中編

 120万という想定外の金額に僕は腰を抜かしそうになる。最初は60万いかないくらいだったのに、いつの間にか2倍になっている。というか、僕が伝えた予算を明らかにオーバーした金額だ。


 内訳を見ると、まず本体価格で約60万、法定費用などで16万、オプションで35万、輸送費用で10万円だった。いくらなんでもオプションが高すぎると思った。


 僕は銀行で借りたと言っているのにもかかわらず、いつの間にか自社ローンを組む前提の話になっていた。しかも、金利は僕が借りた銀行のおよそ3倍だ。

 僕が脳死状態で固まっていると、男性社員はにこやかに話しかけてくる。


「どうです? 買いませんか?」

「あのーこのオプションいらないんですけど……」


 僕がオプションを指さしながらそう言うと、男性社員は笑みを崩さずに返す。


「いや、オプションは付けといたほうがいいですよ」

「でも、これじゃ予算が……」

「あぁ! じゃあローンの年数を増やす方向で行きましょう。10年ローンくらいで計算しましょうか」


 10年……!?

 ここまで来ると僕は怖くなってきた。


「お客さんボーナス併用払いを希望していましたよね。でも、ボーナスは貯めて、ローン年数増やして月額を下げましょう。お金が溜まったら一気に返せばいいんですよ」


 でも、そんなことをしたら金利で恐ろしいことになるんじゃないか。僕はそう思ったが、怖くて口には出せなかった。そもそも、何故ローンを組む前提で話が進んでいるのだろうか。

 どうやら相手はフルオプションで、自社ローンを僕に組まようとしているようだ。


「お客さん保険とかはどうするんですか?」

「友人が保険屋さんで働いてるんでそこにしようかなって」

「なんて名前のとこですか?」

「えーっと……名前なんだったかなぁ」


 友人が働いている保険屋はすごくマイナー名前だった。それに加え、異常な緊張感のせいで頭が回らない。


「そんな怪しいとこ大丈夫すか? お友達さん、もしかしてやばいとこで働いているんじゃないですか。その友達気をつけたほうがいいですよ」


 男性社員はバカにした様子で笑う。僕も「アハハ……」と愛想笑いを浮かべる。だが、内心では腸が煮えくり返る思いだった。


 自分のことをばかにされるのはいいが、僕の友人を馬鹿にするのは許せない。この時点で、この店で買うという選択肢は僕の中から消えた。


「じゃあ、うちも保険の伝手があるのでそこで契約しませんか? とりあえず、見てってください。保険の見積もりも合わせて持ってきますね」


 そう言って、男性社員は僕の元を去る。

 僕はこの間に、どうやってこの店を脱出するかを必死に考えていた。

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