第3話:難関? 入部試験

「やあ、入部希望者君こんにちは! オレは御造みつくりハヤテ、長い付き合いになるかどうかはさておき、以後よろしく!」

 恐ろしく軽い口調だけど、やたら勢いのある人だ。

 僕よりも頭一つくらいは高そうな感じ。上級生だろうか。すらっと細身で少し長めの髪もさらさらで品の良さそうな見た目。はっきりいって超美形の類いだ。

「あ、はい……よろしくお願いします。工桜創也といいます。ここの部員さんってことでよかったですか?」

 戸惑いながらなんとか口を開く。

「おっと、失礼。オレはこのクラフト部の部長だよ。一応先輩ってことになるね」

「……え、部長ですか!? あ、大会中継で見たことあります!」

 言われてみれば見覚えがある。この前の全国クラフト大会で、ぶっちぎりで優勝していたのがこの人だ。

 豪快だけど精緻なクラフト。ここに憧れた要因となった人の一人だ。

 何で気づかなかったんだろう。しかし、ここからはしっかりしないと。正念場だ。

「ああ、見てくれてたんだね。ありがとう。なんだか少し気恥ずかしいな。さて、あまり暇も無い。なにせ入部希望者は多いからね」

「入部試験って入り口に書いてありましたけど」

「クラフト部はこう見えて伝統ある部でね。贈り物マテリアルなんて危険物を扱うこともあって、入部条件は厳しくしてるんだ。気に食わないなら、やめてもいいよ」

「いえ問題ないです。この部に憧れてこの学園に入ったんで絶対に入部してみせます」

 ここで逃げ出すなんて選択肢があるわけがない。

「お、工桜くんだっけ。いいねえその気合い。じゃあ、さっそくやってもらおうかな」

「内容は?」

「試験内容は簡単。ここにある材料を使って、君の好きなクラフトを作ってもらう。部員が面白いと思えれば合格。時間は30分」

「自由課題って訳ですね。少し短いけど承知しました」

 腕が鳴る。ここで僕のクラフトを見てもらえる。認めてもらいたいという気持ちが高まってくる。いい作品をつくらないと。

「ただし条件が一つ。必ずここにある贈り物マテリアルを一つ以上使うこと」

 御造部長は、手を大きく広げて部室の中をぐるりとさししめしながら、あくまでも軽い感じで告げた。

「はい。よーいスタート」

「え? いや、あの。僕は贈り物マテリアルなんて使ったことないですし、そもそも実物見てもなにもわからないんですけど……」

 でだしから大混乱。わからない材料でクラフトを造る? しかも、この短い時間で?

