第11話 先にするか後にするかで決まる予感!?
「えー……っと」
笹倉姉は目を閉じて、軽く口を開けた状態だ。そんな姉を見ながら笹倉妹はテーブルの上にあるカットフルーツに視線をやって、俺に食べさせるように促してくる。
「お姉ちゃん、そのまま待っておいてね」
「うー」
笹倉妹は迷う俺に指先だけで指示を出し、俺はその指示でフルーツにフォークを刺す。後は、自分たちの口に運ぶだけというジェスチャーを見せ、笹倉妹も口を半開きにして待機している。
「……まだ……ですか? 栗城くん」
「お姉ちゃん。今入れようとしてるみたいだよ」
「そ、そうなの? じゃあ待ってるしかないよね」
笹倉妹による的確な指示で、俺は勇気を振り絞り笹倉姉妹の口にフルーツを運ぶ。しかし、二人の口に同時に入れるほど器用に出来る俺ではない。
姉か妹、どちらに先にフルーツを食べさせるか。
「ちょっと、幸多くん……怒るよ?」
薄目で俺の様子を見ていた笹倉妹に急かされたので、俺は細かく切り分けたバナナを妹の口に運び、続いて笹倉姉の口の中にも運んであげた。
「……んむっ、んっんっ……甘~い」
「んっ。柔らかくて優しい味」
「お姉ちゃん、ゆっくり味わって食べてね。ちょっとお水持ってくるから」
食べ応えのあるバナナを口にする笹倉姉妹。
……だったが、先に食べ終えた笹倉妹が立ち上がり、俺の手を引っ張ってキッチンへ移動させられた。
「……え?」
「あのさ、いくらわたしと付き合ってるからってわたしを先にするのは違うんだよ?」
俺にそんな意図は無かったが。
「次はりんごを食べさせてもらうけど、間違えちゃ駄目だからね? お姉ちゃんが弱ってるとかもあるけど、そうじゃない意味で選んで。しっかりしてよ、もう!」
……しっかりと怒られてしまった。
食べさせる順番が違うという意味で怒ったのは分かる。何せ笹倉姉は病み上がり状態で弱っているからな。しかし笹倉妹の言い方は、どっちを先にするかで違ってくるといった感じにも聞こえた。
普通に考えれば弱っている姉を先にするか元気な妹を先にするかという、単純な選択肢だと思うが。
でも、俺には何か含みのある言葉にしか聞こえなかった。
――とはいえ、多分俺の考え過ぎだろうな。
コップ一杯の水を手にして、笹倉妹と俺は元いたところに戻る。笹倉妹は何度か俺に目配せをして、すぐにお預けのポーズに戻った。
間違えるなって意味だろうけど、それくらい俺にも分かる。
「……んんっ、美味しい……」
「んむむっ、ちょっと幸多くん!! もう少し小さいカットのを入れてよー!」
カットりんごとはいえ大きさは不揃いだった。そのせいか笹倉妹の口に入りきらなかったみたいだ。もちろん、これに何の意図もない。
二人とも口の中をシャクシャクとした響きの音を立てながら、美味しそうに食べている。
「ふぅっ……。ちょっと元気出た」
フルーツを口にしたのが良かったのか、笹倉姉は初めよりも血色が良くなったようだ。
「フルーツ美味しかったね、お姉ちゃん」
「うん。栗城くんのおかげ。ありがと、栗城くん」
「あ、いや……俺は何も」
加工済みのカットフルーツを食べさせただけだしな。
「何もしてないわけないよ? 幸多くんは良くやったよー! 偉い偉い」
そう言いながら、笹倉妹は俺の頭に手を乗せて撫でてくる。
「えっと、私も……いい?」
妹がしている行為に対し、対抗心でも芽生えたのか、笹倉姉は俺を見ながら遠慮がちに手を伸ばしてきた。
「…………これは、ご褒美ですかね?」
「うん、私と青夏ちゃんから栗城くんへのご褒美……です。ね? せいちゃん」
「そうそう。そういうこと! こんな機会はもう二度と無いんだから、幸多くんはこのまま大人しくしていてね!」
それほど力の強くない笹倉姉妹の手が俺の頭を撫でている――それだけで満足するレベルだなこれは。
――それからしばらくして。
笹倉姉はリビングのソファベッドに横になって体を休めている。その姿勢で、俺を見ながら気恥ずかしそうにお礼の言葉を口にしてくる。
「あの、栗城くん。今日はありがとう。青夏ちゃんにも優しくしてくれて、本当に……そ、それじゃ、来週からまた、話そうね」
明日も学校があるが休むって意味だな。
「あぁ、明日もゆっくり休んで来週からまたよろしく!」
「じゃあ、またね」
「また」
流石にずっとお邪魔するわけにもいかなかったので、きりのいいところで家に帰ることにした。リビングで座ったまま俺にお礼を言っていた笹倉姉を見やり、笹倉家の玄関のドアを開けて外へ出る。
……つもりだったのだが、何故か笹倉妹が俺の後ろについてきていた。
「あれ? 青ちゃん。どこか行くの?」
「ううん、きちんとお姉ちゃんを先に選んだなぁって思ったから理由を訊こうと思って」
「え? 選んだ理由? それってカットりんごのこと?」
「うん。まさか、わたしに意地悪して口に入りきらないりんごを食べさせるとは思わなかったけどね」
「わざとじゃないからね? 偶然っていうか、うん……」
やはりどっちに先に食べさせるかの意味があったのだろうか?
「……幸多くん。ちょっと外に出て欲しいです」
「まぁ、俺は隣の自分の家に帰るだけだからね」
玄関先とはいえ、姉には聞かれたくない話か。
「じゃあ、外に」
静かにドアを閉めた後、通路の壁に寄りかかる俺に対し笹倉妹は正面に立っている。向き合う形になったところで、笹倉妹が口を開いた。
何だか妙な緊張感があるな。
「幸多くんってお姉ちゃんのこと、やっぱり好きなんですか?」
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