第3章\課題を攻略せよ!

第8話:まずは第1の試練 マテリアルを採集せよ!

「はあっ……」

 思わずため息が漏れる。

 僕らクラフト部(仮入部ふくむ)一行は、植物園の中を目的地に向け歩いていた。

「どうしたの、工桜くん。憂鬱そうじゃない」

「クラフト部って楽しいところだと思ってました。技術を競って高め合ってみたいな」

「その通りだよ? あってるじゃないか」

「余計な要素がかなりありますよね!?」

「はて、そうだっけ?」

 ハヤテ先輩がすっとぼけた調子で言う。

贈り物マテリアル採集はまだしも、問題解決は聞いてないんですよね……」

「説明してないしね。部外秘だから」

「ええ、そうでしょうとも」

 そんな危険な部だとわかっていて来る人なんかいないだろう。いや、それでも僕は来ただろうけど。僕は愚痴りながら歩く。正式入部じゃないにしてもクラフトできてない。

「そろそろよ、注意して」

 七樹先輩がタブレットを見ながら告げる。そこにはこの学園のマップとおそらく贈り物マテリアルの場所を示す光点がポイントされていた。

「今回の贈り物マテリアルは、鉱物属性のようね。今のところ動く気配は無いわ」

「そういうのもわかるんですね」

「大まかにね。簡単な属性判定と、周辺の状況から推測される情報のみよ」

 植物園に入る前に、僕は先輩たちのリュックの中身を見せてもらっている。

 はさみ・カッターを含む基本的な工具や接着用品、その他もろもろ素材。

 あと危険性の低いらしい贈り物マテリアルがあれこれ。

 これを使って、贈り物マテリアル採集にどう対応するのかが試されるらしい。

 素材を見てわくわくしなかったと言えば嘘になる。あれもつくれるこれもつくれそう。いろんな想像が膨らんで頭が爆発しそうなくらいだ。

 変な目的や課題がセットで無ければ、さぞ楽しかったに違いない。

 植物園には、高い木が立ち並んでいて、木漏れ日が差し込む以外は全体的に薄暗く少しひんやりしていた。森の中を歩くとこんな感じなのか。

 それにしても肌寒い。エアコンの効きすぎた店内のようだ。

「先輩、なんだか寒くないですか? 森の中ってこんな感じなんでしょうか」

「いやあ、原因はあれじゃないかな」

 ハヤテ先輩が示した方向に、少し開けた広場のようになっているところがあった。

 自分が寒さを感じている理由はすぐにわかった。

 広場が凍り付いている。

 少し見える地面の上も、周りの木にも、明らかに氷が張りついていた。

 そしてそちらから、今まさに冷たい風が流れこんできている。ぶっちゃけかなり寒い。エアコンどころか冷凍庫の寒さだよこれ。

「聞くまでもないですけど、あれは自然現象じゃないですよね?」

「そうだねえ。七樹くん、状況はどんな感じ?」

 気がつくと七樹先輩が、なにやら機械を前方の空間にかざしていた。

「見ての通り、前方の空間に広範囲の凍結が見られます。凍結範囲の中心あたりに異世界特性を示す反応があります。おそらく大きさは10センチ程度の特殊鉱物類。周辺に冷気を放つ性質がありそうですね。地面の上か、半分埋まっていると思われます」

「なるほど、それが今回の対象かな」

 七樹先輩とハヤテ先輩の会話がのんびりしていて、どうにも事態をのみこみづらい。見た目の異常と会話のテンションのずれがひどい。

「空間温度、かなり低下していますね。現時点では平均して0℃から5℃といったところでしょうか。徐々に低下しているみたいですね。毒性や攻撃性、電磁波など直接的な危険は今のところ観測されてません」

「いや、この寒さがすでに直接的な危険では!?」

 何でもないですくらいに言われても。

「オッケー。危険度は低そうだね。さて、工桜くん。早速課題実行だ。無事確保できたら最初の課題はクリアだからね」

「この状態でなんとかするんですか!?」

「そういう課題だもの」

 僕の必死の訴えは軽くスルーされた。

「あの贈り物マテリアルを仮称『フリーズストーン』と呼ぶことにしよう。いいねえ冷える石。冷凍庫代わりに溶けちゃいけない素材の保存庫にしてもいいし、冷気をクラフトの機関部に組み込んでもよさそうだ。発熱する素材も多いから」

 ハヤテ先輩はとても楽しそうで、何を言っても引いてくれる可能性は低そうだ。

 でも先輩方にあまりに余裕があるせいか、自分も少しだけ落ち着いてきた。

 仕方ない。あまり近づきたくは無いけどチャレンジしてみよう。


 あらためて状況を整理してみる。

 冷静に考えれば周りを冷やすだけの物体だ。直接触らなければなんとかなりそう。

 幸い素材の中には、厚手の布もあったはず、あれでくるんでケースの中に放り込めば、案外簡単にいけるんじゃないか?

 荷物の中から布を取りだし、はさみで切り出し、糸で端を縫い付ける。

 簡易手袋の完成だ。長持ちはしないだろうけど、これで少しの間くらいは持ちそうだ。

 念のため、寒さ対策にポンチョのような羽織るものをつくる。布が多めにあってよかった。先輩方にはこの状況が想像できてたんだろうか。

「よし、行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけるんだよ」

 覚悟を決めて歩き出す僕を、ハヤテ先輩がぞんざいに手を振りながら送り出す。

「まあ、獲ってくるだけなんで大丈夫ですよ」

 そう言いながら僕は凍結エリアの中央に近づいていく。

「さて、そううまくいくといいけどね」

 七樹先輩の言葉が少し気になったけど、あえて聞き返さずに進む。

 しゃりっと、地面から氷を踏む音が聞こえてきた。凍結エリアに入ったようだ。

 もちろん寒いが、防寒対策のおかげでさっきほどには寒くない。これならいけそうだ。

 広場の中心には、白い冷気を放つ石が落ちている。あれが贈り物マテリアルだろう。近づくほどに寒さがきつくなるのがわかった。

 そして後数歩で『フリーズストーン』に手が届きそうになったとき、異変が起こった。

「え?」

『フリージングストーン』が浮かび上がった。

 冷気が辺りを包み霧のようになる。視界がもやに隠れる。

 そして次の瞬間、僕の顔の横を何かがすごいスピードで通り過ぎた。

 ぎりぎりあたらなかったが、そもそも動けなかった。

 あれがあたっていたら……と思うと急に怖さが湧いてくる。

 いったいなにが? と思って確認しようとしたとき、

「工桜くん、下がりなさい!」

 七樹先輩の声が聞こえた。

 反射的に下がると、また何かが飛んでくる。下がったおかげで今度は正体がわかった。

 氷のつぶてだ。

 『フリーズストーン』が明らかに僕に向けて、つぶてを飛ばしている。

「攻撃性は無かったはずでは!?」

「領域に入ったことで、排除対象に認識されたみたい。近づいたら自動で撃ってくるわ」

 こんなに寒いのに冷や汗が出る。

 第一の課題はやっぱり一筋縄ではいかないようだった……。

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