第2話:いざクラフト部へ!

 ――キーンコーンカーンコーン

 放課後だ!待ちに待っていた時間だ!

 少しでも早くクラフト部に行きたいから、先生の挨拶もそこそこに鞄に荷物を詰める。

 クラスメイトに簡単な挨拶をして教室を出た。目指すのはもちろんクラフト部の部室。

 この学園には、部活動が奨励されていることもあって、部室専用の建物がある。

 通称部室棟。

 部室棟は、各部に一部屋を割り当てた贅沢な配置で、事前調査によればクラフト部は部室棟最上階の最奥の一室のはず。

 基本的に実績を上げていたり、人数が多い部ほど広い部室に配置されるらしいが、フロアマップで見る限り、クラフト部はトップクラスの広さを誇っている。

 それもそのはず、クラフト部は、全国のコンテストで賞をかたっぱしから取りまくっているような、超有名部活なのだ。

 技術もセンスも抜群で、最初にみたときには眠れないほどの衝撃を受けたくらい。

 早くクラフト部に参加して、自分も最高のクラフトをつくってみたい。

 その思いで僕は部室棟への道を急いだ。


 教室の三階の渡り廊下を抜け、部室棟に向かう。

 部室棟からは、賑やかな声があちらこちらから聞こえていた。

 どの部も活発でとても楽しそうで、目指すクラフト部への期待も自然と高まった。

 部室棟に入るとすぐ目に入る階段を、最上階へ向けて駆け上がる。

 最上階は廊下が奥までまっすぐ続いていて、その一番奥のつきあたりにある部屋が、クラフト部の部室のはず。

 僕は急ごうと一歩踏み出したとき、あることに気がついた。

 クラフト部の部室と思われる部屋の前が、妙に賑やかなのだ。部室の前に人があふれているのだけど、活気があると言うよりは、なにかざわついているようなそんな感じ。

 ……なんだろう?

 近づくにつれて、そのざわめきの中身が聞こえてくる。

――これでもだめなのかよ!

――自信の作品だったのに……

――厳しすぎね? だれか通るのかよこれ

 少しだけ嫌な予感がした。なにか面倒なことがありそうな予感。

 そして、クラフト部の前に辿り着いたとき、僕は事態を理解した。


『クラフト部 入部試験実施中』


 そんなことが書かれた紙が、ドアの前に張り出されていた。ここで悲しみに暮れている人たちは、どうやら入部試験とやらに落ちたグループらしい。

「入部試験なんてあるのか……、知らなかった」

 ぼそりとつぶやいたのを、落ちた人が聞いていたらしく、

「君もクラフト部入部希望か? やめておけ通るわけないよ、こんなの……」

 と、落胆の色が隠せない表情で話しかけてきた。

「まだ誰一人として合格が出てない。もう20人以上も落とされてる」

 わあ、今年の入部希望者はそんなに多いのか。

 実際クラフト部が人気の部活であることは知っていた。

 実績も豊富だし、なにより贈り物マテリアルを初年度から使えるのは、将来をみている人たちにも有利だからだ。志望者もさぞ多いとは思っていたがこれほどとは。

 僕の自己紹介があの反応だったのは、遊びに来たって宣言したからで、あくまでクラフト部は人気の部活なのである。

 ここまでだれも試験に通っていないと言うことは、かなり厳しい試験なんだろう。

 とはいえ、やめる理由は特にない。この程度であきらめるなんてとんでもない。

 入部試験、どんとこいだ。

 むしろそれくらいの壁があった方が燃えるというもの。


 話しかけてきた彼との話を適当に終わらせて、僕は部室のドアの前に立つ。

 ドアの向こうからは、いろんな音や声が聞こえてくる。はさみやカッター、その他金槌のような音、いろんな工具の音が聞こえる。それは僕にとっては美しい楽曲のような音色だ。なじんだ心地よい音である。

 この音が、自分が憧れの場所に近づいたことを実感させてくれた。

 今、悲鳴のような声が聞こえたのは、おそらく不合格の判定がされたからだろう。

 まだ試験は行われているようだ。たくさんの人の気配がする。

 憧れの場所を前にして、さすがに少しだけ緊張したけど、ここは一発気合いを見せるべきだろうと考える。

 ドアを勢いよく開け、入部希望であることを元気よく告げようとした。

「こんにちは、僕はにゅうぶk……」

「やあ、君も入部希望者かい! よく来てくれたね。幻想学園クラフト部は君のことを歓迎するよ!」

 至近距離からのそんな声に、僕の挨拶はかき消された。

 というか最後まで言わせてもらえなかった。

 目の前でニコニコとしている先輩らしき男の人が、僕の手を両手で握って、ぶんぶんと上下に振っている。

 僕は言葉も出せずに、あっけにとられていた。

 これが幻想学園クラフト部と僕の、少しだけしまらないファーストコンタクトだった。

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