第3話 田舎も色々とありますのよ

 自宅の手前でイジュと別れた私は、朝食を作るために台所に向かいました。


 我が家は農家です。


 朝の一仕事を終えてから朝食を食べるのが日課になっています。


 食事の支度は数少ない私の仕事の内の1つです。


 今朝は朝採れの野菜を使ったスープとサラダでも作りましょう。


 台所で材料が届くのを待ちながら鍋に火を入れ、食器を並べます。


 鍋のスープが温まってよい香りが漂い出したころ、野菜を抱えた両親が家に到着しました。


「お疲れさまです」


「ただいま。今日は春キャベツをとってきたよ。後、玉ねぎ」


 父から渡された野菜を受け取ります。


 手早く野菜を鍋に投入し、サラダ用に皿にも盛り付けます。


 私は軽く温めたパンをテーブルに着いた両親へ差し出しながら、今朝の出来事を両親に話しました。


「ならいっそ結婚してしまえばいいのでは?」


 父がモジャモジャした茶色の眉を眉間に寄せながら言いました。


「そうよ。うちの娘が頑張っているから、この村は平和なのよ? それに甘えているくせに嫌味をいうなんて」


 母も赤い瞳をギラギラさせながら怒っています。


 父は茶色の髪に茶色の瞳、母は赤毛で赤い瞳をしています。


 ピンク色の髪である私が生まれた時には浮気疑惑が持ち上がって大変だった、という話を兄と姉から聞いていますが、ここで触れるのはやめておきます。


 後に聖女であることが判明して夫婦喧嘩は終了したらしいです。


 私は赤ちゃんだったので知りませんけどね。


 それだけ聖女は珍しいということです。


「私が結婚したら、この村に聖女がいなくなるわ」


 私の正論に、父が苦い葉っぱを口に押し込まれたように顔をしかめました。


「恩を仇で返すようなところに、お前が義理を感じる必要はないんじゃないか?」


「そうね……そうかも」


 言われてみればそうです。


 村に貢献していれば感謝されるのが普通ですよね。


 クヌギ村から聖女が消えて、その分の経費が税金として重くのしかかったとしても私一人が責任を感じる必要はありません。


 村にある一軒一軒の負担が少しずつ重たくなるだけですから、知ったことではないですね。

 

 ちなみに我が家は、私が王都へ修行に出た際の礼金を蓄えているので安心です。


 私のもらった報酬は、別に蓄えています。


 ですから、この家から私が出ていっても両親が困ることはありません。


「ええ、そうよアマリリス。私たちはアナタの幸せを願っているわ」


 ありがとう、母さん。


 浮気疑惑で揉める原因を作った私の幸せを願ってくれて。


「お前が結婚した方が幸せだと思うなら、結婚したらいいんじゃないか?」


 ありがとう、父さん。

 

 仕事や家事で一日中ずっと一緒だった母さんに浮気疑惑をかけた父さんの見識については疑問に思う所が多いけれど、その提案は一考の価値がありますね。


 私自身の幸せ、ですか。


 そういえば考えたことがありませんでした。


 そうですね。ちょっと考えてみましょう。

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