒玉』

——ダイナマイトの大爆発の翌日。


 やや湿った土を、シャベルで運ぶ。

 俺は今、地ならしの最中。四つ葉島よつばじまの左上部分、西端の海岸沿いで、砂浜に土を被せ、美しい白を茶色に変えてはそこを平らに踏み固めるという、なんとも地道な作業に従事している。花火の大筒を安定させないといけないから、仕方ない。すぐそばで、夏海さんがせっせと草抜きをしている。地ならしと草抜き。そんなことをするのは、全てMIT院生アダムの指示だ。一応断りを入れておくと、特に、不満はない。

 時折、水平線を見渡す。ルドウィッグさんが言うには、ここからそう遠くない海に、定期的にタンカーが通るらしい。ちょうどそのタイミングで、特大の花火を打ち上げて、遭難信号とする。これは、他でもない花火師の卵アダムによる四つ葉島脱出案だ。

 ルドウィッグさんらサザーニャ族は、島の中央の十字の洞窟を取り戻したことの見返りとして、当面の物資の面倒を見てくれるのみならず、アダムの計画に全面協力してくれている。そういうわけで、ここにちょっとした砲台を建てる許可を得たのだ。サザーニャ族が、話の通じない原始人のような部族でなくて、本当に良かったと思う。

 そろそろ少し疲れ……てはないが、夏海さんがさっきからちょくちょく視線を送ってくるのを感じるので、休憩にしようか。シャベルを地面に置き、振り返る。すると、ちゃらけた花柄の半袖シャツの男の姿があった。アダムだ。

「花火の大きさを決めた。一尺玉だ」

 一尺? 大きいな。

「一尺というと、直径約三〇センチメートル、だよな? なかなかの大玉じゃないのか?」

「ああ。大きい方ではある」

「なら、かなり遠くまで、光は届きそうか?」

「いけると思う。一尺玉の開花直径はおよそ三〇〇メートル。開花高度は三〇〇メートルほど。これなら俺のでは、六五キロメートルほど先まで見えるはずだ。ルドウィッグさんも、それならタンカーに気づいてもらえるんじゃないかって言ってる」

 勘、か。アダムは一人前の工科大院生なんだから、詰めるとこは詰めておきたいところ。

「そうか。花火師の勘ももちろん大事だろうが……ちなみに水平線までの距離を出すのに、地球が球体であることを加味しているか?」

 そう、そこなんだ。港を離れた船は、だんだん沈んでいくように見える。海は平坦でなく、観測者から遠ざかれば遠ざかるほど地球の曲線に沿って沈んでいくのだから、花火だって、想像以上に見づらくなるはずだ。

