第6話

陸海軍の合同演習から2ヶ月後の1935年6月、航空機と艦船による大規模な実戦形式の訓練が行われた。航空機は戦略研究所が新型高性能無線機の開発中に偶然開発された無線による操縦で全ての機体が操縦され、その機数は全て合わせて40機にも及ぶ。一方艦船の方は最近改修が終わり九五式105mm両用砲を4基8門搭載した「長門」型戦艦と同じく改修により九五式105mm両用砲を2基4門搭載した「金剛」型戦艦を合わせた計6隻の戦艦と対空砲を換装した「妙高」型および「高雄」型計8隻の重巡洋艦そして最近就役したばかりの新鋭駆逐艦である「白露」型防空駆逐艦が2隻と主砲を換装したばかりの「初春」型6隻の計26隻がこの訓練に参加した。この訓練は実弾を使用した本格的なものであるが実弾なのは対空砲弾のみであり魚雷や爆弾は模擬弾を使用している。なお防空軽巡は就役が間に合わなかったため今回は参加を見送っている。こうして始まった艦隊防空演習だが多くの問題が生じる、それは新型の九五式105mm両用砲の対空砲弾が足りないという事態が発生する。これは砲の新造及び搭載する艦の改造がかなり速いペースで進んだため砲弾の製造が追いつかなくなったため起きた。さらに出撃した40機の航空機のうち20機は最新鋭の九六式艦戦および九六式陸攻だったのだが残った20機を占める旧式の九五式艦上戦闘機のうち10機が離陸して早くにトラブルを起こして5機が墜落、3機が不時着し擱座し滑走路上で大破炎上、2機がやむを得ず誘導路に着陸しようとしたところ失速してそのまま横転し大破するという事故が発生する。しかしながら幸いにも無線操縦の無人機であったため人的損害はなく終わった。これにより中止の可能性も出てきたが、時間との兼ね合いでそのまま決行となった。


「左舷前方から敵機!機数は10機!」


「対空戦闘よーい、対空砲発射はじめ!」

艦隊の左翼を航行していた重巡洋艦「愛宕」では艦の左舷より接近してくる航空機を見張り員が発見し対空戦闘に入った。


「航海長、艦を敵機に向ける取り舵いっぱーい!」


「取り舵いっぱいヨーソロー、とーりかーじ」

しかし必死の対空戦闘および操艦もむなしく「愛宕」は投下された魚雷すべてをよけきることはできず艦側面に2発の模擬魚雷を被雷し中破の判定を受けてしまい対空砲火が薄くなってしまう。その隙をついてさらに左舷より九六式陸攻2機が突入し、「愛宕」より少し離れたところを航行していた戦艦「金剛」に対し魚雷を投下するが、投下された数が「愛宕」の時より少なかったため一発も被雷せずに終わる。

そして「金剛」が被雷した「愛宕」の敵討ちと言わんばかりの対空砲火を打ち上げ攻撃してきた九六式陸攻2機すべてを撃墜する。しかし「金剛」もこれが限界だった、いつの間にか右舷至近距離まで接近していた九六式戦闘機4機より爆弾4発を喰らい右舷対空砲のうち3分の1が大破し使用不能となる。こうして朝の9時に始まった艦隊防空訓練は終了した時点ですべての艦が少なくとも1発の爆弾を被弾し損傷していた。一方航空機は九五式戦闘機は全機が撃墜されたものの九六式陸攻は参加した10機のうち3機が九六式艦戦は同じく参加した10機のうち2機が撃墜されるという結果に終わり艦隊が敗北した。しかしながらこのことを重く見た鉄砲屋の一部は直ちに艦政本部に掛け合い、九五式両用砲のさらなる増産と改良および艦への搭載を要求し、敵機を撃墜可能な空母の建造および新型の対空射撃装置の要求を行った。

一方航空屋は航空機の強さを改めて再認識したが、速度が遅く複葉機である九五式艦戦が全機撃墜されたのに対し速度の速かったため撃墜数が少なかった九六式艦戦の大量増産と九六式艦戦の後継である十二試艦戦の速度要求の速度を増やすように戦略合同航空局およびメーカーに対して要求した。

そして今回の訓練で得た様々なデータをもとに艦では被弾時に艦の被害を極限まで減らすための小隊が編成され艦の被弾時の被害軽減に役に立った。そして艦長などの上官に関しても再教育が行われ、艦とともに運命を共にするぐらいなら生き残ってより多くの戦果を挙げるべしとの方針に切り替わり乗員の生還率の向上に寄与した。

航空機の戦術に関しても変更があり、従来までなら相手の機体の速度がこちらより早くとも横旋回を主とする格闘戦に持ち込むべきとの考えから、敵の上方より高速で接近しすれ違いざまに重い一撃を叩き込む一撃離脱の戦術に変更され、格闘戦は最終手段とされた。仮に格闘戦を行うとしても速度を活かすことのできない横旋回主体の格闘戦ではなく速度を最大限活かして戦うことのできる縦旋回主体の格闘戦を行うように厳命されたほか基本的に僚機とペアを組み2期1組で戦うように搭乗員教育が変更されたほか、従来では1編隊3機だったのを1編隊4機に変更した。そしてすべての士官および下士官に対し、たとえ生きて帰るのが難しい状況となってしまい敵と相打ちになることで戦果を挙げるぐらいなら、全力で生きて帰り、治療をうけさらに多くの戦果を挙げるように通達された。この教育改革のおかげで実際に多くの兵士が生還している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る