第32話 指輪は邪魔なのでペンダントにしてみました

 ひと仕事終えたイジュと一緒になんとなく気恥ずかしい朝食を終えた私に、執事が話しかけてきました。


「例のお品が届きました」


「ありがとう」


 私は執事から細長い小箱を受け取りました。


 執事は私とイジュを見比べながら、あらあらまぁまぁ若いって素敵ですね、みたいな空気だしています。


 今朝は正解です。


 私は余裕の笑みを返しました。


 イジュはウキウキした気分と恥ずかしそうな赤面を両立させた表情を浮かべ、私が受け取った小箱を不思議そうに見ています。


「これはアナタのための物よ」


 私は小箱を開けて見せました。


 中にあったのはペンダントです。


「えっ? オレはアクセサリーとか興味ないけど?」


 イジュは訝しげな表情を浮かべてペンダントを見ています。


「これは自分を飾るための物ではなくて、守るための物よ」


「守る?」


「ペンダントのヘッドの部分、ここが重要なのよ」


 私は青が滲むようにして入ってるペンダントトップを指さしました。


「コレ? オレには普通のペンダントに見えるけど?」


 楕円形のガラスで出来たペンダントトップは、一見何の変哲もないアクセサリーに見えます。


「でも、これがこうするとね……」


 私はペンダントを小箱から取り出し、ガラスで出来たペンダントトップを握って祈ります。

 

 一瞬だけ指の間から白い輝きがこぼれ広がる。


「え? 光った?」


 イジュは驚いているようです。


 聖女の祈りを見たのは初めてなのでしょう。


 村で祈っていても覗きにくる人はいないですしね。


 意外と皆、聖女のしていることには興味がありません。


「聖力は聖力石だけでなくて、他の物にも注ぐことができるの」


「えー、そうなんだ。初めて知った」


 王都では、わりと知られた話ですが。


 村では興味を持つ人が少ないので、イジュが知らなくても当然かもしれません。


「聖力石が一番効率がよいけれど、値段の事とか色々考えるとガラスが便利なのよね」


「そうなんだ。で、これをオレに?」


「ええ」


 私はペンダントをイジュに渡しました。


 銀の鎖に青いガラスの飾りがついているシンプルなものです。

 

「このくらいならイジュでも平気でしょ? 指輪とかのほうが身に着けやすいけど、畑仕事の邪魔になるものね」


「そりゃそうだけど……」


 イジュはペンダントをまじまじと見ています。


 どうやらイジュはペンダントの意味が分かっていないようです。


「これは聖力の入ったお守りなのよ。入っている聖力の量はたいしたことないけれど、直接身に着けていれば守ってくれる効果は高いのよ」


「そうなんだ」


 やはり、イマイチわかっていないようです。


「魔獣除けよ」


「そうなんだ! ありがとうアマリリス!」


 イジュの表情がピカッと輝きました。


「そっかぁ、魔獣除けか。これで安心して森の方にも行けるなぁ」


 イジュはわくわくした様子で色々と計画を練っているようです。


「効果は保証するけど、あまり無茶な真似はしないでね? 結界の境界線は、目に見えるようなものではないから」


「ん、わかっているよ」


 ペンダントを首から下げたイジュは、青の入ったペンダントトップを眺めたり、さすったりしています。


 いったん部屋から下がった執事が、村から庭師が戻ったと伝えにしました。


 執事はペンダントトップを触っているイジュを見て、あらあらまぁまぁ若いって素敵ですね、みたいな空気を出してニコニコしています。


 その空気を改めて出されて私は恥ずかしくなってしまいましたが、イジュはペンダントに夢中で気付いてすらいないようです。


 庭師を部屋に通し、クヌギ村での薬草栽培について尋ねたところ、見込みアリという返答を得ました。


 薬草栽培が上手くいき、加工を施して王都へ出荷できるようになれば、クヌギ村は潤います。


 その中でイジュも上手に立ち回ることができれば、聖女の夫、男爵の配偶者というだけでなく、彼自身の立場を作ることもできます。


「そうなれば、聖女であり男爵でもあるアマリリスのオマケみたいな孤児で農夫の夫、とか言われなくなるのかな?」


「そんな言われ方したの⁈」


 びっくりです。


 田舎者は人が良い、なんて思ったらダメですね。


「うん。でも、言わせないようにするは、オレが頑張らないとね」


 そう言いながらイジュはニコッと笑いました。


 笑顔がまぶしいです。


 いくらクヌギ村が国の外れのほうにあるといっても、言わせ放題ではダメです。


 イジュにはぜひ、村の主要な産業に大きな関わりを持つ尊敬すべき男性の地位を手に入れてもらいましょう。


 この時の私たちは、希望に満ち溢れていました。

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