第30話 初めての共同作業だそうです♡

 うつうつウジウジしているのは嫌いです。


 夕食を食堂で済ませた後、主の部屋である書斎でお茶を飲みながらイジュと話をすることにしました。


 私は小さな応接セットの椅子に座り、イジュは書斎の大きな机の前に座っています。


 少し離れたところにいるので、かえって切り出しやすいです。


「イジュ、この結婚についてどう思っているの? 正直なところを話して」


 私は単刀直入に言いました。


「えっ……」


 イジュは戸惑いの表情を浮かべて言葉に詰まっています。


 あー、とか、うー、とか唸っていてまどろっこしいです。


 ここはサッサと核心部分を聞いておきましょう。


「イジュは今、幸せなの?」


「うん」


 即答です。なんなら食い気味に返事が返ってきました。


「本当に? イジュは幸せ? 環境が変わったことを怒ったり、悲しんだりはしていないの?」


「そんなことあるわけないよ。オレが怒っていたり、悲しそうだったりした?」


 イジュは驚きの表情を浮かべています。


 彼の言葉に嘘はないようです。


「私が見た範囲ではないけれど……1人になったときのことまでは分からないもの」


「……オレが1人になった時、泣いているとでも?」


 いかにも心外なという表情を浮かべてイジュがこちらを見ています。


 そんな表情もカッコいいですね、ご馳走さまです。


「確かにオレは農夫だし、田舎もんだけど。状況に合わせた努力ぐらいできるよ」


 ちょっとむくれだしました。


 そんな……彫りが深くて男臭い顔で、唇をちょっと突き出した拗ねてる時の表情とか作られたら。


 胸のドキドキが止まらなくなるのでやめてください。


 ……いや、やめないで。


 ちょっとだけ堪能します。


「聖女のアマリリスと農夫のオレじゃ、釣り合いが悪いのは分かってるけど……アマリリスに恥をかかせないように努力するくらいはできるからさぁ……」


 モゴモゴと言い訳がましい言い方で、私を喜ばせるようなことを言い出さないでください。


 私のために努力してくれるなんて。


 胸の高鳴りが酷くなってしまいます。


 ちょっと落ち着こう、私。


 お茶を一口、いただきます。


 少し冷めた紅茶が乾いた喉にちょうど良いです。


「農夫は農夫らしく、薬草栽培がイケそうだったら頑張るからさ。今すぐにアマリリスと釣り合いがとれる立派な男になるのは無理だけど。オレは頑張るから」


 私のために頑張ってくれるなんて。


 そんな人、イジュ以外にいて?


 いないわよ、多分。


「薬草栽培を事業化して、クヌギ村を一緒に盛り立てよう?」


「ええ」


 初めての共同作業ね。


 それは楽しそう。


 エリックさまとか、執事とか、兄さんとかオマケもたくさん付いてきそうだけど。


 基本は私とイジュの初めての共同作業よね。


「薬草栽培も頑張るし、加工のほうもオレで出来そうなことはやるからさ。成功すればお金も付いてくるし、周りからの尊敬も得られるだろ? そしたら、オレは胸を張ってアマリリスの夫だって言えるようになるからさ」


 ああ、今すぐに胸を張って言ってください。


 私の夫だって。


 私もイジュのことを夫だと言いたし、妻だと言われたいです。


「最初から聖女さまと釣り合いのとれた男だったら、アマリリスも楽だったかもしれないけどさ。オレ、頑張るから……ね?」


 男らしくて逞しくて、私の為に努力してくれる人、イジュ以外にいないわ。


「だからアマリリスの夫です、ってキチンと言えるようになるまで待っていてね」


 そこは待つ必要、あるかしら?

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