第2章\正式入部への試練

第5話:新入生歓迎会の衝撃

 入部試験の次の日、僕は放課後のクラフト部の部室前にいた。昨日とは打って変わって、ドアの前には誰もいない。

 緊張半分、喜び半分。

 緊張は、憧れのクラフト部に部員として参加できるという、夢の一歩に近づいた重さ。

 そして喜びは、自分のクラフトが部長に認められたという事実だ。

 さあ、いつまでもここにいるわけにも行かないし、部員としての一歩を踏みしめよう。

 ドアに手をかけて引き戸を乱暴にならない程度に勢いよく開け……

 ようとしたところで、ドアが思いっきり開いた。

 踏み出そうとしていた僕は、前につんのめって転がってしまう。

「いってて……」何が起きた?

 視線を上に上げると、そこには部長がいた。

「やあ、工桜くん待ってたよ! どうしたんだい、そんなところで寝転んで。前転で初回のインパクトを与えようって言う作戦かな。だとしたら一本取られたな」

 部長はどこまで本気なんだか、ひょうひょうと言ってのける。

 ……いや、今のはあなたのせいです、間違いなく。とは言えなかった。

「部長が無駄に勢いよく開けるからですよ。たった一人の新入生失うつもりですか?」

 奥から感情少なめの冷静な声がかかる。

 見ると奥の椅子に女子生徒が座っていた。ショートヘアで眼光が鋭い印象。何か本を読んでいたようで、一瞬だけこっちを見たがすぐに本に視線を戻す。

「それはすまなかった。なかなか工桜くんが来ないから。つい迎えに行こうかと、うん」

「そうでしたか、遅くなってすみません。あとタイミングも悪くてごめんなさい」

 ようやく起き上がって、部長に頭を下げる。

 初日から印象悪くなってしまったらどうしようと思っていたら、さっきの女子生徒がまた本からこっちに視線を向けた。

「気にしなくていいわよ、部長ずっと、あなたがドアに手をかけるの見計らってたから」

「えっと、それはようするに……?」

「ははは、まあ、ほんのいたずら心ってやつさ。まあ、手荒いが歓迎の挨拶だと思ってくれるとうれしい」

「部長がそんなだから、部員が増えないんですよ」

 あれ? そういえば、僕は結構ギリギリだったのに今ここにいる新入部員は僕だけ?

「あの今日は、新人歓迎会だって昨日聞いたんですけど、他の新入部員は……?」

 周りを見渡しても、部長とさっきの女子生徒、そして僕の三人しかいない。

「ああ、そのことなんだけどね」

 部長が少し言いよどむ。

「さっきも言ったでしょ、たった一人って。今年の新入部員はあなただけよ」

「え? 僕だけ?」

 驚いた。昨日はあんなに希望者がいたのに、合格したのは僕だけなのか。

 喜ぶべきところかもだけど、あまりの厳しさに多少の不安がよぎる。

「少し厳しくしすぎたかなあ」

「わかってやってましたよね、部長」

「まあね。適正のない部員を入れても、きついだけだから」

「あのひょっとしてなんですけど、先輩方もお二人で全員と言うことは……」

「察しがいいね。もちろん、現部員は二人だけさ」

 これだけの広さの部屋を自由に使えて、全国に名をとどろかせるクラフト部の部員が二人だけ!? そんなことあるの?


「まあ、そんなわけで、少数精鋭で運営している部なんだここは。驚いたかもだけど、まずは予定通り新入生歓迎会を始めようじゃないか。さ、工桜くんこっちに座って」

 案内されたのは部屋の真ん中にある工作台のようなテーブルの手前の席。反対側には先輩方二人が座った。見ようによっちゃ圧を感じるシーンだな、これ。

「それじゃ、まずは歓迎会開始だ!」

 その言葉とともに、どこから出てきたのかクラッカーが部長の手に。

 ぱあん!