「早くしないと時間ないよー。わからない材料は簡単に教えるからね、いつでも聞いて」

 困った。どうしよう。

 改めてみると、部室の真ん中に大きなテーブルが3つ離しておいてある。それぞれのテーブルに普通の材料と、贈り物マテリアルが区分けしておいてあるようだった。

 材料はどのテーブルにも山ほど積んであって、説明聞いてるだけで制限時間なんてあっという間に越えてしまいそうだ。

 つくるものも考えなきゃいけないし、作業時間だってある。迷ってたら即アウトだ。

 知識とセンスと行動力が試される。意地が悪いけど、よい試験だと思った。


 僕は手近のテーブルにつく。普通の材料は、紙、布、プラスチック材料から、木材系、金属系まで、一通りそろえてあるようだ。こちらはよい。

 道具も基本的なものは一通り置いてある。何をつくるにしても道具の問題は無い。

 さて、問題は贈り物マテリアルだ。どれが何なのかがさっぱりわからない。

 新入生に使わせるものだから危険は無いだろうけど、何が起こるかわからないのが贈り物マテリアルの怖さだ。注意するに越したことはない。

 しかたない。まずは確認しよう。

 手前にはあるのは水晶のような六角柱の形をした透明な石。透明なはずなのに向こう側が見えない。どういう構造になっているやら。

 その向こうには、布をロール状に巻いたもののように見えるけど、なぜか表面が水面のように揺らいでいる。僕の顔が映っていた。

 他にもたくさんあるが、さすが異世界の素材。見た目だけでは何が何だかわからない。

 わからないものを考えても答えが出るわけじゃない。僕は諦めて聞くことにした。

 素材について聞いたからといって、減点されたりとかはおそらくしないだろう。


「御造先輩」

 僕は隣のテーブルにいた部長に声をかける。

 だけど、部長は他の入部希望者の作品の判定を下しているようで、ちょっと待ってと言うように、こちらに手を向けた

 のぞいてみるとその生徒は、何やら歯車で動くからくり人形のようなものをつくっていたようだ。人体模型のような形の人形が、なにやらかくかくと踊っている。

 遠目だが、短時間でつくったにしてはなかなかによくできているように思えた。

 部長は、動く様子を少し眺めた後、その人形を持ち上げてくるくると回しながら、あちらこちらをじっくりと見ている。そして、

「うん、不合格」あっさりと言ってのけた。

「え? どうしてですか!? 結構よくできたと思うんですけど」

 作者の女子生徒は部長に食い下がっている。自信があったんだろう。

「よくできてると思うけど、発想がいまいち面白くない。この回る歯車に自律風車の贈り物マテリアル使ったみたいだけど、これならモーター使ってもいっしょだよね。贈り物マテリアルである必要が無い」

「そんな……」

 彼女はしょんぼりと肩を落としながら、部室から退出していった。

 これは思ったより判定が厳しい。ありきたりなクラフトをつくっても素材を生かしていなければアウトということか。


「さて、お待たせ。どうしたの」

 僕のことを覚えてくれていたようだ。部長がやってくる。

「この辺りの贈り物マテリアルについて解説お願いできますか?」

「もちろんいいよ。どれ聞きたい?」

「まずこれは」

 僕は水晶のような石を指さす。

「これは『蓄光水晶』。強い光を当てると中に光を全部ため込むんだ。こうして……」

 といって部長はスマホを操作してライトモードで光を『蓄光水晶』に少し当てる。

「こうすると……」

 といいながら水晶を持ち上げてテーブルにたたきつけた。その瞬間、激しい光が部室中を白く包む。

 その光で目がクラクラする。まわりの生徒たちも驚いていた。

「わかった?」

「わかりましたけど、やる前に一言ほしかったです……」

「他には?」

「……えっと、これとこれは」

 不思議な布を指さす。

「こっちは『水面のシート』布みたいに見えるけど、全部液体で出来てる。池の表面を巻き取ったと思えばいいかな、ほら」

 そう言って部長がロールを揺らすと、確かに表面が波打ちときおり水もはねている。

「どれも不思議ですね」

「だろう? この世界の素材じゃあり得ない現象ばかりだ。これが贈り物マテリアルの難しさでもあり楽しさでもある。もし工桜くんが入部できたら、ぜひ他ではできないクラフトを目指してほしいね」

 部長がさわやかな顔で言うが、多少のうさんくささがぬぐえない。


 気がつけばもう十分以上経ってしまっている。早くつくり出さなくては。

 贈り物マテリアルを使わなくちゃならないという条件が思ったより過酷だ。

 下手に使うと、さっきの人みたいに普通なものをつくって不合格判定されかねないし、かといってこの素材を中心につくるのも……。

 悩む僕の目に、贈り物マテリアルの山の中にある、なにやらびんに入った液体が映った。おそるおそる手に取って、少し持って揺らしてみたらものすごくゆっくりと動いて少しキラッと光ったように見えた。

「御造先輩、これは?」

「それは『スローインク』。これを塗ったもののスピードを吸い取って動きを遅くするヘンテコなインクさ。早く動かすほど遅くなる。吸い取った速度をエネルギー変換するみたいで、動かそうとすると光るんだよね。うかつに体につくと大変だから気をつけて」

「……面白いですね」

 僕の頭の中で爆発するようなひらめきがあった。

 これは面白いクラフトができるぞという予感で、全身が震える。

 このアイデアならすぐ出来て、しかも面白く、時間もかからない。

 さて、必要な材料はっと。

「お、少年。何か思いついたな」

 部長がにやりとしながら僕に話しかけていたが、僕の頭の中はつくりたいクラフトで一杯で、その声は届いていなかった。

 さあ、アイデアは降りた。

 あとは、工桜創也のクラフトを楽しむだけだ。

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