「もちろん。、加味した」

 直観ねぇ。人の命がかかっているんだ、ここは正確な数値を出した方が…………そうだ、俺は大量殺人未遂犯なんだった。いや、それとこれとは話が違う。状況が変わったんだ。

「念には念を入れて、俺も計算してみよう」

「おいおいハイジャン、MITマクスキ工科大院生の直観を疑うのか?」

「アダム、論文で計算式を扱う時は必ず計算するだろう? それと同じだ」

「んだよ、教授気取りか?」

 そうだ。

「ああ、そう呼んでくれてもいいぞ? さて、水平線までの距離の公式はなんだったかな……」

 えーっと公式は……記憶が曖昧だ。

「公式を使うなんてヤワな真似すんなよ。お前、レエム捜査官なんだろう?」

 一理ある。

「わかった。どうせピタゴラスの定理を応用するだけだ。その気になれば高校生にだってできる」

「へっ、頼むぜ? じゃあ検算よろしく」

 まかせろ。これくらい暗算で十分。


———————————————————————————

【ハイジャンの脳内で検算(スキップ推奨)】

 ※ここでは見やすさを重視し、漢数字ではなくアラビア数字を採用します。


 求めたいのは、花火の開花地点から、水平線までの距離。

 前者をA、後者をBとおいておこう。

 そうすると、知りたいのは「AB」の長さ、ということになる。


 なお、開花した花火と水平線との間には、障害物はないものとする。


 まず、地球を仮に半径6378kmの真球とする。

 地殻表面は、核を原点Oとする円の円周だ。

 円には接していない、円の外側のどこかで、花火が開花する。

 このどこかがAだ。

 花火の開花高度は……さっきハイジャンは300mと言っていたな。

 単位を合わせると、0.3km

 開花高度、つまり地殻表面からAまでの距離をhとおく。

 円の半径は慣例的にrとおく。

 これで「OA=r+h」と表せる。


 次に、花火の開花地点Aからいくらか離れた地殻表面、つまりどこかの円周上に観測者となるタンカーが通る。

 このタンカーの通過点を観測限界ギリギリの水平線とすれば、ここがBだ。

 核からタンカーの通過点までは、イコール地球の半径。

 だからもちろん「OB=r」と表せる。


 そして三点A、B、Oを繋いで三角形ABOとする。

 三角形ABOは、∠ABO=90°の直角三角形。


 ——ピタゴラスの定理により——


 AB^2=OA^2-OB^2

 =(r+h)^2-r^2

 =r^2+2rh+h^2-r^2

 =2rh+h^2


 AB=√2rh+h^2

 =√h(2r+h) 


ここで、これは概算になるが、大気の屈折により六パーセント、遠くまで見えることを加味する。


 AB=1.06√2rh+h^2

 =1.06√h(2r+h) 

 =1.06√0.3(2•6378+0.3)

 =65.57655735…


 ≒66km

———————————————————————————


 ほぉ。四捨五入して、六六キロメートルか。

「答えが出たぞ」

「お、どうだった?」

「ほぼ六五キロメートルだ」

「やっぱり! な、言ったろ?」

「さすがだ。一つ懸念点があるとすれば、果たして六五キロメートル先の、たった直径三〇〇メートルの花火を肉眼で捉えられるのかどうか……」

「いけるさ」

 アダムは、即答だ。

「やけに自信があるな」

「俺が自信を持たないで、誰が持つって言うんだよ」

 なんだ。いつも悪態をついてばっかりだが、たまには良いことを言うじゃないか。

「そうだな。その通りかもしれないな」

 俺はアダムと、グータッチを交わした。

 隣で、俺とアダムの話をつまらなさそうに聞いていた夏海さんが、雑草をプチプチと引き抜きながら、なぜか口をへの字に曲げているが、気にしないでおこう。

「で、火薬はご存知の通りたんまりあるんだが、色は、どうしようか……」

 花火の色。それが炎色反応からきているのはあまりにも有名。俺の個人的な、好みは、紅色べにいろかな。だとすると……

「色か、つまりは金属の炎色反応だよな? ストロンチウムなら、あるぞ?」

「ほう。どこに?」

「ディエット航空六四一〇便の客室の残骸の中だ」

「残骸? ストロンチウムが使われている場所なんて、あったかな……」

「テレビだよ、テレビ」

「テレビ? どういうことだ、詳しく教えろ」

「各座席の背に、ゴツいテレビが埋め込まれていたのを覚えているか?」

「ああ、確かそんなのがあったな」

「あれは液晶じゃない、旧式のカラーテレビだ。カラーテレビのブラウン管には、二次放射線の漏れ出しを防ぐために炭酸ストロンチウムが使われている」

「なるほどそういうことか! ハイジャン、お前やるじゃないか。これで花火は夜空に赤々と打ち上がるぞ!」

「一尺玉の発色火薬を作るのに必要な量を抽出するのは、それなりに時間がかかりそうだけどな」

「そう、時間はかかる。色々とな……」

「花火の完成は、遠そうか?」

「ああ。そう一朝一夕にとはいかない」

「具体的には、どれくらいかかりそうなんだ?」

「まず、花火における全ての火薬の基本要素となる和剤わざいを配合する必要がある。それに一日。次に、和剤から花火の『色』部分のホシを作る。これは、泥団子を作る要領で、乾燥させながら少しずつ雪だるま式に大きくする必要があるから、かなり根気がいる作業だ。一尺玉では一粒二二ミリメートルの星を使う。二十日はかかるだろう。星作りには当然、客室のテレビのブラウン管からの炭酸ストロンチウム回収と濃縮作業も入ってくるわけだから、もう少しかかるな。他のみんなに手伝ってもらおう。そして、花火玉を爆散させて星を飛ばす役割を持つ『割薬わりやく』も必要だ。星作りの合間に、一気に作って乾燥させておく。それから星と割薬を並べていく玉込たまごめ。最後に、既定のサイズまでクラフト紙を乾燥を繰り返しながら貼っていく必要がある。これに一週間。クラフト紙も、どこかから調達しないといけないな。こんな南の島だ、サトウキビがあったはずだから、それからパルプを抽出しよう。全部合わせて……そうだな、一ヶ月は欲しい」

