第11話:贈り物解放戦線との出会い

「おー、いいね。きたよ面倒ごとが」

 ハヤテ先輩の口調はのんきだが、ストレートに失礼だった。

「面倒ごととは何事だ! 相変わらず無礼なやつだな御造!」

「じゃあ、トラブル発生器」

「物騒な呼び名をやめろ! 俺には根方作人ねかたさくとという立派な名がある!」

 よくわからないやりとりが展開されているが、この人は何をしに来たのか。

「ハヤテ先輩、あの人とは知り合いですか? なんとなく親しげですけど」 

「彼は工作部長の根方くん。一応同級生。いつも面倒ごとを持ってくる困ったちゃんさ」

「工作部? クラフト部とは別なんですか? 活動内容が思い切りかぶっているような」

「この学園は部活の立ち上げは自由だからね。根方くんは僕の代のクラフト部の入部試験に落ちてね、自分で部活立ち上げたんだ。それ以来、なんか目の敵にされてて」

「へえ、先輩の時もいろいろあったんですね」

 そんな経緯があったとは。クラフト部のことは入学前から知っていたし、全国的にも有名だけど、工作部なんてものがあったとは知らなかった。

「御造、俺を無視するな! それに工作部は世を忍ぶ仮の姿だ。真の名前は『贈り物マテリアル解放戦線』だ。おまえらクラフト部が独占する贈り物マテリアル

解放し、皆が自由に扱えるようにするための正義の団体だ!」

 こちらにびしっと指を突きつけた、大仰なポーズで宣言する根方先輩。

 それにしても贈り物マテリアル解放戦線とは……。

「先輩、なんかちょっと痛い名称ですね」

「よく気づいたね工桜くん、気づいてないのは彼だけだ。ちなみに学園への登録はもちろん『工作部』の方ね」

「ですよね。さっきのなんとか戦線じゃ、さすがに通らないでしょうし」

「……根方さんくるとうるさいから嫌なのよね。クラフトに集中できなくて」

 七樹先輩はうんざり顔だ。

「だから、俺を無視するなといっているだろ! ……っておや、そういえば一人多いな」

 根方先輩は、ようやく僕の存在に気づいたようだ。

「そこの君、君は誰だ。みたところ新入生のようだが、まさか……」

「えっと、あの工桜創也。新入生です。一応クラフト部の新入部員です」

「まだ、仮入部ね」

 僕の自己紹介にハヤテ先輩が心痛いツッコミを入れる。

「しん、にゅう、ぶいんだと!」

「えっと、まあ、暫定ですけど」

「うらやま……いや、けしからん! こんな悪徳の部活動に身を浸すなど、言語道断!」

 キャラクター濃いなあ……。ちょっと消化しきれない。

「で、ミスター面倒ごとくん。一体今日は何しにきたんだい。まあ、想像は付くけど」

「もちろん対決だ! 勝負に勝ったら、クラフト部が独占している贈り物マテリアルの使用権を渡してもらう!」

「独占してる……ですか」

「その通り。歴史的経緯だかなんだか知らんが、クラフト部は集めた贈り物マテリアルの独占所有権を認められている。贈り物マテリアルは本来、みんなで平等に使うべきものだ。クラフト部が独占していいものではない!」

 なるほど芝居がかった物言いはあれだけど、言っていることの筋は通っている。

「で、先輩。実際のところはどうなんですか?」

「この前も説明したよね。贈り物マテリアルの一部は危険性が高いものも多いから、危ないものは基本生徒には触れられないように管理されてるって」

「そうですね。先輩の説明でも聞きましたし、クラスガイダンスでも言われました」

「ただ、うちの場合は、事件解決の見返りと過去の贈り物マテリアルを扱った実績で、部活で使うことを許可されてるわけ」

「なるほど、この部はちょっと特別なんですね」

「まあ、そういうこと」

 あらためて、クラフト部は特殊な環境なんだなあと思い知らされる。まあ、この前の課題みたいな目にあっているとその特権もありかもと思えてくる。


「そこだ!」

 根方先輩が大声を出す。

「どこ?」

「なんと理由をつけようと、おまえらが特権をもっているのは事実! 事件が解決できるなら、我々解放戦線でも扱う資格があるはずだ! だいたいクラフト部が、我々よりほんの少しばかり目立ったり実績出してるのも、贈り物マテリアルのおかげだ。その偉そうな振る舞い我慢ならん」

