第16話 初めましての笹倉メンバー会活動 2

『かんぱーい!!』


 村尾の音頭で笹倉メンバー会の活動が開始された。


 文世ロード商店街にある小さなカラオケに集まったのは、男子は俺と村尾、それと月田。女子はリーダーの笹倉と自称サブリーダーの牧田、そして意外な女子、野上のの。


 みんなで最初に頼んだドリンクは遠慮なのか独自ルールなのか炭酸水だった。カラオケはとりあえず始めてもいない。


 なぜここに来たのが野上だけなのかはひとまず置いといて、俺に好意を持つ花本の援護をしていた野上は果たしてメンバーたちと打ち解けられるのだろうか。


 花本とのやり取りでは笹倉を嫌っていたはずなのに、今は――。


「笹倉ちゃん、次のドリンクはオレンジでいいよね?」


 野上って笹倉のことを笹倉ちゃんって呼ぶような可愛いキャラじゃなかったよな?


「あ、うん。お願いします」


 それなのに笹倉は俺と違って特に驚いてもいない。


 どういうことなんだ?


 男子というか俺に見せていた態度は裏の顔で、女子とか笹倉に見せる顔が本当なのか?


「うちも次はオレンジ。ののは好きなのを頼みなよ」


 牧田も同様で、俺に対し塩対応していたはずなのにまるで別人のように振る舞っている。ただ、これはあくまで俺目線であって、笹倉を含めて牧田も野上も村尾たちの存在を全く気にしていない。


「ほーい! そうする~!」


 率先して注文しているのは野上の役割のようで、牧田はずっと笹倉を気にしている。


 そう考えると俺だけ野上の闇を垣間見ただけで、実は女子達の間では変な感情がないのでは?


「――こ、幸多! おいっ、聞こえてるか?」

「……んあ? え、何?」


 女子達の動き、特に野上が俺に何か言うんじゃないかと気にしていたら、村尾が俺をずっと呼んでいた。


「……ったく、女子との距離が近いからって浮かれすぎだ。ずっと見てるのばればれだぞ?」

「いやぁ、浮かれたくもなるっすよ」

「いや、月田……俺は別に」

「戦友の中で栗城くんは硬派な英雄で有名なんすけど、女子に慣れてないのも有名っすからね~仕方ないっす」


 笹倉への想いは硬派だったかもだが、それとこれとは別だろ。


「お前の告白から始まった繋がりだからな~」

「始めたつもりはないし、あの時の俺は村尾や他の男子と違って……」


 からかいで告白したつもりもなければ冗談でもなく本気だった。


「……ん? 分かってる。幸多は戦友を作るつもりはなかったんだろ?」

「まぁ……」


 あくまで中学の頃の話だから今となっては今さら思い出したくもない話だ。とはいえ、連続で笹倉に告るなんて予想出来るはずもなく当時の戦友はかなりの数だった。


「野上さん、初めましてっすね! 自分は月田って言うっす! 教室じゃあまり話したことないんすけど、これから話しかけていいっすか?」

「あ、はい」


 おお?


 一番初めに誰が切り込むかと思っていたが、まさかの月田か。しかも野上の方にいくとは中々のチャンレンジャーだな。


 現状、何故かご対面な構図になっているが、野上に話しかけると同時に月田が先に動いた。


 笹倉は牧田によって守られていて、しかもモニター寄りの端のソファに座っているのでそこに無理やり割り込む余裕はない。


「笹倉さん、隣に座っていい?」


 そうかと思えば村尾、お前もか。


 ……っていうか、合コンとかと勘違いしてるんじゃないよな?


「……えっと、戦友2号さん、お名前は村尾さん……でしたっけ?」

「そう! 村尾。幸多のダチの村尾優生! 幸多と同じくらい仲良くしてくれるとおれは嬉しいんだけど」


 笹倉メンバー会って、俺のイメージと違って合コンだったり?


「悪いけど、。この集まりは男子が期待するような会じゃないんだけど、その辺勘違いしてる?」


 そして案の定、笹倉を守るように牧田が会話に割り込んだ。


「分かってる。冗談だよ。なぁ、幸多?」


 何で俺を巻き添えるんだよ。何の目的なのか分からないまま来てるってのに。


「さぁな。っていうか、実際このメンバーで何をするんだ?」

「つれない奴だな、全く。おれが説明してやるよ! それとも笹倉さん。君から幸多に教えた方が嬉しかったりするのかな?」

「……え、えっと……」


 村尾の奴、俺の気持ちを知ってて煽ってるのか?


