第8話 夜戦

「ここでもなかったら、ここだと思うんだけどなぁ」

 十五時八分。十六軒目の窓を眺めたが、いなさそうだ。

「真ん中のこの公園から半径五キロが源泉の地区だもん。350軒あることになるよ」

 パグが汗をかいた。(自分でいっておきながら、なんじゃそりゃ)と棒人間は思ったが、声には出さない。(何しろ夜戦があるんだから)


 十五時二十八分。先ほどから何分もある一軒のホテルにとまっていた。

「白が特にいっぱい利用しているのはこのホテルだよ。ナカミ3万2694店。

「へぇ……」

「どうした?」

「チェックインしてみようよ」

「あっ、そっか! で、いなかったら『すみません……』ってチェックアウトすればいいんだね」

 人情を無視した機械的な作戦である。しかし、後々これが大波乱の始まりになる——ということを、このときスタッフはおろか、誰も知らないのだった。


       *


「ここでもなし、か……」

 パグのそんな声を聞きながら、(ああ、早くさっておくれヨォ)とテツは思っていた。何しろ露天風呂だ。下の声も聞こえる。ハルに頼んで、公園のような鉄でできた電話(なんていうんだ?)をつくってもらった。


       *


「お〜い、犬ぅ。」テツが声をかける。

「や、どこだ?」

 ハルに頼んでいろんなホテルに細工を施したのだ。あぁ美肌の湯ありがとう。

 しかしこれはもう、アラバキが鬼ごっこ大国だからこそなせる技である。


       

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