第6話 完成したイラスト

 一週間後。

 俺は秋月の許へ向かうと、本を彼女は読んでいた。表紙はブックカバーに隠れていて、見えなかった。


「お客様のなかに探偵の方はいらっしゃいますか」

「は? 秋月なんて?」

「よお、ワトソン、の忠犬君」

「そこはワトソンでお願い」

「君に助手は期待してない」


 俺は苦笑した。手厳しい意見だな。

 そしたら秋月が鞄の中から五枚のイラストが描かれた紙を渡してきた。


「メインヒロイン、すごく可愛いな」

「メインヒロイン」と落書きされたイラストには、白髪の儚げな少女がこちらに向かって泣き笑いの表情を見せていた。


「すごい。すごいドストレートに胸に迫ってくるものがある。これなら、眞衣にもなにか伝わるかも」

「で、その絵師が君に会いたいんだって。だから今度の週末、渋谷ハチ公前で待っておきなさい」

「渋谷ハチ公前って、それは俺が犬だからだよな?」

「なに馬鹿なこと言っているの、ワンコ君。当り前じゃない」


 俺は項垂れてしまった。馬鹿なこと言っているのはお前だよ、という言葉をぐっと堪える。


「で、その絵師の風貌と名前は?」

「大竹希美きみよ。写真見せるわね」


 そう言ってスマホを見せてくる。

 写真画像には、セーラー服におさげの髪に丸渕メガネという、いわゆるイモだった。言葉を失ってしまう。唖然としていると、足を踏みつけられる。


「痛っ‼」

「女子に対して失礼な感情を感じ取ったから」

「す、すみません」

「まあ、会ったら“びっくりするかもね”」

「そりゃあこんな感じだったら――」

「黙れ、このルッキズム!」


 また足を踏みつけられた。


 ◇


 近所の駄菓子屋の前で、俺と橘はお菓子を食べながら談笑していた。


「なあ、お前はおさげの女子がいたらどうする?」

「どうもしないな」

「その女子が、実は休日にバニーガールのコスプレをして、町中を闊歩していたら」

「迷うことなく通報するな」

「それが眞衣だったら?」

「迷うことなく抱きしめる。で、告白する」

「お前、キモイな」

「そんなこと言わないでくれよ。お兄ちゃん」

「うわ、鳥肌立ったわ」


 俺はラムネを一気飲みして、立ち上がった。


「これ以上、変態と話してらんねえわ」

「犬のお前に言われたくないわ」

「それ、二度と言うなよ」


 俺は自転車に跨った。「じゃあな」と言って駄菓子屋から去った。

 背中から夏が迫っているような気がしていた。そんな気温だった。



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