第7話:つきつけられた3つの試練

 昨日の新人歓迎会で告げられた衝撃の事実は、まだ飲み込み切れていない。

 けれど、これから何かが始まるんだという期待感はあって、充実した一日だった。今日はどんなことが起こるんだろう。

 どうやら今日は僕が一番乗りのようで、まだ部室の鍵が開いていなかった。

 課題は今日言い渡されると言われていた。

 どんな課題なのか、入部試験のことを考えると、相当な難題であることが予想できる。

 贈り物マテリアルなんていう異世界物体を相手にしている唯一の部活だ。課題の中身はわからないけれど、心構えはしておくことにしよう。


「やあ、工桜くん早かったね。待たせちゃったかい?」

 そんなことを考えていると、後ろから声がかけられた。

 ハヤテ先輩と七樹先輩だ。

「いえ、今来たところです」

「デートの待ち合わせみたいだね」

「そんな状況でも気分でもないですが。そんなことより、部室は開けないんですか?」

 ここで雑談するくらいなら、中で座って話したいところだ。

「今日は部室には入らないよ。鍵ももらってない」

「え? じゃあ、今日は何をするんですか?」

「もちろん、工桜くんの最初の課題チャレンジさ」

 こんなに早く来るとは思ってなかったので、心構えが揺らぎそうになる。

「最初の課題ですか。まずは何をするんでしょうか」

「うーん、七樹くん、目的地はどっちだっけ?」

「今のところの情報だと、校舎裏の植物園エリアですね」

 七樹先輩がタブレット端末を操作しながら確認している。

「了解、じゃあ行こうか。詳しいことは道々話そう」

 そう言うとハヤテ先輩は先頭を切って歩き出す。七樹先輩も静かに後をついて行った。

 状況が飲み込めていなかった僕も、あわてて二人を追いかける。

 まだこの学園の地理にはうといが、校舎裏までは5分から10分と言ったところか。

 迷い無く歩いて行く二人を見て、あることに気がついた。

「お二人ともずいぶん荷物多いですね」

 ハヤテ先輩も七樹先輩も大きなリュックを背負っていた。見た感じ結構重そうだ。 

「行った先で必要になるからね。まあ、それは行ってのお楽しみ」

「さて、これから工桜くんには正式部員になるため、3つの課題をクリアしてもらう」

「3つですか、思ったより多いですね。どんな課題なんでしょうか」

「君のクラフト部への適性を判断する課題さ。それぞれの課題で異なる適性を判断する。一つ目は贈り物マテリアルへの対応力。二つ目はクラフト技術とセンス」

贈り物マテリアルの対応力にしても技術力にしても、新入部員的にはなくてもしかたないような気がするんですが……」

 贈り物マテリアルの理解なんて、学園の新入生にはなくて当然のような。

「さすがに即戦力になるほどのレベルなんて期待していないわ。部長が言ったでしょ、『適正』って。伸びしろとか相性とかそう言ったものを計るのがこの課題の目的」

 先を行く七樹先輩が、ボクの方を振り返って言った。

「不思議な素材たちにどう立ち向かうのか、そして、どういう反応をするのか、それを見定めるのが課題の役割よ」

「なるほど、これからこの部でやっていけるのか。そういうチェックをされるんですね」

 入部試験は、ある意味最初のふるい落としってところだったんだろう。

「……そういえば、最後の三つめは何なんでしょうか」

「それは二つの課題がクリアできたときに伝えるよ」

「わかりました。じゃあ、なんとしてもクリアしますね」

「いいね、前向きで。工桜くんにはぜひクラフト部に入部してもらいたいなあ」

 僕らは部室棟を降りて、渡り廊下から本校舎に抜ける。

 校舎裏の植物園エリアに抜ける裏口までは、結構な長さを歩くことになる。

 

 校舎の裏口からでると、そこには庭園のような光景が広がっていた。

 手入れされた生け垣に、季節の花咲き誇る花壇、ビオトープにもなっている大きな池。

 石畳で舗装された道をまっすぐ進むと植物園エリアだったはず。あと少しだ。

「そういえば最初の課題って具体的には何をするんですか? 贈り物マテリアルへの対応力って何を試験されるんでしょうか」

「第1の課題。それはずばり贈り物マテリアル採集!だよ」

「採集……、ですか?」

贈り物マテリアルは前も言ったように、空からこの学園に降ってくるんだけど、その時、異次元扉ゲートと呼ばれる穴があくんだ。で、昨日の夜にその異次元扉ゲートが開いた。この部が持っている贈り物マテリアルを追跡する観測機によると植物園に新素材が落ちている」

「それを取りに行くのが最初の課題ってことですね。でも取りに行くだけなら、特に難しいことも無いような」

 落ちた場所がわからないならともかく、場所もわかっていて、それを拾いにいくだけでなんの適性が計れるのだろう。

「さて、どうかしらね」

 七樹先輩がぽつりとつぶやく。

「無事に拾えればいいねえ」

 ハヤテ先輩も言う。

 嫌な予感がしてきた。

「あの……落ちてる素材、拾いに行くだけじゃないんですか?」

「僕が昨日言ったこと覚えてる?」

 その言葉に、頭の配線が急につながる感覚があった。

「……えっと、贈り物マテリアルは危険だって」

「そして、この部は何をする部だっけ?」

贈り物マテリアルの問題を解決する部と……」

「はい、その通り。で、今オレと七樹くんは何を持っているでしょう」

 最初から気になっていたが、あえて気にしないようにしていた。きっと頭のどこかが警報を発していたのに違いない。

 そう、なぜかハヤテ先輩も七樹先輩も、大きなリュックを背負っている。贈り物マテリアルを拾って持って帰るためだって思い込もうとしていた。

「あの、ひょっとして、そのリュックの中身は」

「うん、クラフト道具だね。あと素材になる贈り物マテリアルたち」

「まさか、最初の採集課題って……」

「そういうことさ! たぶん危ない贈り物マテリアルを、工桜くんのクラフト力で無事ゲットすれば課題クリアだよ!」

「あー! やっぱり!」

 甘くない部だってのは、昨日まででわかっていたはずなのに。

 まだ何もしていないのに、心からぐったりする自分を僕は感じていた。

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