第12話:つづいて第2の試練 部室棟の現象を解決せよ!


「馬鹿にしているのか御造! 新人ごときが俺に勝てるとでも!?」

「うちの新人くんをなめてもらっちゃ困るよ。なにせ、入部試験に通った子だからね」

「くっ、なるほど。即戦力と言うことか」

 なんだか、当事者のはずの僕を完全にスルーして、話が進んでいる気がする。あまりの勢いに僕は口を挟めないでいた。というか、はさんだが最後、巻き込まれるのが決定してしまいそうで怖くてしゃべれなかった。

 ……まあ、きっと何を言っても結果変わらないんだろうけど。

「ならばよかろう。その思い上がり叩き潰してくれる! 我々解放戦線が勝った場合は、贈り物マテリアルは我々のものだ!」

「相変わらずうちに何のメリットもない提案よね。どのみち解決依頼は来るからやらなくちゃならないんだけど」

 ハヤテ先輩と根方先輩の盛り上がりを、七樹先輩は冷めた目で見ていた。

 きっといつもこうなのだろう。

「七樹くんの言うことももっともだ。今回は新人が出ると言うことで、代わりにクラフト部が勝ったら一つ言うことを聞いてもらうってのはどうかな?」

「よかろう、ハンデ戦と言うことだな。負けたらどんな頼み事でも聞いてやる! 新人風情が勝てるならな!」

「ちなみに、過去どれくらいこんなことやってるんですか?」

 ハヤテ先輩と根方先輩は、他の全てを忘れて盛り上がっているようだ。

 なんだかいたたまれなくなってきた僕は、七樹先輩と話をすることにした。

「この一年で、毎月一度はやってるわね」

「戦績は?」

「うちの全勝」

「それでも、やるのすごいですね」

「根性だけは認めるわ」

 それだけ執着がすごいのは、根方先輩がクラフト部に落ちたからなのか、それとも御造先輩へのライバル心なのか。


「あ、話がまとまったみたいね」

 七樹先輩の言葉に二人を見ると、なんだかがっちり握手をしている。

 実は仲いいんじゃないだろうか、この二人。

 根方先輩が僕を見た。

「工桜とか言ったな。これから贈り物マテリアルの捕獲勝負だ。後輩が相手だからと言って手加減する気は一切無いのでそのつもりでな」

「いや、あの、僕承諾してないんですけど……」

「クラフト部にただ一人通った、新人の実力見せてもらおうじゃないか!」

 僕は七樹先輩の方を見る。今となっては七樹先輩だけが味方のような気になってくる。

「何を言っても無駄よ。ああなった根方さんは止まらないし、なんだかんだ言って部長も止めないもの。勝負好きなのよね、あの人」

 頭を抱える。どうやらやるしかないみたいだ。

「じゃ、始めようか。クラフト部対工作部。勝負開始!」

 ハヤテ先輩の号令がひびく。

贈り物マテリアル解放戦線だというに! まあいい、それでは開始だ!」

 言うが速いか、根方先輩は部室を出ていく。

 どうすべきか一瞬迷ったけど、僕も後を追うように部室を出た。

 少し先の方から、なにかの衝突音が聞こえてくる。どうやら対象はまだこの階にいるみたいだ。音の方に走って後を追いかける。廊下を進み角を右に曲がる。

 その先に光が高速で飛んでいるのが見えた。まるでピンボールのようにあちこちぶつかりながら飛び続けている。

 このスピードの物体をつかまえるとか、贈り物マテリアルじゃなくても厳しい。

 ぶつかった先で反射したかと思うと、急に空中で方向を変えて方向性が読めない。

 見ると少し先に根方先輩がいて、光にぶつかりそうになっては「うおう!」とか驚きながら必死でよけている。

 とりあえず僕よりは運動神経が良さそうだが、それでも結構ギリギリだ。僕じゃよけられそうにない。

 根方先輩は策があって飛び込んでいるのかと思ったが、どうやら何もないみたいで、やみくもに近づいて捕まえようとしては、からぶって、ぶつかりそうになって、あわてて逃げるを繰り返している。

 ……いや、あの、これクラフト勝負ですよね?

