Second Day morning


「被川様、昨夜は大変早い時間にお休みになられたようですね。夕食もお召し上がりいただけなかったとのことで、少し心配しておりました」


 朝からお前に心配されたくない。うざい。黙れ。俺寝起き悪いんですよ。


 いや冷静に考えたら八つ当たりじゃん。ごめんね現人さん。ありがとうございます。


「すいません。昨日はちょっと疲れたんで…」


 俺がそう言うと、現人はこれ以上追求してこようとはせず、微笑んでどっかへ行った。

 もしかしたら良い人なのかもしれない。


 土左衛門は昨日の出来事を意外にもあまり気にしていなかったのか、何事もなかったような顔で制服に着替えている。

 あれは多分、夢だったんだろう。そう思うことにして、俺も着替え始めた。


 そういえば。


 あの爺さん。名前はたしか…御園みその。あの人昨日から見ないな。俺達とは仕事内容が違うから会うことがないっぽい。


 それにしても一回も会わないってことあるか…?

 まあいいや、俺には関係ないことです。まだ二日目だしね。


「被川さん、高乃さん、朝食をご用意しておりますので、ぜひお召し上がりくださいませ」


 いつの間にか現人が現れて、俺達をスタッフルームらしきところに誘導してくれた。


 部屋の中のテーブルには何皿か料理が置かれていた。まかないありか。ラッキー。いや普通に泊まり込みで食事なしはきついか。

 ありがたくいただきます。


 意外にもちゃんとした和食だった。豆腐の味噌汁のあったかさが身体に染みる。白米がめっちゃ甘くて美味かった。

 土左衛門はなぜか横で泣きながら食ってた。「ばあちゃんの味だ…」と嗚咽混じりに言っている。よかったね。



「おはようございます」


 突然、男しかいないこの部屋に高くて澄んだ声が響き渡った。

 声の方を見ると、スラリと背の高い美人がドアの近くに立っていた。


 現人はその人の方を向いて挨拶をし、朝食を勧めている。


 見た感じスタッフらしい。

 まじか…こんなとこ訳ありのよくわからん男しかいないと思ってたけどこんな別嬪さんが働いてるんですか…?


 クールビューティーって感じの人だ。俺よりは年上そう。

 高く結った黒髪の毛先が揺れていて思わず目で追いかけてしまう。たしか人間は自然と揺れるものに注目しちゃうんだっけ。


 ふいに美人が俺たちの方を見て、軽く微笑みながら会釈してくれた。これはワンチャンありますか?…ないですね。


 土左衛門は意外にも美人には目もくれず食事に夢中だった。


 美人が俺たちのテーブルに近づいてきて、「ここ座ってもいいですか?」と聞いてきた。そういえば俺たちの向かいの席に食事が一人分用意されていた。『遊川さん用』と書かれた紙が添えられている。

 俺はどうぞどうぞと返し、着席した美人(多分遊川さん)を改めて見た。

 やっぱ美人だわ。目は綺麗だし睫毛も長いし鼻筋がすっと通ってて鼻の穴から舌生えてて

 




 ……………?





 は?



 舌?俺今…え?



 目を擦ってもう一度見てみた。無くなってた。ただの美人が目の前に座っているだけだった。


 びびった。



 俺疲れてるのかもしれない。




 というか流石に凝視しすぎたらしい。

 遊川さんが少し怪訝な顔をして俺を見た。俺は咄嗟に目を逸らして何事もなかったかのように装う。



 ごめんね遊川さん。キモかったですよね。





 ちなみに土左衛門は白米五杯くらい食ってた。

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