 アダムの顔は、完全に花火師のそれになっている。にしても、一ヶ月もかかるのか。花火作りは、俺が思っていたよりも大変なようだ。他の人間の協力が不可欠になるだろう。

「アダム、必ずしも君自身がやらなくても良い仕事がきっとあるだろうから、そういうのはどんどんこっちに振ってくれ。うまい具合に分業しよう」

「わかった。なら、炭酸ストロンチウムとクラフト紙は、一通り作り方をデモしたら、あとはそっちに任せることにするかな」

「お安いご用だ。じゃあアダム、花火作りは頼んだぞ?」

「任せてくれ。ところで、発射場の地ならしに追加で、あともう一つだけ、頼まれてくれないか?」

 まだ、あったか。この際、なんでも引き受けよう。

「というと?」

「大砲が必要なんだ。それも、発射用火薬五〇〇グラムの爆発の衝撃に耐えうるやつをな」

 なんだって? それが一番、大変じゃあないか。



   ココナッ!→▲▲

______△△______


 

 生存者百二十五人は、サザーニャ族の支援を存分に受けて、順調に花火作りを進めた。俺は、島の中でもとりわけ太い、最大直径五〇センチメートルにもなるココヤシの樹を切り倒して、中をくり抜いて綺麗な筒状に仕上げた。


 そして、今晩。


 あとはこの、工事現場の作業員よろしく、俺とルークさんが担いでいる大筒おおづつを、設置すれば完了だ。口径は、アダムの要望通り正確に三〇三ミリメートル、一尺玉がちょうど入る大きさだ。


「大筒はここに置いてくれ!」

 アダムがそう叫ぶ。

 真剣な声色。

 現場監督みたいだ。


 俺とルークさんは、言われた通りの位置に大砲を立てる。地面から生えた大きな土管。そこには一人の大男が仁王立ちしているのか、と感じるほどで、ルドウィッグさんくらいに威圧感がある。まるでどこかのレトロゲームの世界観だな。アダムは、薄橙うすだいだい色の球を、大事そうに胸に抱えている。かなり重そうだ。八キロあるらしいからな。それは、ココヤシではない。水分のたっぷり入ったココヤシを他人ひと様に見せつけるクソガキは、もういない。正真正銘、一尺の花火玉だ。表面の材質は、味わい深いテクスチャーをしている。島原産のサトウキビの搾りかすを原料にパルプを作って、それをクラフト紙に加工して火薬を包んだようだ。それが火薬の塊のみだった時よりも遥かに大きさが膨れ上がっているように見えるが、一尺、つまり直径約三〇センチメートルのサイズになるまでに、どれほどの枚数を巻いたのだろうか。俺なら、やりたくない。

「アダム、俺が丹精込めて作った大筒の、位置と安定性は問題なさそうか?」

「申し分ない。完成度もな」

 と、花火師のお墨付きである。

「ならよかった。にしてもその一尺玉、こうして見てみると、やっぱり大きいな。気になっていたんだが、それだけのサイズの火薬の塊バクダンを、安全に点火できるのか? こんな原始的で、導火線の短い大砲だと、遠隔点火もできないのに」

「鋭い指摘だねぇ。花火師界隈の常識では、八号、つまりこの一尺玉の一つ下の位までならそれは許される。だがこれは正真正銘一尺玉。筒のこんなにすぐそばで導火線に火をつけるのは、御法度ごはっと中の御法度だ」

「ならどうして、敢えて危険を犯すんだ?」

「スリル依存症ってやつかな?」

「なるほど、そういうことか」

 失礼かもしれないが……なんだかしっくりきたぞ。でもそれは、



   ココナッ!→▲▲

______△△______



 打ち上げの、時が来た。

 日は、とうに西の水平線に沈んだ。

 俺と夏海さんのおかげで見事に真っ平になった、海岸沿い。

 そこに堂々と鎮座する、大筒。


 ルドウィッグさんに肩車されているアダムが、花火玉から、スイカの蔓のように伸びる、釣り手の役目をする綱、『竜頭りゅうず』を持って、導火線を傷つけないようにそうっと筒の中に入れる。

