第20話:創也のクラフトと贈り物

 僕のクラフトの方針は決まった。

 この問題を解決しつつ、最高に楽しいクラフトをつくってやる。

 今回のライバルは先輩たちと言うことになるのだろうか。なんて心躍る展開。

 さて、まずは状況を確認しよう。

 僕は七樹先輩に連絡を取る。すぐに七樹先輩が応答した。

「工桜くん? どうしたの?」

「今どんな状況ですか?」

 少し間があった。

「状況は膠着中という感じ。今、私と部長で空間の穴を塞ぐクラフトを作成中」

「そんなことできるんですか」

「ええ、空間を縫い付けることができる贈り物マテリアルの糸があるの。『空間連結ライン』っていう二点間の空間を糸で接続する。それを空にくさびを打つ『スカイアンカー』で結びつけて空間を閉じてしまおうって言う作戦。今は、アンカーを射出するクラフトとラインを巻き取るクラフトを作成中」

 とんでもないことをあっさり実行する人たちだ。ひょっとして僕の出番は無いか?

「それなら、もう問題解決ですか?」

「ならいいんだけど、穴から出てくる異世界生物が全力で邪魔してくるのよ。あれをなんとかしないとそもそもラインが打ち込めないの。そっちまでは手が回って無くて……」

 僕は決意を固めて告げる。

「なら、そっちを押し戻すのは僕がやります。とっておきのアイデアがあります」

「……ほんとなの?」

「ええ、いけると思います」

 また間があった。次の声はハヤテ先輩のものだった。

「オレは関わらなくてもいいって言ったよね? どうしてつくろうとしてるの?」

 ハヤテ先輩の声は厳しい。しかし、あえて僕は明るい声で答える。

「思いついちゃったんですよね。この状況を解決できる面白そうなクラフト。きっとつくったら楽しくて、使ったらもっと楽しくなると思いました。手伝うとかじゃなくて、単に僕がやりたくなっちゃったんです。原因つくった謝罪とかはあとでまあ」

 そう言った後、何か息が漏れるような音が聞こえた。

 それは次第に大きくなり、はっきり聞こえるものになった。ハヤテ先輩は笑っていた。

「ははははは! なるほど、やりたくなったからか! いいね、好きだなあそういうの。答えが見つかったんだね?」

「ええ、わかりました。僕のクラフトが」

「よし、ならそっちは君に任せよう。オレたちは空間の穴を塞ぐ方に全力を注ぐ。工桜くんのはどれくらいでできる?」

「1時間でなんとか」

「オッケー、それまでは何とかしよう。後は任せた」

「いいクラフト、お見せします」

「楽しみにしてるよ。それじゃ」

 そう言って通話は切れた。


 さあ、やろう。時間は短いけど、大丈夫。

 このクラフトは楽しいものになる。

「今のは御造たちだな? あいつらはもうクラフトに入っていたか、ならば俺もこうしてはいられん。とりかからねば」

「待ってください根方先輩」

 きびすを返してクラフト部を出て行こうとする根方先輩を、僕は呼び止めた。

「なんだ新人。俺は聞いての通り暇ではないぞ」

「僕のクラフト手伝ってください。アイデアはあるんですが、一人では手が足りません」

「は? なんで俺がお前の手伝いをしなくてはならんのだ」

「この前の勝負の時の約束を」

「なに?」

「クラフト部が勝ったら、一つ何でも言うことを聞いてくれるって言いましたよね?」

「ぐぬ!」

 痛いところを突かれたという顔をしている。

「その権利をここで行使します。僕のクラフトを手伝ってください。条件のことが無くても、今、僕のアイデアを実現できるスキルのある人が、根方先輩しかいないんです」

「……しかたない。約束を破るような馬鹿なまねはしない。今回だけは手伝ってやろう」

 なんだかんだといいながら、持ち上げる言い方をしたのが少しうれしかったようだ。狙ってないと言えば嘘になるけど、こうなるんじゃないかなあという予感はあった。

「で、何をつくる」

「穴を塞ぐのは先輩たちがやります。僕は異世界から出てこようとしている、あの何かを押し戻します」

「とはいえ、みたところとてつもないでかさのようだったぞ。生半可なことでは押し戻せまい。それにはるか高くに穴はある。どうやって押し戻す?」

 もっともな質問だ。

「爆弾みたいなものを使って力業でやれば早いかもしれませんが、ここにはそんなものはありません。なので違う方法をとります」

「いきなり物騒なことを言うな、新人。お前意外とこわいな。さておきその方法とは?」

「火薬ロケットって、つくるか遊んだことあります?」

「馬鹿にするな、子供の頃に一度はやるやつだろうが」

「あれを応用します。威力を高めたロケットを直接ぶつけて穴の向こう側に落とします」

「浅はかだな。そんなものをぶつけたくらいで押し戻せる感じでは無いぞ」

「ええ、普通ならそうでしょう。それに相手の力も読めないから計算が立たない。だったら計算しないでも行けるクラフトにしましょう。せっかくの機会です。存分に贈り物マテリアルの力を使います。興味ありません?」

「……く、弱いところを」

 贈り物マテリアルをクラフトに使うのは今のところクラフト部だけの特権だ。解放戦線もとい工作部の根方先輩は扱ったことが無いだろうし、こんな勝負を日々やってくるくらいだ。興味も人一倍だろう。

「先輩には、発射台の基本造形をお願いします。特大のロケットがセットできるやつを。できれば狙いを正確につけられるようなものがいいです。できますか?」

「なめるなよ新人。俺の工作技術を見せてくれる!」

 頼もしさを感じる。みんなでクラフトをつくれるというのがこんなに楽しいとは。

 ……まあ、本当は先輩方とやりたかったところだけど、それはまたいずれのお楽しみ。

「で、新人。お前は何をする?」

「僕は相手にぶつけるロケット側と、今回の肝になるギミックを仕込みます。材料はここにあるものを何でも使ってください」

「了解した。早速かかるとしよう」

「よろしくお願いします!」


 僕の全体構想図を元に、根方先輩が設計をつくる。その早さと精確さは驚くほどだった。濃い性格のせいで低く見ていたが本当にすごい人だったとは。

 そしてこれに全勝のハヤテ先輩のすごさを思い知る。

 さて、時間が無い。必要なのは2つの贈り物マテリアル

 在庫が十分にあったことは確認している。

 できあがりを想像して、そして動いたときの面白さを想像して僕は微笑む。

 楽しい。なんて楽しいんだろう。

 僕が忘れていたこと、求めていたこと、それがここにあった。

 つくる楽しさ、そしてつくったものを見てもらう喜び。

 この自由こそが、最高のクラフトへ至る道だ。

 これでクラフト部の本当の仲間になれたなら、どれだけ楽しいことになるのだろう。それを思うとにやける自分がいる。

 だけど、まずは目の前のクラフトに集中だ。

 これは、おそらく本当の意味で初めて取り組む、真の工桜創也のクラフトだった。

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