第14話:対決の決着は?

 七樹先輩によると、ターゲットは、一つ下の階で暴れているらしい。

 クラフトに時間がかかった割に、外に出ていないのはなぜだろうと不思議だったが、すぐに理由はわかった。

 根方先輩が暴れている。

 手には、根方先輩のクラフト?だろう薄い銀色のシートを網状に組んだ、言うなれば虫取り網みたいなものを振り回していた。網の中心には電球のようなものが光っている。

 根方先輩も光に寄せられることと、光が鏡で跳ね返ることには気づいていたのだろう。あれならうまくいけば虫のように捕まえることは出来るかもしれないし、なにより作る時間が遙かに短くて済む。

 単純だがいいアイデアかもしれない。捕獲が人力まかせなことをのぞけば。

 なんにせよ根方先輩の捕り物劇のおかげで、ターゲットが部室棟から外に出ることは無かったというわけだ。

 クラフト速度的にはあぶないところだったから、結果的にありがたい。

 さて、間に合ったからには僕の番だ。

「根方先輩、僕も参加させてもらいますよ!」

「来たかクラフト部! 君の出番などないぞ、俺がこいつをつかまえてやるからな!」

 根方先輩が網をぶんぶんと振り回しながら、こちらもみないで大声を出している。

 周りを光が飛び回っていて、なんだかハチを追いかけているみたいだ。

 急がないと、うっかり先に獲られてしまう可能性もあるので準備を急ぐ。

 抱えるように持ってきた『迷宮万華鏡』。

 設計も組み立ても仕掛けも細心の注意を払った。あとはうまくいくことを祈るのみ。

 一発きりの勝負になる可能性が高い。

 僕は『迷宮万華鏡』の筒のふたを開け、ターゲットに向ける。そして底に設置した『蓄光水晶』に向かって勢いよく別に持ってきていた金属球をたたきつけた。

 その瞬間、筒の中から強烈な光が漏れる。

「うおっ」根方先輩の声が聞こえた。

 事前に可能な限り『蓄光水晶』に光をためてきたのだ。

 衝撃を与えた瞬間に、カメラのフラッシュより遙かに強力に発光したことだろう。

 光に反応するターゲットが気づかないわけがない。根方先輩とたわむれていた贈り物マテリアルは、急速に方向を変えこちらに突進してきた。

 さあ、ここが勝負。

 怖い気持ちを抑えて、万華鏡の筒をターゲットに向け続ける。光は底で発光した。光は万華鏡の筒をめがけて入ってくれるはず。

 相当エネルギーをためたと思われるターゲットが、すごいスピードでやってくる。

 目を閉じないので必死だ。筒もぶれないように全力で抱える。

 景色がスローに思えた。光が迫る。

 万華鏡に突撃してくる。僕は入れ!と強く念じながら構えた。

 強い衝撃を感じた。吹き飛ばされないようしっかりと抱える。

「入った!」

 ターゲットが『迷宮万華鏡』に入った野を確認して、僕はすかさずふたを閉めた。

 ……やった。なんとか捕獲に成功したことで僕は興奮状態。

 だが問題はこの次。捕獲し続けられるのか。


「お、やるじゃないか」

 というハヤテ先輩の声が聞こえた。

 抱えた筒の中で衝撃が伝わる。中はみえないが鏡に反射しているのだろう。今のところ破壊される気配はない。

 しばらくゴンゴンと音がする。それと同時に光が中から漏れてくるのがわかる。

 しばらくすると、次第にその音が弱くなっていった。

 ゴンゴンから、コンと言った軽い感じになり、最終的には軽い打音のみになった。どうやら成功したようだ。

「ふう……、なんとかうまくいきました」

「捕獲成功ってことかな?」

 ハヤテ先輩と七樹先輩が近寄ってきた。

「おいクラフト部! 俺が捕まえようとしていた贈り物マテリアルを横取りか! ずるいぞきさまら!」

 根方先輩が怒鳴り込んできた。勝負なんだし、別にずるじゃ無いと思うけど。

「クラフト勝負なんだから、最終的につくったものでとらえたらそれで勝ちだろ。勝ち負けに文句つけたいの?」

「……ぐぬ、悔しいが、その通りだ。今回はおまえらの勝ちを認める。次は勝つぞ!」

 心底悔しそうだったけど、負けを認める辺り公平ではあるんだなと感心した。きっと根は真面目なんだろうなあ。

