第13話 アレ? 結婚生活ってこんな感じなの?

 結婚のお披露目は終わりました。


 これからは、イジュとの生活が始まります。


 ウエディングドレスから平服へ着替えるために、実家でお風呂も済ませてきましたし。


 食事もしてきましたので、あとは寝るだけです。


 私は忙しく騒ぐ心臓の鼓動を感じながら、これから我が家になる家へと足を踏み入れました。


 これから住むことになる家は、一階に居間や台所などがあり、寝室は二階です。


 踏むとキシキシ音のする階段をイジュの後ろについて昇っていきます。


 心臓がドキドキして苦しいです。


 この息苦しさは、不整脈のせいではないと思います。


 私の顔は真っ赤になっていると思いますが、イジュは平然とした表情をしています。


 男性だからでしょうか?


「アマリリスは、こっちの部屋を使って。両親が使っていた部屋だけど掃除はしてあるから」


 イジュはそう言って、階段を上がって正面にある部屋を指さしました。


「え? イジュは?」


「オレの部屋はコッチ。知ってるだろ?」


 驚く私を見て笑ったイジュは、向かって左の部屋を指さします。


 もちろん、それは知っています。


 知ってますけど……、結婚したのに寝室は別ですか?


「今日は疲れただろう? じゃ、おやすみ」


 え? こんな感じ? 今夜はこんな感じで終わるの?


 沢山の疑問符が私の中には浮かんでいましたが、はっきりと聞くことをためらっているうちに、イジュはさっさと自室に入っていってしまいました。


 あー、そうか。今夜はこんな感じで終わるんだ。ふーん。そっかー。


 私は、ちょっとガッカリしたような気持ちで、これから自分の部屋となる寝室に入っていきました。


◇◇◇


 朝です。


 いつもと違う窓から朝日が入ってきました。


 よく考えたら厚手のカーテンを閉め忘れていましたね。


 よっこらしょと起き上がった私は、レースのカーテンを開けました。


 窓からは広い畑を挟んで、原生林のような森が見えます。


 実家もイジュの家も、村のはずれの方にあるので森に近いのです。


 東屋のような簡単な造りの神殿も見えます。


 よく考えてみれば、この家にはガラスのはまった窓などありません。


 格子戸のような窓ですから、鎧戸を閉めないといけませんでした。


 私の稼ぎで実家は手を入れてありますから、こちらの家とは少々違いがあるようです。


 雨が降ったら日中でも鎧戸を閉めないといけない生活は不便ですから、早々にガラスを手配しましょう。


 他にも色々と実家とは違うところがあるでしょうから、確認しなければいけません。


 ですが取り急ぎしなければいけないことといえば、神殿での祈りでしょう。


 私の髪は変わらずにピンク色をしています。


 聖力があるのなら、祈りを捧げて聖力石に力を込める方がいいでしょう。


 家の中にイジュの姿は既にありませんでした。


 畑に行ってしまったようです。


 私は寝坊してしまいましたから、さっさと身支度をして神殿へと向かいました。


 朝食の用意をしてあげたいので急ぎます。


 なにせ、初めての朝ですからね。


 パタパタと慌ただしく動きながらも、私はどこかウキウキした気持ちでいました。


◇◇◇


 イジュとの暮らしは順調です。


 何気ない日常も、イジュがそこにいると楽しいです。


 台所の設備も実家と今の家では違うので、ちょこちょこ失敗をしています。


 無残な状態になった食料を見ても、イジュは怒ったりしません。


 笑い転げたりはしますけどね。


 それを見た私がちょっとむくれると、すぐに謝ってきます。


 イジュとの暮らしは、とても楽しいです。


 でも、髪は変わらずピンク色をしています。


 白い結婚、なんて話をエリックさまが言い出したからでしょうか。


 一緒に暮らすのは楽しいけれど、私の髪色は変わりませんし、寝室も別です。


 慌てる必要はないのかもしれませんが、相変わらず祈りを続ける私を見て、クスクスコソコソしている人たちはいます。


 陰口を叩きたければ、叩けばいい。


 そのくらいの気持ちではいますが。


 メアリーたちはもちろん、他の人たちまでコソコソ言い始めたことには閉口しています。


 あまりに私の生活が変わらな過ぎて、私が男爵の位を得たことすら信じない人たちもいます。


 別に男爵になったからといって、ペコペコして欲しいわけではありません。


 私の生活を保障するための爵位みたいなものですから、村の人たちにはピンとこないのかもしれませんし、関係ないのでどうでもいいです。


 どうでもいいのですが、なんだかモヤモヤします。


 聖女を失ったときの自分たちの負担とか色々、分かっているのでしょうか。


 エリックさまが与えてくださったのは、私の生活や私自身を守るための地位やお金で、村の人たちの生活を守るためのものではないのです。


 私が聖女として必死に修行をしたり、日々祈ってきたことの価値が分からなくなりました。


 力は偶然与えられたものだとはいえ……この程度の価値しかないのでしょうか。


 そうだとしても、ほぼ無料で得られていたものが有料になれば、それなりの経済的ダメージはあると思います。


 何も変わらないと思っているのかもしれないですし、その程度なら負担しても構わないと思っているのかもしれません。


 だとしたら、私が今まで頑張って努力していたことって何だったのでしょうね。


 なんだかモヤモヤします。


 私は幸せなので特に不満はありません。


 でも、結婚生活ってこんな感じでいいのか、ちょっと疑問に思っています。


 どうにかした方がよいのでしょうか?

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