第12話 結婚のお披露目

「ありがたいのですが、大げさではありませんか? エリックさま」


 神殿での式を終え、表に出た私たちが見たのは、華やかに飾り付けられた馬車です。


 屋根のないオープンタイプの馬車は水色をベースとした豪奢なもので、金色に輝くレリーフで縁取られています。


 もともと華やかな馬車が、白い花々と白く輝く太いシルクのリボンで飾られているのですから豪華すぎて田舎の景色の中では目立ちすぎです。


 平民しかない村ですよ? エリックさま。


 私に男爵の爵位を授けたといっても、これは派手すぎませんか。


 極めつけはドアの部分に飾られた王族の紋章です。


 明らかにやりすぎです。


「んー。私としては、控えめにしたつもりなんだけど?」


 エリックさまは、王族用の金糸銀糸に飾られたキラキラしい聖衣をまとって、感情の読み取りにくい笑顔を浮かべています。


 まったく油断も隙もあったもんじゃありません。


 いくら村の人たちへの意趣返しで結婚するといっても、ここまでやったら悪目立ちもいいところです。


 絶対分かっていてワザとやってるでしょ、エリックさま。


 初々しいウエディングドレスには似合いませんが、私はちょっときつめにエリックさまを睨みつけてやりました。


 エリックさまは笑顔でスルーです。


 流石は王族です。


 スルースキルが半端ない。


 いや、関心している場合ではないのですが。


 私の隣では、イジュがポカンと口を開けて馬車を眺めています。


 彼にとっては初めてのことですから、反応に困って思考停止しているのでしょう。


 エリックさまは、このような悪ふざけがお好きなのです。


 実際に体験していけば、それがいかに鬱陶しいものか分かってくると思いますが。


 これが私と結婚するということか、……なんて思われて、イジュに逃げられたらどうするおつもりですか、エリックさま。


 私、まだ聖女ですけど、恨みますからね。


「さぁさ、皆さんお待ちかねだよ。馬車に乗って村をグルッと一周回っておいで」


 エリックさまはニコニコしながら、私たちを馬車に乗せてしまいました。


 こうなったら仕方ありません。


 笑顔を振りまいてやろうじゃありませんか。


 妙な覚悟を決めた私の横で、イジュは戸惑いのあまりカチンコチンに固まっています。


 もう馬車に乗っている状態なので、問題ないでしょう。


 仕方ないです。


 エリックさまが合図すると、馬車は静かに走り出します。


 ゆっくり走る馬車の後ろには、家族の姿。


 お披露目しながらお菓子を配るのが、この村の習わしです。


 駆け寄ってくるのは主に子供たちですが、その人たちに家族がお菓子を手渡しています。


 村全体を回ると距離があるので、中心部をゆっくり進んでいくのです。


 そうすることで噂を聞き付けた村の人たちがお菓子をもらいに来て、二人の結婚を祝ってくれます。


 ゆっくり進んでいくということは、周りの様子もしっかり見られるということです。


 私とイジュがお祝いに駆け付けた人たちへ手を振ってお礼をしていると、こちらを見ながらコソコソ言う声が聞こえてきます。


 声の方に目をやれば、メアリーたちの姿が見えます。


 村長の娘であるメアリーの周りには取り巻きであるアンヌとレナはもちろん、若にも若い男性や女性たちが集まっています。


 こちらを見てクスクス笑っている様子は、とても祝っているようには見えません。


 時折、風に乗って「行き遅れて慌てて結婚したのね」とか「王族とも付き合いがあるのに、相手がイジュなんて」などという声が聞こえてきます。


 相手がイジュで何が悪いのでしょうか?


 そんなことよりも、この結婚によって村から聖女はいなくなることになりますが。


 その意味、本当に分かってますか?

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