 普通のクラッカーよりも大きな音が、派手に部室に鳴り響いた。いいのかこれ。

 それと同時に、部屋の様相が変わった。

 カーテンが自動で閉まり、照明が落ち。天井から何かが降ってくる気配がした。

 明るくてノリのいい、どこかで聞いたような音楽が鳴り響く。そして、テーブルの上から派手な光が差した。

 見上げると、大きな文字の書かれた看板。

 『工桜創也くん、ようこそクラフト部へ!』

 と書かれていて、ぴかぴか光っている。

 僕はあまりの展開にあっけにとられて言葉を失っていた。

「喜んでもらえたかな?」

 楽しげに部長が言う。

「部長、どう見ても引いてます。だからやめようって言ったんですが」

 そう言う彼女も感情のこもっていない声で、本当に真剣に止めたかどうかは怪しい。

 気がつけば、目の前にはコップに入った飲み物が置かれている。中身はジュースのようだけど、いつからここにあったんだこれ。さっきまでは絶対に無かったぞ。

「さあ、まずは自己紹介をしようじゃないか。まずはオレ、御造ハヤテ。一応ここの部長をやっているんだ。これからどれくらいになるかわからないけど、よろしくね」

「はい、大会の映像で何度も見たことあります。あの、本から人形が飛び出して踊るクラフトは感動しました」

「おっと、あれを見てくれたんだね。あれは笑えた」

 部長は照れる感じもない。

「でも『部長』は堅いから先輩とかハヤテさんくらいでいいからね。堅いの嫌いだし」

 それはなんとなくわかる。ルールとか、堅い雰囲気とか嫌いそうだ。

 どちらかというと、自由に羽目を外して周りが困るタイプとみた。

「じゃあ、ハヤテ先輩で」

「まあ許容範囲かな。次は七樹くんよろしく」

 七樹と呼ばれた先輩は、立ち上がって僕に向けてお辞儀した。

「私は七樹水守ななきみもり。一応副部長ってことになってるわ。二人しかいないからあんまり意味ないけど。あなたが部員になってくれることを期待しているわ」

 そう言い終わると七樹先輩はすっと席に着いた。

 しかし礼儀正しくて真面目そうな先輩だなあ。ハヤテ先輩のストッパーになってそう。すこし堅そうだけど、こういう人がいてくれると少しほっとする。

 それにしても……部員になることを期待する? 少し違和感のある言い回しだな。

「さあ、最後に工桜くんどうぞ」

「あ、はい」

 僕は慌てて立ち上がる。堂々としてようと思ったのに、なかなかうまくいかない。

「工桜創也。新入生です。このクラフト部にずっと憧れてました。この部に入るために幻都総合に入学したんです。これからクラフト部の部員として贈り物マテリアル使った最高のクラフトつくれるよう頑張ります!」

 入学の時の挨拶を繰り返すような自己紹介。これを言える日をずっと待っていたんだ。

 七樹先輩がハヤテ先輩と少しだけ顔を見合わせた。七樹先輩は怪訝な顔をしている。

「ひょっとして言ってないんですか?」

 ん? なにを?

「うん、言ってない。当日言った方が面白いかなって」

「また部長はそんなことを……。知りませんよ」

「えっと、何の話でしょうか?」

 七樹先輩がため息をついた。私が言うのか?と言う顔をしている。

 ハヤテ先輩はなぜかニコニコ顔だ。

「あのね。ちょっとショックを受けないでほしいんだけど、クラフト部は伝統的に、試験に合格しても部員扱いにはならないの」

「え……? ちょっとどういうことですか?」

「そのままよ、試験はあくまで入部の権利を獲得しただけ。そのあと正式部員になるには、課題をクリアする必要があるの」

「あの、ということは、今の僕の立場は……?」

 その後をニコニコ顔のハヤテ先輩が続ける。なんでこんなに楽しそうなんだこの人。

「まあ、言ってみれば仮入部ってところかな。見習いみたいなもんさ」

「えええええーーーーー?」

 なんだかこんなのばっかりだ……。

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