 ただ捕まえようとしてどうするんですか。

 と心に思ったつもりが、どうも声に出ていたらしい。

「調子に乗るな新人! 俺は今、こうして自ら身を切ってこいつの特徴を調べていたところだ。経験の浅いおまえには高度な技術はわかるまい!」

 と遠くから吠えている。

 いや確かにわからないし、まねできないし、したくない。

 僕は遠くから、ありがたく観察させてもらうことにする。スマホのカメラを起動し動画をとる。ついでに写真に収めようとした。

 カメラの設定をミスっていたのか、フラッシュが光ってしまった。

 光が軌道を変えてこちらに向かって突き進んでくる。こっちの存在に気づいたのか?

「うわあ! ちょっと待って!」

 あわてて僕は光の進路から大きくよける。その拍子にスマホを落としてしまった。

 伏せて目を閉じる。衝撃を覚悟したが、特に何も無く、バンっという大きな音がした。続いてバリンと何かが壊れるような音がした。

 恐る恐る目を開けると、僕のスマホに光が当たったらしく弾き飛ばされている。あまり考えたくないが、壊れてしまったかもしれない。

 割れる音の方は、壁にある消火器具の赤いランプが割れた音だったようだ。

 光は少し遠くの方に去っている。やはりあちこちにぶつかっているようで、廊下の照明も壊されて辺りは暗くなっていた。

 冷や汗をかいた。あのスピードでぶつかられたら痛いじゃすまない。

 あんなに速いものをどう捕まえろと……。

 「ふむ、見えたぞ攻略法が! ははは、今回は私の勝ちのようだな。新人などを勝負に出した御造をうらむがいい。俺は、捕獲のクラフトをつくりに戻るぞ。さらばだ」

 そういって、根方先輩は階段から風のように去っていった。工作部の部室の場所は知らないが、多分別の階なのだろう。

 残された僕は少しぼうっとしていたが、いったん対策を練るべく部室に戻ることにした


「おかえり、どうだい?」

 ハヤテ先輩が迎えてくれる。

「実物を見てみたけど、ちょっと攻略方法が見えません。まずは情報整理します」

 落ち着くために作業用の椅子に座り、目を閉じる。

 どこから考えるべきか。

 まず、相手はどう考えても光を主体とした属性の贈り物マテリアル

 ぶつかって破壊しているところから実体はあるようだ。

 そして、浮遊というか飛行していてかつ高速。普通にとらえるのは困難だ。

 なにか追い込むか引き込むか、どちらかの形で確実にとらえる必要がある。

 気になるのは、僕が見ているだけの時は襲われなかったのに、フラッシュが光った瞬間こちらにきたこと。生きものの動きに反応するなら、もっと早く見つかったはず。フラッシュがトリガーになったのは間違いなさそうに思える。

 そして気になったのは破壊の跡。

 最初は気にしていなかったが、照明や消火設備のランプなど灯りが破壊されていることが多いような気がする。

 ……ひょっとして光に向かう性質か? 光を探して動くのだとすれば誘導が可能だ。

 そして、もう一点気になったこと。どうも徐々に破壊力が上がっている気がする。ひょっとして灯りにぶつかる度にエネルギーを増しているのではないか。

 ここまでわかれば、後は捕獲の方法だ。

 あれだけの破壊力を閉じ込めるのはどうすべきか。

 頑丈な箱に入れたくらいでなんとかなるのか。壁にも穴を開けているくらいだ。この後のことを考えると少しくらいの強度では怪しい。確実にかつ安全に確保する方法は……。

 ああ、そうか……。つくるべきクラフトがわかった。

 必要なのはあの素材と、あの道具。そして何より精密な加工だ。

 求められるのは、僕の技術力と、根方先輩の発想と工作速度に負けないスピードだ。

 必要な発想と完成像は得た。

 あとは工桜創也のクラフトだ。

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