「と、ここまでが大体いつものやりとりね」

「先輩たちも大変なんですね……」

 さすがに同情する。こんな面倒な会話、毎回やっているのか。

「で、そろそろ本題に入ってくれるかしら。根方さんがきたってことは、またどこかで事件が起きてるんでしょ?」

 七樹先輩がしびれを切らして割り込む。心底げんなりした顔をしている。

「その通り。新たな贈り物マテリアルが出現している」

「今日はどこなの? 現象は?」

「発生箇所は部室棟の一階。今現在、事件発生中だ。なんでも光り輝く物体があちこち激しくぶつかりながら、迷走している。すでにいくつかの部活で被害が出ていると聞いた」

「え? それ大丈夫なんですか?」

 まさか学園内で事件とは。この前みたいに外で落ちてるだけじゃ無いのか。

「おっと、それはまずいね。七樹くん連絡来てる?」

 七樹先輩が少しあわてたように、タブレットを確認している。

「……ちょうど今きました。部室棟での発生だったので、把握が遅くなったみたいですね。情報によると、落ちたのは昨日の夜。反応が無く見つけられていなかったみたいですが、なぜか今になって急に動き始めたみたいです」

「反応遅延タイプだったのか、それともなにかのトリガーがあったのか、どちらかかな」

 ハヤテ先輩が少し考え込む。

 七樹先輩がタブレットを操作し、情報の続きを読み上げる。

「属性は光と浮遊しての移動。今のところ移動の法則は見つかっていないようで、ひたすら動き回ってるみたいです」

「根方くんの話だと結構スピードと威力もありそうだね。部室棟を動き回っているんだとすると、こっちにもくるかな」

「なに、すぐ来るさ」

「おや根方くん、なんでそこまで断言できるの?」

「今、俺がそれを目撃して、逃げてきた……もとい、戦略的に撤退してきたからな」

「ふむ、今どんな状況かな」

 ハヤテ先輩が立ち上がり、部室を出て行こうとする。僕もあとをついていく。

 ハヤテ先輩が、根方先輩に開けっぱなしにされたドアから外をのぞき込んだ。

 その瞬間、光の塊が高速で斜め上に駆け抜けていった。


「先輩……今のは」

「えーと、あれが今回のターゲットだね。どう見ても」

 聞いていた話よりもはるかに速い。そしてどう考えても危ない。

 先輩がさすがにまずいと思ったのか、ドアを勢いよく閉める。中に入ってこられると危ないからだろう。

 それとともに、廊下の方からガシャンと何かが割れる音がした。廊下側が少し暗くなったところを見ると、照明にぶつかって割れたのだろうか。

「で、根方くん。今日の勝負はどうする?」

 ハヤテ先輩が、何も見なかったという風情で振り返る。どうしてあれを見て、その口調でいられるのかがわからない。

「決まっている。あれを先に捕まえた方が勝者だ。我々解放戦線が勝利した場合は贈り物マテリアルの使用権利をもらうぞ!」

「なるほど、了解した」

「おお、今日は話が早いな。どうした御造」

「ただし、勝負に参加するのはオレじゃ無くて、この新人くんだ」

 ハヤテ先輩が僕を指さして言う。

「え、僕ですか?」

 突然の展開に頭が着いていかない……。

「さて工桜くん、これを第2の課題に設定する。この場で情報を収集し贈り物マテリアルを推測し対象を捕獲するクラフトを作成。かつ工作部に勝利すること!」

「条件が厳しいです!」

 こうして突然やってきた珍客によって、僕の第二の課題は急激にはじまったのだった。

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