第5話 イラストレーター志望

 その日の夜、俺はさっそく絵師志望に連絡を掛けた。


「もしもし。すみません。竹達俊と申します。えっと――」

「あれ~思ったより早いわね」

「え? はい?」

「変態犬からの鳴き声の連絡を聞いてやってほしいって秋月ちゃんに頼まれていたからね。でもどうせ怖気おじけづいて来ないだろうなって思っていたのに。違ったわね。変態犬って言ったらどうせ“タマなし”だろうし」

「タマなしってどういう意味ですか?」

「度胸なしって意味よ」


 けらけらと笑う声が電話越しに聞こえる。「失礼ですよ」

 声は若い。女性の声で、余裕がある感じだ。


「私も従順な躾犬が欲しいわね」

「あのー、そろそろ本題に入ってもいいですか」

「いいわよ」

「俺のPCゲームに絵を描いてくれませんか」

「分かった。私にもチャンスに

なるだろうし」

「……」

「それから動機を聞きたいなあ。君がエロゲーを作るようになるきっかけを」

「妹が、中学の時にいじめに遭うようになってしまって。それが単純に妹が他の女子より可愛かったからというのが主な理由なんですが……。そんな妹と俺が好きだったのが『Next』の部署から発売された、『COLOR』というゲームだったんです。シナリオライターの大田准に憧れて。妹と一緒に約束したんです。いつかお兄ちゃんの作ったゲームを遊ばせて。それで泣かせてみせてよ、と」


「OK。了承した。それで、キャラクターの造形は?」

「えっと……ヒロインの数は五人で、メインヒロインは銀髪で」

「ふーん。なんか、有りがちね」

「そうなんだけど、まあ、受かりやすいようにさ」

「わかった。まあ、ちょっと考えてみる」


 プツンと通話を切られた。

 俺は息をついて、椅子にもたれかかった。


「どうしたもんかな」


 俺は首元のネックチョーカーを触った。俺は犬なのか。人間なのか。でも、美人な同級生の犬になる夢は、誰しもが持つ夢なのだろうか。俺はそうは思わない。できれば人間でありたいものだ。

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