「よし、良い感じ。おろしてくれ」

 アダムは、族長ともあろう相手の髪を取手代わりに掴みながら、地上に舞い戻る。

「じゃあ、ついに点火か。また、みんなで耳を塞ぐ?」

 俺は、思わずニヤけながらそう尋ねる。

 なんというデジャブだろうか。ダイナマイトの時も、アダムが指揮を執って、注意を促していたよな。こんなことが、二度もあるとは。

「いよいよ打ち上げだ! この時を待ち侘びていたんだ、俺は! な、そうだよな! みんな!」

「「お、おー!!」」

 やや、ぎこちなさはあるものの、生存者たちから、サザーニャ族たちから、そこそこの熱気。

「じゃあ、準備はいいな? いくぞ! 四カウントで導火線に着火する。今回もやはり、葉島らしくな。よーん! さーん! にー! いーち! 着火! みんな大筒に背を向けて、姿勢を低くして耳を塞げー!!」


(・、<)—◉………………Π

  アダム


 ジジジ………………


 ジジ…………


 ジ……。


__人人人__

> どかっ? <

 ̄ ̄Y^Y^Y ̄ ̄


 玉は確かに上がった。


 空高く


 一〇〇メートル


 二〇〇メートル


 そして開花高度三〇〇メートル


 が……


 弾けない。


 玉は虚しくも


 静かに道を折り返し


 玉は陸風りくかぜに乗り


 大砲よりもやや海側に落ちた。


〰︎〰︎__ ◯ ボテッ __Π____


「なんてこったー! クロが出たぁ!」

 アダムが悲嘆の声を上げる。

「『クロ』ってなぁに?」

 夏海さんが、無邪気に尋ねる。

黒玉クロダマだよ。上手く点火しなくて、筒の中に残ったり、打ち上がっても開発バクハツしなかった花火玉のことを、そう呼ぶんだ。ああ! きっと火が花火玉の中の割薬まで届いていなかったんだ!!」

 黒玉か。そんなふうに呼ぶんだな。待てよ、中の発色火薬の色は、ストロンチウムだから紅色だよな。黒玉と言えば……俺がハイジャックの時に使った、スイカ爆弾を思い出す。

「ねぇねぇ、万が一、時間差で爆発なんてしたら大変じゃない?」

 夏海さんが不安そうだ。確かに、そうかもしれない!

「俺に任せてくれ!」


 俺は黒玉不発弾へと駆けた。

 爆弾処理は、得意だ。

 失敗したのはつい二ヶ月ほど前。

 操縦室での一回のみ。

 八キログラムもある玉を瞬時に拾い上げる。

 バーテンがお盆を持つように。

 手のひらを仰向けにして。

 玉を乗せると。

 砲丸投げの要領で。 

 暗い海へと放り投げた!!

 めちゃくちゃ飛んだ。


「くそーっ! 俺の……一尺玉が……」

 くずおれるアダム。ごめんな、みんなの安全のためだ。

和剤火薬等混合物は問題なかった。玉込たまごめはいびつな箇所も多かったが基本は抑えていたはず。何がいけないっていうんだ!?」

 アダムが悔しそうに、拳で硬い地面を叩く。

「乾燥が、うまくいっていなかったのかもしれないな。あとはクラフト紙の貼り方。今思い返せば一目見た時、あの花火玉にはところどころ、浮いている箇所があった気がする。隙間があったってことだ。そこから湿気が入って、うまく乾燥しなったのかもしれない……こんな南の島の高温多湿の気候だしな」

 と、俺はつい正直に口走ってしまう。

「素人に何がわかる!」

 と、アダムはかなり感情的だ。

「素人にも、頭を使って推察する権利はある」

「くっ……お前が正しい。欲張って、五枚も六枚もいっぺんに紙を貼ってから乾燥させていたのは確かだ。あれがいけなかったのか……」

 やっぱり花火って難しいんだな。ただ大きな爆発を起こせばいいダイナマイトとは大違い、ということらしい。

「ねぇねぇあれ見て! 何かコンテナみたいなのが流れてきたわ!!」

 夏海さんが、浅瀬を指差す。

 せわしないな。今度は何だ?

 みんなそちらに目を移す。

 視線の先では、いかにも堅牢けんろうそうな箱が、砂浜に座礁ざしょうしていた。そしてコンテナの表面には、このような文字が認められた。



【差出人:ゼイゴ・タラソボ 】



 これは……


 この名を……


 俺は知っているぞ。


 俺は、ずっと彼らを監視していたんだからな。


 他でもない。


 コメット合衆国の仮想敵国メシア連邦を裏で牛耳る真の支配者。


 メシアンマフィアのボスの名だ!!


 だとしたらこれは、俺が探し求めていた……


 に違いない!!