「と言うことは、今回の条件である、言うことを聞いてもらう権利はこちらが獲得だね」

「……ぐぐぐ、仕方ないが、いつでも権利を行使するといい」

「ま、今は思いつかないからそのうちね。面白いの考えておく」

「貴様が考えると、ろくな目に遭いそうに無いな……」

 根方先輩が落ち込んでいるのが、少しだけ同情心をあおる。

「さて、あれだけのエネルギーの贈り物マテリアルどうやって捕まえたんだい?」

 ハヤテ先輩が話題を変える。

「これさっき見せたとおり普通の万華鏡なんですけど、底とふたに工夫があるんです」

「へえ、どんな仕掛けを?」

「底とふたには蓄光水晶のプレートを仕込んでいます。最初の発光もこの仕掛けで、まずは誘導に使いました」

「まずは? と言うことはその後の仕掛けにも使ったのね」

「はい、七樹先輩その通りです。『蓄光水晶』は光をためる性質があるので、ターゲットがぶつかる度に光をどんどんと吸収していくんですよね。それで時間が経つと、エネルギーを失った贈り物マテリアルが残るという」

「ふうん、なるほど考えたね。ベースは普通のクラフトで。捕獲とターゲットを抑えるのに贈り物マテリアルを使ったって訳か。ただ反射させるだけじゃ無くて、うまく上下にも反射させる角度調整が重要だね」

「微調整にかなり気を遣いました……。つかまえても暴れまくってたら意味無いんで」

「その通りだね。技術力もここできちんと示したと言うことか。やるじゃないか。ところでこれ、もう安全になったと思っていいのかな? 中見られる?」

 ハヤテ先輩がのぞき込んでくる。

「ええ、もちろん。万華鏡で中を見られないのは面白くないですからね。ふたは『蓄光水晶』性の窓が付いてます」

「へえ、どれどれ」

 僕が最初に見たかったのだが、まあしょうがない。

 万華鏡は捕獲メインでかなり大きくつくっているので、見づらいと思うがゆるしてもらうとしよう。

 ハヤテ先輩はしばらくのぞき込んで、筒を回していた。

「なるほど。こう言う贈り物マテリアルだったのか。工桜くんも見てごらん」

「はい」

 僕は『迷宮万華鏡』を受け取ると、中をのぞき込む。

「わあ……」

 思わず声が出た。

 中には星の世界が展開されていた。

 どうやら今回のターゲットは、星の形をした光の石のようなものだったらしい。それがまるで流星のように尾を引きながら中を走り回っている。

 光エネルギーは大分失ったようだけど、それでもまだうっすらと、そして色を微妙に変化させながら鏡に反射して飛んでいる。

 元々設置していたLEDの光とあいまって、まるで小さな銀河のようだった。

「私にも見せてよ」

 七樹先輩にも見てもらう。

「うん、素敵ね。私これ好きよ。この贈り物マテリアルもいろんなことに使えそうで夢が広がるわ」

 賞賛の言葉をいただけた。

「俺にも見せろ」

 根方先輩にも渡すと「おお……」と言いながら黙ってしまった。感動しているようだ。 無言で僕に万華鏡を返してきた。

「今日のところは新人の勝ちと言うことでいい! なかなかやるようだが、次はこうはいかないから覚悟しておけ」

 根方先輩はお決まりのセリフを吐くと、廊下の向こうに去って行った。自分の部室に帰ったのだろうか。


 そうだ、重要なことを忘れていた。

「ハヤテ先輩。今回の課題はクリアですか?」

 緊張しながら聞く。僕にとって重要なのは課題のクリアで、対決はどうでもよかった。

「正直危なっかしいところはあったなあ。情報量も足りてないし、なにより確実性にやや欠ける判断だったと思う。君の体力で外したら次がないだろう、それ」

「……はい、その通りです」

「だけど、簡単な造りに見せかけて細かい細工が施されていたり、鏡の調整や『蓄光水晶』の加工も悪くない。技術力的には問題なかった」

「ということは」

「まあ、第2の課題はクリアでいいんじゃないかな」

「やった!」

 僕は廊下で思わず叫んでしまった。

 憧れのクラフト部正式入部まで、残るはあと一つ。

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