 そもそも村尾だって笹倉に告白した戦友なのに、何で笹倉を困らせるようなことを言うんだ?


「……。グラスが空だけど、次飲むの頼んだら?」

「あー……それもそうだな。幸多も何か飲むだろ? 頼むのもだるいから、ドリンクバーに行ってくるわ! おれに付き合ってくれるだろ? 

「ふん、わざとらしい。じゃあ栗城。秋稲からこの会のことを聞いておいて」

「わ、分かった」


 村尾と牧田の間には何かしらの因縁がありそうだな。それに引き換え、月田と野上は適当に何か歌っているし上手くいってるじゃないか。


「……栗城くん、隣、座る?」

「え、いい……のか?」

「そんな照れることでもないよね?」

「それもそうだな。それなら、秋稲の隣で詳しく訊かせてもらうよ」

「う、うんっ! あのね……」


 ――なるほど。


 笹倉によれば、笹倉グループの集まりの目的はどっちも男子慣れ、女子慣れしてもらうことが目的だという。


 笹倉自身、普段から女子とばかり話すことが多く、クラスの男子ともまともに話さないらしい。牧田も同様で、ほとんど笹倉としか話さないらしい。


 野上は花本と一緒に行動するし教室ではとても大人しい女子として認識されているらしいが、俺にした行動を見る限り信じられない話だ。


「えっと、それでね……栗城くん、耳を近づけてもらってもいい?」


 またしても誰かに聞かれたくない話か?


 俺は言われたとおりに笹倉に耳を近づけた。


「……幸多くんって、誰かに片思いしてる?」

「――!? いや……ど、どうだろ。秋稲は?」

「私はずっと片思いしてるかも……」


 これはかなり思い切ったカミングアウトなのでは?


「……ん? それを俺に言うってことは、笹倉メンバー会は誰かに片思いしてる人の集まり?」

「そ、そうなるのかな」

「メンバー同士で上手くいくようにするのが目的?」

「ううん、そうじゃないよ。でも、クラスの誰かに片思いしてるのなら応援してあげたいって思ってるの」


 ……あぁ、別に集まってるメンバー間で片思いしてるわけじゃないのか。月田と村尾を見てると明らかに片思い目的じゃなさそうだしな。


「なになに~? 笹倉ちゃんと栗城君でナイショの話~? ののも聞きたいんだけど~?」


 この会の趣旨が分かったタイミングで野上が割ってきた。


 そういや、月田と二人で話をしてたんじゃなかったのか?


 月田の姿を探すも部屋にその姿が無く、気づけば部屋には俺と笹倉、それと野上しかいない。


「内緒でも何でもないけどな。な、笹倉?」

「うん。この会のお話をしてただけ」

「ふぅん?」

「月田……野上に話していたあいつはどこに行ったんだ?」

「あの人ならトイレに行ったよ。だから栗城君と話すしかなくなったんだけど、お邪魔な感じ?」


 やっぱり俺を煽ってるよな?


「邪魔だなんて、そんなことないよ? ののちゃんも一緒に話をしよう?」

「そうだな。月田がいなくなったんじゃ俺らと話すしかないな」


 牧田と村尾も戻ってこないし、野上とも話をするしかなさそうだな。


「月田とかどうでもいいし。わたしが話したいのって、栗城君だけだし? っていうか~」

「……え? ののちゃん、何?」


 ……何だ?


 何で野上は笹倉を見つめてるんだ?

 

「笹倉ちゃんには悪いんだけど~、わたしさ~栗城君が好きなんだよね。だからもらっちゃっていいよね?」

「――え」


 はぁ!?


 野上のの――やっぱりぶっ壊しにきたのか?


 野上、その冗談は笑えないぞ。思わず笹倉に目をやると、笹倉は俺の視線に気づいて困惑した表情で俺に視線を返してきた。


 俺は笹倉の視線を受けて軽く頷き、野上には睨みを利かせる。


「や、マジなんだよねー! 笹倉ちゃん、栗城君のこと、いいよねー?」

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