First Day self-introduction

変にジメジメしてて気持ち悪い日だ。

流石は六月ですね。


でも外よりもこの建物の中のほうが湿気が高い気がする。多分原因はこいつだ。


「皆様、この度は面接にお越しいただき誠にありがとうございました。三名もの方にお越しいただき、大変嬉しく思います。これからの七日間、皆様には、協力し合って仕事をしていただけますと幸いに存じます。」


口元に微かな笑みを浮かべながらペラペラと話しているのは、現人あらひと―――このホテルの総支配人らしい。なんか燕尾服?っていうの?みたいなの着てる。田舎にあるこじんまりとしたホテルの割にはお洒落な服ね。この人無駄にスタイル良いから似合っててちょっとムカつく。


会うのは二回目だけど、やっぱりこの人どっかキモいんだよな。

見た目がどうとかじゃなくて雰囲気の話。オーラがヌメヌメしてるんだよね。前も言ったけど。


「それでは皆様、改めて自己紹介をしていただけますか。一言ずつで構いませんので。」


そう言って現人が笑う。にこっていうよりはニチャア…って感じの笑顔だった。


自己紹介だってさ。

俺はさっきまでもはや存在すら意識していなかった二人のほうを見た。

一人は俺よりは年上だけどまだ若者の域には入る感じの中肉中背の男。もう一人は明らかに爺さんである。多分少なくとも古希は迎えてんじゃないかなってくらいには老けていた。マジか。この人。


「じゃあ…僕から行きますね。」

二人とも誰かが先陣を切ってくれるのを待っている様子だったので、仕方なく俺から始めることにした。あとシンプルに現人にめっちゃ見つめられて怖かった。わかったすれば良いんでしょすれば。

俺が口を開いたことに二人は安堵しているみたいだった。特に若者の方。


被川ひかわいのりです。二十歳です。これから七日間、よろしくお願いします。」


まあこんなもんでいいでしょう。




パチ、パチ、ぱちぱち。



現人がまたあのニチャア顔をしながら手を叩いていた。残りの二人もつられて小さくまばらに拍手し始めた。でも二人の顔は死んでる。

端から見たらヤバい光景なんだろうね…。空気終わりすぎだろ。通夜?


はい。次お前らだろ。


視線で二人に訴える。若い方が嫌だけどしょうがないなあ…みたいな顔で俺を見た。いやはよやれ。てめえは誰なんだよ。


「え…えっと……。僕…ど??ぇムンって…いい、ます…。」


は?ドMってなんだよ。


「え?」


思わず聞き返してしまった。


「ど…土左衛門っていいます!!!」


男は顔を真っ赤にして叫んだ。叫んだとはいえ声は割と小さかった。


どざえもん?

ふざけてるんですかこの人。


「自分は土左衛門です。何歳か忘れたけど多分27くらい?だと思います…。ヨロシクオネガイシマス…。」


ツッコミどころが多い人だな。まず土左衛門ってなんだよ。水死体の意じゃねえか。ふざけてんのか普通に狂人なのかわからん。


「え…?それ本名なんですか?」


これは聞かなきゃ駄目だろ。土左衛門さんなんですね〜よろしくお願いします〜なんて言えるわけねえよ。


「いや本名は高乃たかの史也ふみやっていうんですけど。」


おい。


「じゃあ高乃さんでいいんじゃ…」


「いや、土左衛門です。僕は土左衛門なんです。」


こいつ妙に圧が強くて怖い。わかりました土左衛門さんですね。目怖いって。やめてその目。


こいつはその年でやべーバイトしようとしてる爺さんに比べたらまともだと思ってたけど、むしろもっとヤバい奴じゃねえか。俺こいつと七日間一緒に過ごすの…?もう既に無理なんすけど…。


じゃあもうこの超ミステリアス爺さんだけが唯一の希望じゃん。かなり絶望的ではありますが。


御園みその卓造たくぞう。73。」


ぶっきらぼうではあるけど土左衛門に比べたらめちゃくちゃまともだ。いや土左衛門がおかしすぎるだけか。


こうして俺は水死体野郎とジジイと七日間一緒に『協力』し合って仕事することになった。っぽい。








無理だろ。

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