第17話 初めましての笹倉メンバー会活動 3
「……野上。何がマジだって?」
笹倉に答えを求めて困らせているタイミングで牧田が戻ってきたかと思えば、ドリンクを両手にしたまま野上の隣に座った。
……かと思えば。
「これは秋稲の分」
「ありがと、千冬ちゃん」
「……で、こっちは栗城が飲む分。早く受け取りなよ!」
「お。おぉ……ありがとう」
持ってきたドリンクを、笹倉、そして何故か俺に手渡してくれた。両手がフリーになったところで、牧田は鋭い視線を野上に注ぎ、今にも取っ組み合いが始まりそうな空気を作り出している。
牧田からドリンクを頂いた俺と笹倉は飲むに飲めず、牧田と野上を見守るしか出来ない。
「話なんか聞いてなかったくせに、急に割り込んでくるとか~千冬って何?」
「聞かなくても分かるけど? 秋稲が気に入らなくて困らせようとしてたのはバレてるんだよ! だよな? 栗城?」
ここで俺に振ってくるのか。
「ど、どうだろう……」
笹倉を気に入らないと言ってたのは花本だから、野上が笹倉をどう思っているのかなんて俺には答えられないな。
しかし、あからさまに煽っていたし確率としては気に入らないんだろうけど。
「……ちっ、役立たずな奴」
そんなこと言われてもな。
「何で笹倉ちゃんじゃなくて千冬が代わりにキレてんのか、意味不なんだけど? 笹倉ちゃんじゃなくて、わたしが返事を求めたのは栗城君なんだけど~?」
「どうせからかいで告ったんだろ? 栗城をもらうとか言ってさ。そういうの、秋稲に言うの間違ってるから!」
「はぁ? 笹倉ちゃんに同意求めたつもりないし! 一言断り入れただけだし! ってか、栗城君が何も言ってないうちに決めつけんなし!!」
牧田は笹倉の騎士なんだろうか?
……というくらい、守ってる感じが見える。肝心の笹倉は口出しすることなくただただ様子を見ているだけだが。
「どうでもいいけど、栗城は野上を選ぶつもりが?」
「えっ? いや、俺は何も……」
俺にマジで好きとかもらうとか言っても、すでに花本の件があるから答えようがないんだよな。
……かと言って、野上に対し俺にはそのつもりがないとか言っても笹倉からしたら何のことだか分からないだろうし関係ないだろうな。
でも、この問題は俺がはっきりこの場で断ればいい話だなきっと。あまりいい空気にはならなさそうだが、野上にははっきりと言っておかねば。
そう思っていたのに――
「――っ! はぁ!?」
牧田の素早いビンタが野上の頬にばっちりと命中していた。
「秋稲が黙っているからって変なちょっかいを出すのは違うから! 何もしないし言わないって条件で笹倉グループメンバーに入れたのに、栗城に変なの言うとかあり得ないから!」
「……このぉっ!!」
おいおいおい……牧田と野上の取っ組み合いが始まってしまうじゃないか。何でそこまで揉めるのかはともかく、俺が二人を止めないとまずい。
笹倉はすっかり青ざめてるし俺が何とかしないと。
「……っと。そこまでにしとけよ、二人とも」
「――!?」
「村……尾?」
俺が何とかしようとした瞬間、牧田と野上の腕を掴んで止めに入ったのは村尾だった。
「戻りっす~!! 栗城君の分も持ってきたっすよ!」
少し遅れて月田が部屋に入ってくるが、状況が分かっていないようで俺にドリンクを差し出してくる。
「あ、あぁ。サンキュ……」
村尾に腕を掴まれた二人はよほど強い力で押さえつけられているのか、大人しくなっている。
「……で、幸多。牧田と野上がこうなったのはお前を取り合ってのことだからか?」
だから何で俺が関係してるんだよ?
「断じて違……」
「違います!!」
おぉ、俺よりも笹倉の方が真っ先に断言したな。頼もしいような悲しいような気がするが、野上はともかく牧田は俺に何の関心も無いから間違いじゃない。
「……笹倉が言うならそうだよな。幸多はそんなモテる奴じゃねーもんな!」
お前が言うなお前が。
「ってことは、野上がちょっかい出したってことで合ってるか?」
「……あんたに何の関係が?」
「関係大ありだ。おれは笹倉メンバーだからだ! 幸多もそうだし、月田もな。この活動は男子女子で仲良く親睦を深めつつ、誰かの片思いを両想いにするってのが目標の活動だ! 合ってるよな? 牧田」
村尾の説得力に牧田が大人しく頷いている。
「だよな。だから、幸多をからかうつもりで参加したとしても、喧嘩するのは違うわけだ。理解したか? 野上」
「……ごめんなさい」
「よし! なら、もう一度仕切り直しで乾杯な! 幸多もそれでいいな?」
「お、おう」
村尾……お前、こんなに男っぽかったのか?
俺に塩な牧田がすっかり村尾に感心して見る目がちょっとだけ違う気がするぞ。野上も同様に納得してるし、村尾の会になってしまったじゃないか。
「栗城君、何があったんすか?」
「何もなかった……何も」
「そ、そうなんすか」
……仕切り直しで、村尾の音頭でジュースの乾杯が再開された。
男を上げた村尾の隣には牧田と野上が座り、ついでに月田も加わり、四人で楽しそうに話をしている。俺と笹倉は村尾たちのテンションから外れ、二人で静かにジュースを飲むのがやっとだった。
「笹倉さん! うるさくしてごめん。笹倉会だし近くで話そう!」
「ううん、私は栗城くんの隣で……」
「……そっか。なら、女子に不慣れな幸多の相手をよろしく!」
牧田と野上の女子二人と楽しそうにしながら、村尾はちょいちょい笹倉を気にして声をかけていた。
なんてこった。村尾は実はモテる奴だったのか。月田は相手にされていなくても気にしてないようだが、何だか村尾に主役を取られた気がするぞ。
こうなったらせめて笹倉だけでも元気づけないと。
「あー……笹倉? 俺に構わず村尾たちと話をしててもいいんだぞ?」
「お隣さんの私を秋稲って言わないんですか?」
「あ、秋稲さん……だったな。悪い」
「別に、大丈夫です」
どういう意味で大丈夫なのやら。
「幸多くんは、女子の腕を乱暴に掴む男の子じゃないっていうのは理解しましたから」
「へ?」
「それって、結構高ポイントだよ? だからせいちゃんも幸多くんを……」
ポイントカードの話か?
青夏の名前が出てきたって時点で買い物の話だろうな。
「幸多くん。私、期待してるからね?」
「が、頑張ります」
「よろしい!」
村尾がちらちら俺と笹倉を気にして冷やかしの目を送ってきていたが、この日、俺は笹倉による何かの期待を受けてささやかな会話を楽しむことに集中した。
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