Fourth Day


「それにしても…人が来ませんね」


「そうだね」


 ロビーはしんと静まり返っていた。今日は異常なほど客が来ない。この時期は忙しいんじゃないのかよ。まあ働かないで金もらえるんだからいいか。でもさ、土左衛門と二人きりは嫌なんだよ。何話せばいいんだよ…。終業まで残り約二時間。如何に耐えれば。


「今日は予約入ってないんだって」


 土左衛門が言った。こいつはさっきから客が来ないのをいいことに堂々とだらんとしている。


「まあ正直、こんな田舎にあるちっぽけなホテルに人が殺到するほうが珍しいですよね」


 現人がいないから言い放題だ。




「はぁ~~~暇だな〜〜〜」


 それは俺も同感だ。マジで暇すぎる。


「なんかしようよー」


 なんかってなんだよ…と思いつつ、俺は優しいので一応ちゃんと考えてあげた。


「恋バナとかですかね…」


 なんで俺はこんな奴に恋バナを提案してるんだろう。おかしいだろ。


「あのさぁー被川くん。俺から恋バナが出てくると思う?」


 まあ、そりゃそうだわな。


「じゃあ、怖い話とか…?」


 多分俺は結構疲れてるんだと思う。恋バナ然り、怖い話然り、いつもの俺なら毛ほども興味がない。


「怖い話ねえ…」


 どうやらこれもあまりお気に召さないようだった。なんなんだこいつ。自分から人に振っといてなんだその態度。正直許されるなら今すぐぶん殴りてえ。


「でも僕、霊みえるんだよね」


 ふいに土左衛門が真面目な顔で言い、それから俺の顔を見てニヤッと笑った。

 コイツはほんっとうに……。もう呆れるしかない。しかし俺はさっきも言ったように優しいのでしっかり話に乗ってあげた。


「じゃあ、今俺になんかついてます?」


「ついてるよ。一人かな」


 そんなあっさりと言うものなのかよ。でもまあ所詮はインチキ。暇だしコイツを持ちあげてみるのも悪くない。なんか得するかもしれないし。


「えぇっ!?どんな人ですか?」


 すると土左衛門は俺を凝視してうーんと唸った。


「君、父方の親戚が亡くなってるでしょ」


「そりゃあまあ何人かは…」


「やっぱりやっぱり!君に憑いてるのは多分お祖父じいさんじゃないかな?」


「ほえー」


「名前は正治さんであってる?」


「平吉です」


 沈黙。


「…じゃあ平吉さん」


「あと申し訳ないんですけど、俺の祖父どっちも生きてます」


 沈黙。


「あ、そうなんだ。まあ生きてるほうがいいよね」


「そうですね」


 沈黙。



 ダメだ…本当に。

 さっきからチラチラ時計を見ているが時間の進みが遅すぎる。地獄だ。

 もう現人でも御園爺さんでも存在しない遊川さんでも俺の爺さんでもでも何でもいいから助けてほしい。


 へるぷみー。

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