第4章\幻想学園大混乱!

第15話:ついに最後の試練 自分のクラフトと向き合え!

 時計の音すら聞こえそうな、静かな部室。

 ハヤテ先輩と七樹先輩は、贈り物マテリアル採集に向かっていた。

 僕はだれもいない部室の中で一人、万華鏡をのぞいていた。

 万華鏡の中には星空のような景色がきらめいている。

 くるりと回すと別の星空、また回すと別の星空。

 中に仕込んだ様々な色のライトが転がり、鏡映しの世界の中に決して同じにはならない光景を描き出す。

 そんな中に、回しもしないのに動く、流れ星のような光が一つ。この前捕まえた贈り物マテリアルだ。

 七樹先輩の命名により『星の子』と名付けられたこの素材は、光を求めてこの小さな筒の世界で空を駆けている。

 他の光を追いかけて飛行し、光を捕まえるとそのエネルギーをため込んで加速と破壊力アップにつながるという、結構危ない贈り物マテリアルだ。

 他の贈り物マテリアルと違い、放っておくと動き回って危ないので、結局『星の子』は万華鏡の中に閉じ込めて保存することになっていた。

 どうせならということで、捕獲用の大きい筒から小さい筒でつくり直した『ミニ迷宮万華鏡』は、部員のいい遊び道具として楽しまれていた。

 自分が造ったクラフトが、人に喜んでもらえるというのは素敵だ。

 うれしくもあるし、もっといい作品へのモチベーションにもなる。

 ……もっといい作品。それが今、頭を悩ませていた。

 ハヤテ先輩から最後の課題を突きつけられ、そのアイデアを連日必死で絞り出しているのだった。


 ある日の部活で僕が部室に入るなり、ハヤテ先輩がこう告げた。

「さあ、工桜くん。ここまでよく頑張ったね。ついに最後の課題だよ」

「あ、えと、ありがとうございます」

「最後の課題では、君の全力を見せてもらう。その課題とは……」

 ハヤテ先輩が妙なタメをつくる。変な演出に凝る人だということはもう理解している。

 僕はドキドキしながら課題を待つ。

贈り物マテリアルを使った君の思う『最高のクラフト』をつくることだ。期限は一ヶ月。必ずクラフトの中に贈り物マテリアルを組み込むこと。この部室にある全ての贈り物マテリアルを使ってもいいものとするよ」

「最高のクラフト、ですか……これまでと違ってずいぶん抽象的な感じですね。また難易度の高い贈り物マテリアルの捕獲でもするのかと思っていました」

「ここは贈り物マテリアル問題を解決する部でもあるけど、本質はクラフト部なのにかわりはないんだ。だから最後に見たいのは、君のクラフトとの向き合い方なのさ」

「向き合い方、ですか」

「ああ、君がクラフトをどう考え、どんなものを目指し、描くクラフトのために、材料をどう選び、どう工程を引き、何を作り上げるのか。その全ての過程が見たい。オレたちクラフト部のメンバーとともに高めあっていけるのか。それすなわち、君そのものの資質を見るということでもある」

 僕は思わずごくりとつばを飲む。この課題の重さが理解できた。

「この課題の間、しばらくは贈り物マテリアル問題の方はスルーしてかまわない。そっちはオレと七樹くんでなんとかするからね。工桜くんは最後の課題に全力を尽くしてほしい。どうだい、やれるかい?」

 挑戦的なハヤテ先輩の言葉。答えなんて決まっている。

「もちろんです。是非挑戦させてください」

「オッケーだ。それじゃこの最後の課題で、工桜くんのクラフト見せてもらうよ」


 という流れがあったのが一週間前。

 具体的なアイデアがまるで固まらないでいた。

 『自分が思う最高のクラフト』か、しかも贈り物マテリアルは必ず使うときた。

 そもそも、僕は贈り物マテリアルを使ったクラフトがしたくてここに入学した。

 だからこの課題は、僕としても願っていた展開のはずなんだ。

 でも、アイデアが出てこない。

 実のところ、クラフトネタならいくらでも思い浮かぶし、あれが楽しそう、これをつくると受けるんじゃないかというところまでは考えつくのだけど、最高のクラフトかというと違うような気がしている。

 ボクがつくるべきクラフトとは何なのか?

