第37話 変化
翌日から私は兵士たちを従えて村の浄化に勤しみました。
小動物は他にも魔獣化していたので、何度か退治することとなりました。
瘴気を浄化し、魔獣を退治し、気付けば一週間が過ぎ去っていました。
魔獣といっても、もとは動物です。
神殿に来ていた小鳥やリスだったかもしれません。
しかし、魔獣化したものをもとに戻すことはできませんので、退治するよりほかにないのです。
殺生は辛い作業ですから、予防するのが一番なのですが。
これからは聖力石の管理をキチンとしなければいけません。
そこで今後のことについての話し合いが行われることになりました。
屋敷の応接室に集められたのは、村を代表して私とイジュ、そしてエリックさまです。
村長とその娘であるメアリーの姿は、そこにはありません。
使い込みがバレて逃げたとも、魔獣に喰われたとも噂されていますが、真相は分かりません。
豪奢な部屋の優雅なテーブルの上には、美しい茶器と美味しそうなお菓子が並んでいます。
紅茶の良い香りが漂う室内で、エリックさまは話し出しました。
「どうやら村長は、以前から聖力石の予算を使い込んでいたようでね」
「そうですか」
薄々は気付いていたことです。
私自身はお金に困っていませんでしたし、王都に呼ばれて報酬をもらうといったことも頻繁にありましたので気にしていませんでしたが。
村には神殿を維持するための予算が付いていたはずです。
私はそれを一度も受け取ったことがありません。
「いつもと同じ感覚で予算を懐に入れてしまったようだが……今回はアマリリスがいなかったからね」
私はコクリとうなずきました。
私が村に戻ってくる前は多少なりとも真面目に聖力石のためにお金を使っていたのでしょうが。
聖女がいればその分の予算は浮くと考えて、感覚が麻痺していたのでしょう。
私が村に戻ってきたタイミングで娘が年頃を迎えてお金がかかるようになった、という理由もあるかもしれません。
いずれにせよ、許されるようなことではないです。
「そこで今後は聖力石を現物支給ということにするよ」
「はい、わかりました」
私の横でイジュがコクコクとうなずいています。
それにしても村の大事な話をするときに、なぜ私とイジュだけしかいないのでしょうか。
「村長もいなくなってしまったことだし、アマリリス。キミ、村長をやってみないか?」
「はいっ⁉」
何を言っているのでしょうか、エリックさまは。
私は聖女としての役割が……。
「髪の色。だいぶピンクが抜けてきたと思うけど?」
エリックさまの言う通り、確かに私の髪色は薄くなってきています。
それでもまだピンク色です。
「この調子だと、いずれは聖女としての力を使えなくなると思うのだよね。あくまで私の予想ではあるけれど」
エリックさまはニヤニヤして私とイジュの顔を見比べています。
この表情を浮かべたときには、ろくなことを考えていない証拠です。
金銀箔押しや浮出し、型抜きといった国の技術を総動員して作らせたような薄い本を渡してきたときと同じ表情をしています。
「私の渡した本も活用してくれているようだし」
エリックさまは人の悪い表情で、私とイジュをからかっているようです。
薄い本のなかには、美しい色で印刷された絵や分かりやすい図解など、興味深いものはありましたけど。
それはそれで大変だったんですからね、エリックさま。
ちょっと口に出して言えない方向性の大変さですが。
「アマリリスには爵位もあげたことだし、ついでにこの屋敷と村の管理もお願いしたいのだよ」
「えっ⁉」
「領地経営については、キミの執事に頼めばいいし。薬草栽培もするのだろう? アマリリスが村長になれば、薬草の商売も楽になると思うよ」
エリックさまなりの心遣いだったようです。
「でも……私にできるでしょうか?」
「大丈夫、大丈夫。村で爵位持ちはキミだけだし。キミが村長になっても反対する者は誰もいないよ」
この時私は自分のことに気を取られ、黙って紅茶を飲んでいるイジュが、複雑な表情を浮かべていることに気付いてはいませんでした。
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