第31話 夜の共同作業にも持ち込んでやりました♡
イジュの気持ちも確認したことですし、もう待っている必要もありません。
焦りはありませんが、距離はチャッチャッと詰めたほうが良いのではないでしょうか。
エリックさまのお節介により差し入れられた高度な伽の本。
使用人部屋への鍵かけ立てこもり。
新規事業計画への本格参入。
これらを総合して考えるに、早めに攻めねば浮気の心配が出てきます。
……嘘です。私は相当、焦っています。
イジュに限っては浮気なんてするはずがないです。
でもですよ?
あんな逞しくて男臭くて純朴な、王都には珍しいタイプの男性がうっかり貴族女性の目になんて触れてしまったらですね。
何が起きるか分かったもんじゃないわけです。
その辺は、王都での修行中に色々と見聞きしましたから。
……嘘です。主に聞いた話です。
聖女は基本、神殿にいますし、女性だらけですからね。
色んなお話が回ってくるわけです。
聖女といっても、いるのは主に貴族女性ですからね。
色々な話を聞かされるわけです。
それはもう色々と……。
薬草栽培から薬草の取引へ話が移っていく時に、イジュも兄や執事と一緒に動くのであれば、どこで貴族女性の目に触れてしまうか分かりません。
どこに誘惑が待っているか分からない以上、私が先に誘惑してしまったほうが安心です。
もう夫婦ですし、私は妻ですから。
問題はないはずです。
湯あみを済ませた私は、イジュが本来使うはずの夫婦の寝室へと向かいます。
私が夫婦の寝室へ入っていくと、イジュは今まさに使用人部屋へと入っていく途中でした。
その手にあったのは、エリックさまから差し入れられた伽の本です。
イジュは一人で使用人部屋にこもり、なにをしていたのでしょうか。
「アッ、アマリリス……どうしてココに?」
イジュは焦り過ぎているのか質問が変です。
「私の寝室に来ただけよ。ココは夫婦の寝室ですから、私の寝室でもあるのよ」
私は適当に答えてイジュの手を握ります。
彼の腕から伽の本が落ちてバラバラと床に散らばりました。
「アッ、アノッ……エッ? ナニ? アマリリス……ンッ……」
何やらイジュは動揺していますが知りません。
私もいっぱいいっぱいですから、いちいち気遣っている場合ではないのです。
握ったイジュの手をグイッと引いて、勢いのまま彼をベッドへと引きずり込みます。
灯りは邪魔ですが、消しに行くのも面倒です。
私はベッドに下がった厚いカーテンを引きました。
そこに出来上がるのは二人だけの暗闇。
天蓋付きのベッドって便利ね、と思いながら、私はイジュと流れのままに夜の時間を楽しむことに成功しました。
◇◇◇
翌朝。
イジュは何が恥ずかしかったのか、早々に庭へと行ってしまいました。
仕事をするのはいいですが、初めての朝くらいゆっくり過ごしても罰は当たらないはずです。
彼との夜は、まぁ凄かったです。
イジュは筋肉に見合った体力がありますからね。
それはもう、凄かったです。
湯あみをしながら昨夜のことを思い返していると、思わず頬が緩んでしまいます。
今朝は梅雨の時期には珍しく、青い空が広がっています。
天気に合わせたようにスッキリした気分の私は、湯あみを済ませて鏡を覗き込みました。
そこに映っているのは綺麗なピンク色の髪。
初めての夜を過ごしても聖力は失われてはいないようです。
良かった、と思う反面、ちょっぴり残念な気もします。
正直、私はとても浮かれていました。
だから、すっかり油断していたのです。
エリックさまの手配によってクヌギ村には聖力石のための予算がついたのを知っていましたし。
結界の状態は保たれて、完璧になっているものだと思っていました。
だから。
この後、まさかあんな騒動になるとは、想像だにしていなかったのです――――――
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