第7話 ギャル
俺は渋谷ハチ公前で傘を差して待っていた。
腕時計で時間を確認する。約束の九時まで残り五分。
すると、肩を叩かれた。振り返ると茶髪ボブヘアの、丈の短いスカートを履いたギャルが立っていた。
「あの、どちらさんですか」
「大竹希美よ。あなたのゲームの絵を描いた」
俺は信じられなくてスマホを彼女に見せる。おさげのイモ少女の写真。
「ああ、これ、三年前の私ね」
「何歳なんですか」
「十八よ」
「ということはこの写真は中学三年の頃か」
「上京するまでは群馬県に住んでいてね。その頃は風貌通り、オタク少女だったのよ」
どう、可愛いでしょ、と俺に姿を見せてくる。そんな言葉を無視して俺はイラストの礼を言うと、俺の肩をバシバシと彼女が叩いた。
「さあ、君の家に案内してよ」
「じゃあ、俺の最寄りの駅でもいいでしょ。集合場所。ほんと腹が立つなあ。こんな犬の前で待たせて」
「いいじゃない。ワンコ君なんだから」
◇
「どうぞ」
休日だから家に父も母もいる。大竹が挨拶をしたいと言ったので、両親に会わせる。
「どうも、大竹希美と言います」
「この人、アマチュアだけど相当腕の立つイラストレーターだから」
俺がそう横で説明すると、興味深げに父が彼女の全身を嘗め回すように見ていたので、心のなかでキモッ、と思いつつ大竹を手首を掴んで自室へと招いた。
俺は小声でごめんと言った。「別に気にしてないよ」大竹は笑った。
俺の部屋に招くと、彼女は目を輝かせた。
「すごい、『Next』のゲームのポスターや初版発行の希少なゲームソフトやドラマCDがあるじゃない。オタクの宝箱ね」
「だろ。少し遊んでいくか?」
「うん。遊んでいきたい」
俺はパソコンの電源をつけて、そのあとHDMIコードでパソコンとテレビ画面をつなげた。
やるゲームは「COLOR」というものだ。泣きゲーとしての評価が頭一つ抜けて高く、テレビアニメにまで展開され、「COLORは人生」という名言まで生まれたほどだ。
十時間後。すっかり夕方の頃。扉がノックされた。
母が恐る恐るといったように扉を開けてきた。
「なんか喘ぎ声が聞こえると思ったら、ゲームなのね。安心した。いや、年頃の女子と同部屋でエッチなゲームをするのはだいぶと異常かも」
「うるさいなあ、母さん。それでなんなの」
「あっ、夕飯出来ているから。よかったら大竹さんもどう?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
微笑んでいる大竹。でもその表情にはどこか陰りがあるように思えた。
「俺もいいよ。後で食う」
「そう。分かった。ゲームは休憩しながらやりなさいよ」
扉が閉まる。俺は嘆息を吐いて、大竹を横目に見た。
「本当に飯、いらないの?」
「うん。いらない」
「ふーん」
彼女は、不健康な体だった。ひどく華奢なのだ。きっと体重も四十キロ台だろう。絵の練習とかでストレスなどがあるのだろうか。
「なあ、絵師ってどんな仕事なんだ」
「絵ってね、終わりがないのよ。上手くなっても下からどんどん自分の絵の技術を超えられる。そうすると自分の仕事が危ぶまれる。それの繰り返し」
「そんな絵師を目指して、拒食症みたいな感じに?」
「……この話し、やめない?」
彼女にとって触れられたくない話題だったのだろう。俺は謝って、ゲーム画面に集中した。
その画面では、ヒロインが涙を流しながら、みなの記憶から忘れ去られていくのを「仕方ないね」の一言で主人公に別れを告げた。文字通りのバッドエンドだった。
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