First Day break

フロントと清掃が俺達の主な仕事らしい。

説明してくれんのかなって思ってたら、なぜか急に現人に呼ばれて別室に連れていかれた。え?


「被川さん、一つだけ質問させていただいてもよろしいでしょうか。」


ぐんっと現人の顔面が迫ってきた。ビビった。


「ど、どうぞ…」


現人は満足そうに頷いて、それから意味不明な質問をしてきた。


「貴方、死んでも良い、とか思いませんか?」


「え?」


「命を、投げ出しても構わない、と思っていますか?」


現人の目から、いつの間にか光が跡形もなく消え失せていた。

何言ってんのこの人。


「思いませんけど…」


そう思ってたらとっくにこの世からおさらばしてるし。 


現人は俺の答えを聞いても尚、寸分も表情を崩すことなく俺をじっと見つめた。少しでも油断すると、底がない沼みたいに濁った瞳に吸い込まれそうになった。やっぱりこの人はキモい…違う。怖いんだ。

この人は怖い。上限不明の恐怖を持っている。


そっか。怖いんだ。そうだね。


気持ち悪いとか言ってすみませんでした。いや怖いも失礼か。


俺の返答に満足したのかそうじゃないのかはわからないが、現人はまたすぐに満面の笑みになって、「ありがとうございました。」と言って俺を解放してくれた。


なんだったんだあれ。


俺だけに聞いたのか?それとも他の二人はもう既に聞かれてんの?


戻ると土左衛門と爺さんが(めっちゃ小声だけど)何故か談笑していた。いつの間にか仲良くなってましたコイツら。


俺が戻ってきたのに気づくと、二人は一瞬気まずそうな表情になってそれから黙り込んだ。

おい。


空気が死にかけたところで現人が戻ってきた。

ありがとう。ナイスタイミングです。


「それでは皆様、早速仕事の内容についてご説明させていただきたいと思います。」


そうして俺と土左衛門は現人にフロントの方に連れて行かれた。爺さんは清掃の担当になったらしくどこからかやってきた別のスタッフに連れられてどっかに行った。



一通りフロントの仕事を教わって、休憩を許されたのでトイレに行った。なんの芳香剤使ってんのか知らないけどめっちゃ変な臭いする。臭いが強すぎるとかそういうことじゃなくてまじで『ヤバい』臭いするんだけど。これはまずい。鼻つまみながら用足してさっさと出た。


出た瞬間に今からトイレに入ろうとしてるらしい土左衛門と鉢合わせたので警告しておいた。

アイツは「えへ」って言ってそのまま入って行きました。

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