「みんな! これは危険だ! 離れろぉお!!!!」

 これは爆弾そのものではなく、あくまで『燃料』なので、正直そこまで差し迫った危険はないとは思うが。これがやばいブツであることには変わりないので、一般人が無闇に接触するべきではないのだ。


「おいハイジャン! これってひょっとして、お前の言ってたあのブツか? 兵器級核燃料ってやつか!?」

 アダムがやけに興奮気味に、そう尋ねてくる。

「つ、つまりはそういうことだ」

「そうか…………ならこれを、打ち上げようぜ! 花火のかわりによぉ!!」

 アダムがブツの方へと駆けだす!

 なんてこった! さては、魂を込めた打ち上げが失敗に終わったせいで、正気を保てなくなったか!?

「アダムやめておけ! 万が一、燃料が臨界に達していたらどうする? 極めて強力な放射線を浴びるかもしれないぞ!?」

 、そう警告しておく。まぁ、

「うるせぇ! この際、もうなんだっていい! とにかく俺は、打ち上げるんだよぉおおおお!!!!」

 暴走するアダム。

 誰にも止められないし、だろう。彼は、箱に手をかける。そしてその蓋を、いとも簡単に、開けた。その中身は……


 球体。


 薄橙うすだいだい色。


 それも複数。


 十個ある。


 そこそこ大きい。


 それと同じくらいの大きさの玉が海に沈むのを、我々はついさっき目撃している。


 そう。


 不発に終わった一尺玉と外見がよく似ているのだ。


 というよりも……


 ほぼ同じ!?


「おいこれっ! 花火じゃないか! しかも一尺玉だぁああ!! こりゃ、打ち上げるしかねぇ!!」

 歓喜するアダム。

 一方で周りのみんなは、何が起こったのか飲み込めず、困惑している。無理もない。でも、俺はちゃんと、この意味不明の現象を、しっかりと理解できている。もう、アダムを止める必要もない。心ゆくままに、やってくれ。

「アダム、花火ときたな。それなら、手を貸すぞ。打ち上げだ!!」

 俺は、アダムに打ち上げを促す。

「もちろんだとも! じゃあちょいと、肩車をお願いするぜ!」

 アダムは新たな花火玉を一つ拾い上げると、それをまるでラグビーボールのように抱えてスタンバイ。準備は万端のようだ。俺はすぐ、躊躇ためらいなく、アダムを首で持ち上げる。そして大筒のところまで行って、みんなに火薬を詰めるよう指示する。夏海さんはというと、もう何が何だか訳がわからなくなった様子で、おどおどとしている。ごめんな。でもそのうち全てわかるからさ! 手際よく火薬は詰められ、俺の上にいるアダムが、花火玉を再装填そうてんする。

「気を取り直して打ち上げだ! この時を待ち侘びていたんだ、俺は! な、そうだよな! みんな!」

 アダムが威勢よく呼びかける。


「「「「おぉぉぉオオオオ!!!!」」」」

 生存者たちから、サザーニャ族たちから、とてつもない熱気。


「じゃあ、準備はいいな? いくぞ! 四カウントで導火線に着火する。こーんかいもやはり! 葉島らしく、な! よーん! さーん! にー! いーち! 着火! みんな大筒に背を向けて、姿勢を低くして耳を塞げぇええええ!!」


(・、<)—◉…………………………Π

フッカツノアダム


 ジジジジ……………………


 ジジジ………………


 ジジ…………


 ジ……。


 夏海さん、しっかりと見ていてくれよ。この無人島生活……今や有人島生活だが、とにかくこの四つ葉島で、三度目の大爆発。二度あることは、三度ある。



__人人人人人人人__

>   ハンナへ   <

> お誕生日おめでとう<

>  愛しているよ  <

>   パパより   <

 ̄ ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄ ̄



 ついに、打ち上がった。


 真っ赤な花火。


 の、スイカみたいだな。


 メシアンマフィアのボス、ゼイゴ・タラソボから、娘のハンナちゃんへのお祝いの大花火。


 あはははは!


 花火、だってよ。


 ああ、愉快、愉快。


 おい俺、よく考えてみろ。本物の兵器級プルトニウムを運ぶなら、陸路か海路だろう? 飛行機なんてわざわざ使うはずがない。レエム捜査官としたことが……失格だぜ、そりゃ。まぁそもそも、お前には諜報機関の捜査官なんて向いちゃいない。もっと他に、ってもんさ。


〈七話に続く〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る