第15話 初めましての笹倉メンバー会活動 1
笹倉から
そして休み時間がくるたび、隣から俺に対し熱い視線が送られてきている気がしてならない。
「なぁ、聞いてるか? 幸多」
「で、だ……栗城には永井の下についてもらう予定で……って、聞こえてるのか?」
……とはいえ、俺にやたらと話しかけてきているのは前後の席の野郎ばかりだ。
「言っとくが、俺の耳は聖徳太子みたいに同時に聞こえるように出来てないぞ」
前の席からは村尾、後ろの席からはバイトの話を細かく教えてくる安原――といった感じで、器用に聞き分けが出来ない状況にある。
さらに加わろうとしている声が、隣の席の女子である笹倉とその前の席に座る牧田だ。安原は違うが、村尾と笹倉、それと牧田は笹倉メンバーというのもあって俺と話をしたいのだという。
「ん? もしかして、栗城……オレの話が全然耳に入ってない状態か?」
「気づいてくれたようで何よりだ。バイトの話は後で頼む」
そんな中、安原は後ろの席から俺を含めた周りの様子がよく見える、あるいは妙な空気を感じたのか俺への話しかけをやめてくれた。
「分かった。どうやら女子絡みっぽいみたいだし、オレの話は後回しにしとこう。よく分からんが、嫌われるのは避けておけよ、栗城」
「肝に銘じておくよ……」
一見すると安原は女好きな男子だが、揉め事は嫌いらしく女子絡みの
――ってことで、安原の方は後で何とかするとして。
「……んで、あまり村尾の話が聞こえなかったけどもう一度訊いても?」
「はぁ……、ったく。安原の話よりもこっちの方が重要だってのに、全然聞いてないのな」
「中身は?」
「二年に上がってから初めてらしいが、笹倉メンバー会をやるって話だ。行くだろ? 幸多も」
笹倉メンバー会って、確か俺が笹倉に直接招待されたグループのアレだよな?
メンバーリストをちらりと見た時、あまりメンバーが揃っていなかったが俺が見てないだけで数人くらい増えているんだろうか。
同じクラスの男子だと月田も含まれていそうだが、その辺の話を笹倉本人から聞いてないから今の時点では確かめようがないんだよな。
「村尾と他には誰がいる?」
「男子か? 男子はおれと幸多と、ギリで月田だな。別のクラスにかつての戦友がいるっぽいが、今回は不参加っぽいぞ」
月田はギリギリメンバーなのか。
牧田がいう下位とか上位メンバーって意味だとしたら、月田は下位って意味になるんだろうな。俺と村尾は上位かその間なのかもしれないが。
「じゃあ男子は三人だけ?」
「そうなるな」
別のクラスにいるとされる戦友が来ないなら、見知った顔だけになるわけか。
「ちなみに女子は?」
「笹倉と牧田と、あとは……あいつらが来るかどうかだな……」
「あいつらって?」
「お前は忘れてるかもだけど、中学が一緒だった二人だ。お前の隣の……」
もしかしなくても花本?
あと一人は野上だろうか。笹倉が体調不良で休んでる時に俺にちょっかいをかけてきてるだけに、何事もなかったかのように笹倉会に来るとは思えないけど。
「もしかしてその女子たちが苦手だったり?」
俺も青夏に助けられなければどうなっていたか分からないくらい苦手になったんだよな。
「おれが基本的に苦手なのは女子全般だ」
「えー? だって笹倉に告……」
「それは別な話だっての! お前もだけど、お友達という名の戦友に過ぎないわけだしな。だろ?」
「ま、まぁ……」
下の名前呼びを解禁されたから、多分村尾より友達レベルが上がってる可能性が高い。妹の青夏とも親密度が高いし、友達という関係から抜け出せるかもしれないんだよな。
それを村尾に言うつもりはないけど。
「ま、とにかく放課後だ。集合場所は文世ロードのところにあるカラオケ『招かれた猫』って聞いてるから、ホームルーム終わったら急げ!」
「え、一緒に行くんじゃないのか?」
「おれは月田を連れて行く役目があるんだよ。月田はギリギリメンバーだからな」
「あぁ~……」
なるほど。
サブメンバーだから月田が一人だけで参加するのは認められていないわけか。だからいつも村尾が一緒に行動してるんだな。
そんなこんなで、休み時間や昼休みにかけて村尾と月田の話に付き合わされてしまった。
……全然笹倉と話が出来なかったな。
「栗城くん、今帰り?」
話が出来なかったと思いながら昇降口で靴を履き替えようとすると、笹倉から話しかけられた。
「まぁね」
「今日、全然お話が出来なかったね?」
「確かにな……でも、笹倉――秋稲さんだって牧田とずっと話してただろ?」
「うん。メンバー会のことをね、ずっと相談してたの。栗城くんもずっと男子とばかり。何だか、上手くいかないね」
「……ん? あーまぁ、学校だとそんなもんだろ」
席が隣だからって教室で気安く話しかけられるかっていうと、そんな簡単じゃないし。笹倉は何だかんだで目立つ女子だからな。
中学の時みたいにあからさまに告ってくる男子はいなさそうだが、ラブレターの話を聞いている限り迂闊に話しかけるのは控えるべきだ。
「せいちゃん、教室に来なかったね?」
「……え?」
「会いにくるって言ってたでしょ? 栗城くんに凄く懐いてるし」
「あ、あー」
流石に付き合ってるっていうのはバレてないぽいな。とはいえ、俺に会いに行くみたいな話を青夏から聞かされた可能性がある。
それを思えば、教室に来なかったことを俺に言ってくるのは何も不思議はないか。
「一年生も暇じゃないと思うぞ」
「それもそっか。もし会いに来たら笑顔で迎えてあげてね!」
「そうするよ」
これは姉目線による妹への優しさだな。
「それはそうと栗城くん。今から行こうとしてるところって……」
「笹倉メンバー会でカラオケだろ?」
「う……ん」
「あれ、違う?」
笹倉本人のコミュニティ活動みたいなもののはずなのに、何で浮かない表情なんだ?
「ううん、合ってるけど……」
カラオケとか苦手なのか?
それともそれ以外に乗り気じゃない理由でもあったり?
「笹倉メンバー会なのに、本人が参加しないのは……」
「そ、そうだよね。栗城くんが行くつもりなら、行こっかな。うん、行く。栗城くん、詳しい場所は分からないでしょ?」
「何となく分かるけど、行ったことはないな」
文世ロードはそんな複雑な商店街じゃないしな。
「じゃあ、一緒に行こ?」
「牧田とかは一緒じゃないのか?」
「うん。千冬ちゃんはいつも先に行ってるから」
「……なるほど」
牧田が先行してるってことは厳しく仕切りそうだ。
「栗城くんと一緒なら、私も落ち着いて冷静に頑張れる気がする」
「え?」
「だから、せいちゃんを見るのと同じくらいに私のことも見守ってね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます