第7話 夏に悶えていたら、着信を受けとった

 鬼ごっこで、

「お~にさ~んこ~ちら、手のなるほうへ」

 というのは煽り文句だ。

 しかし、テツはパグに対して、

「い~ぬさんこちら、手ぇのなるほうへ」

 と煽ることがよくある。しかし、それは施設内や公園内での話だった。


      *


 電話が鳴った。反射的にYesを押した。

「お~い、犬。」

 武器「そらをとぶふね」の中に、そんな着信音と全く同じ声が響いたのは昼下がりだった。

「……いうとくけど逆探知しても無駄やからな」

 こりどうの警告。電気あんま隊の笑い声。

「なんだよ」

 ふてくされた演技をとるつもりだったが、本心が出てしまった。

「なんでむくれてんのかなぁ? なんだよはこちらがいいたいなぁ?」

「いぬさんこちら、手のなるほうへ!」

「そのノイズは、」

「ご名答、ホテル美肌のゆだよ」

 アラバキ一の店舗数を誇る旅館だった。地球の数倍もあるアラバキ星のなかから八十万四千九百二十六店舗以上あるのはこれしかない。

 二位は日本でも有名なゼリーの「モルゾフ」、三位はコンビニだった。しかしそれらを凌駕するとは。そして、店も含まなかったら一番多いのは。

「◯の胸◯いま〜◯むぅ 君◯涙の美しさに 『ありがとう』と〜♪」


 カラオケ、である。ちなみに歌っているのは尾崎豊の「傷◯けた人◯へ」(要点を巧みに入れながら省こうと思いすぎて省きすぎたかな)


 電話の向こうでは、テツが笑っていた。

「今日はここに一泊するんだ!」

「マジかよ……」

 待てよ? とパグは思った。代わり鬼だったよな、てことは……

「無理だよ」

 棒人間がいった。

「ノイズからしていつも白い妖精が泊まっているあそこだと思うけど、あのあたりあたりホテル美肌の湯が一キロにつき六十軒くらいあるんだよ」

「ろ、六十!?」

「あ、まちがえた、七十だね」

「な、なんですとぉ!!」


        *


 時刻は十五時二十分。テツはぼんやりと大きな窓を眺めていたが、急に「ふせろ!!」と叫んだ。

「なんだ?」こりどうがやってくる。

 小声でテツが囁く。「パグチームがやってきた」

「マジかよ……」

「なぁに?」

 ハルが出てくる。

「ハルは大浴場にいていいよ。みんなそこ行こう?」

 頭脳担当が答えた。

「確かにねぇ」

 かくして三人、岩の階段を降りて水上とJ吉のすむ楽園へ向かったのだった——。

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