 その答えが見つからないから、方向性が絞りきれないでいた。

 こんなにクラフトに悩んだことは、過去無かったような気がする。


 ……いや、あったか。

 僕がこのクラフト部を目指すようになったきっかけのクラフト。今でも苦い思い出とともに、あの光景がフラッシュバックする。

 あれは僕がまだ小学生だった頃。

 その頃から僕はクラフトが大好きで、暇さえあれば何かをつくっていた。

 材料は何でもよかった。折り紙・画用紙、余った木材、紙パック、布、プラ板。

 時には、鉛筆や消しゴムなんていう、普段の道具を素材にして怒られたことなんてのも、両手じゃ足りない。

 クラフトが大好きで、技術も発想も自信があった。つくった作品はいつもみんなからほめられていたし、それを当然と思っていた。

 そんなとある図工の時間。クラスのみんなで一つのものをつくろうというテーマが僕らに与えられた。クラスごとに制作をおこない展示されるというものだったと思う。

 何をつくるかはみんなで決めることになっていた。

 僕はもちろん張り切り、つくるものは僕が考えると宣言した。みんなも任せてくれることになった。

 そして一晩考えぬいたアイデアをクラスのみんなにみせたとき、帰ってきた言葉は僕の想像とは違っていた。


「工桜、あのさ。こんなのつくれないよ」

「みんながあなたくらい上手なわけじゃないのよ」

「うまいからって調子に乗るなよな」

「そもそも、こんなに面倒なものつくる必要ないじゃん」


 落ち込んだ。次の日はじめて仮病で学校を休んだ。

 こんな簡単なことを考えてもいなかったのだ。

 みんながクラフトを得意なわけじゃない。

 みんながクラフトが好きなわけじゃない。

 クラフト自慢しがちな僕が、鼻についているクラスメイトもたくさんいたんだろう。

 得意な人間がいるから、任せてしまおうと思っていた人もいたんだろう。

 そんな中に僕は、自分だけが楽しいアイデアを提案してしまったんだ。

 恥ずかしかった。逃げたかった。やめてしまいたかった。

 でもクラフトから逃げることだけはできなくて、みんなができるものを必死で考えた。楽しさを考えることを忘れて、完成させることだけを考えたそんなクラフトだった。

 何をつくったのかは覚えていない。

 それきり僕は、人の前でクラフトをやることをやめた。

 一人きりでつくるクラフトも楽しい。

 考えることも楽しいし、つくることも楽しいし、できあがったものを見るのも楽しい。不出来なところの改善案を考えるのも楽しい。

 でも、一人でつくることに、どこかもやもやしたものを感じている自分がいた。

 そんなとき、クラフトの大会の動画でみたのが幻都総合学園クラフト部。要はクラフト部の先輩たち。

 先輩たちは、自分よりも遙かに上のレベルのクラフトをつくっていた。

 なによりも楽しそうだった。

 涙が出たし、心が震えた。求めていたのは、これだと思ったのだ。

 自分と同等以上の人たちと、技術や発想を磨き合える環境。いっしょに高め合えるクラフト好きの仲間。

 普通には触れられない、異世界の素材でクラフトの世界を広げることもできる環境。

 このいきづまったクラフトを変えるには、ここしか無いと思ったんだ。


 今の状況はあのときに似ているなと思った。正直思い出したくも無かったあの時と。

 ふと暗さを感じて、万華鏡を置いて窓の外を見た。

 いつの間にが雨が降っていたようだ。沈んだ今の気分を表しているようだと思った。

 今日はもう帰ろう。

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