第6話 友達と呼べるものでも重さに種類があるらしい
「ぐーぐぐぐぐぎゅるるる……」
何でこんな腹が鳴るんだ?
今まで朝はあまり食べなくてもどうってことはなかった。しかし、昨日の柔らかい料理の消化が早かったのかかなりの空腹状態に陥っている。
ってことで、いつもの通学路にあるコンビニで何か買うことにする。スマートフォンをかざし、速攻で店を出ようとしたところで誰かにぶつかってしまった。
「あっ、すみません!」
「あ? 栗城?」
俺を呼び捨てで呼ぶのは男を除けば、笹倉の前の席に座っている女子くらい。
確か、塩対応の女子で名前は――。
「牧田さんだよな? ぶつかってごめん」
「……あー」
そして全く興味がなさそう。
笹倉の前の席に座っている牧田千冬は、笹倉が作ったグループに名前がある女子だ。
四月のこの時期は白の長袖ブラウスを着ている。上のボタンまできっちり留められた状態というのも珍しいが。
髪は脱色されたショートの茶髪で、スカートは結構短めだ。ブラウスは鉄壁なのに派手なギャルなのか真面目なのかよく分からないな。
コンビニで遭遇したからといってこのまま一緒に歩くつもりはないが、逃げるのも変なのでこのまま距離を取りながら歩くことにした。
牧田をちらりと見ると、俺のことなど気にも留めずスマホ片手にさっさと前を歩き出している。
……そうだよな。
自分を紹介した時も笹倉による紹介だったし、牧田自身は俺に何の興味もないのだろう。
「おい、ちょっと止まれ」
笹倉関係で俺が気にしすぎてるだけに過ぎず、前を歩く牧田を追い抜くつもりで早歩きをしていると、追い抜きざまにドスの効いた低い声で呼び止められた。
しかも止まれとか脅しに近いな。
「俺に何か用でも?」
「お前もメンバーだったんなら早く言えよ! 全然関係ない奴が秋稲にちょっかい出してると思って手を出しかけただろ!」
おお、怖。
スマートフォンで見てたのはアレか、笹倉グループの画面か。
……といっても、今のところ笹倉と個人的なやり取りをしてるだけでグループ内のチャットはしたことがない。
それにしてもどういう目的グループなのか。
単純に笹倉とお友達関係を維持するだけのグループなら、それはただの推し活動のようなものになる。しかも現時点で見ても、俺以外のメンバー同士でチャットをしている様子もない。
笹倉的に仲のいい友達だけで楽しむ狙いがあるみたいだが、そうかといって俺以外の男子、村尾が教室で笹倉に声をかけるといった光景を見たことがないのも妙な話だ。
村尾は単なる戦友扱いだからはっきり言えないが、別の思惑があるかもしれない。
俺の場合はいかにして友達レベルを上げていけるかが問題であって、この手のグループに入ったところでほとんどいる意味がないのが今までの経験。
「悪いな。てっきり知ってると思って気にしてなかった。やり取りする必要性もないと思ってるしな」
これは本音だ。
乗り気でも無かったグループに入ったはいいが、結局笹倉としか話してないから他の名前の奴も誰かを気にしてないと思っていた。
「ちっ。そういうとこだぞ、栗城」
「ん? 何がだ?」
「今のところ栗城よりもうちがカースト上位ってことだ。栗城以外の男子は論外。女子が上位を占めてる。うちらよりも下位のままだと、栗城が目指してるものには届かないってことだけ教えとく」
だから何が?
俺の理解出来ない話が、さも当たり前のように進んでいる。カーストだとか下位だとか、一体牧田は何を言っているのか。
「分かりやすく言ってくれ。マジで分からない」
何で朝の登校時間に面倒そうな話を上から目線で聞かされているんだ?
コンビニルートで来たのは失敗だったな。こんなことなら近道で来るべきだった。
「秋稲が言う友達は種類と重さが分かれてるって言ってんだよ! 栗城はまだ下位、重くないって意味な。別に重くならなくても友達には変わりないし、栗城が満足なら何も言わないけど。じゃ、うちは先に行くから」
言うだけ言って、牧田は学校方面へ歩いていく。
どうも意味が分からないが、牧田の言うグループメンバーの位置付けが友達レベルに紐づいているとしたら、メンバーリストに関係無く俺は笹倉の中では上位にいるのではないだろうか。
そうじゃなければいくらお隣さんでも家の中に入れないはずだ。
笹倉妹のおかげというのもあるにしても、素の笹倉をちょっとだけ見られたのはかなり好スタートを切ったと言っても過言じゃない。
肝心の俺が笹倉の友達以上に進むことが出来るかは何とも言えないが。
……とはいえ、あくまで塩対応の牧田に変なことを聞かされたに過ぎないし、俺も学校に急ぐか。
「おっす、栗城」
昇降口に着くと、村尾が俺の背中を叩きながら声をかけてきた。
「うす。手加減してくれて感謝するぞ、村尾」
「何だ? 筋トレでもしてんのか?」
「……そんなところだ」
腹をやられた後の腹筋で若干背中が痛いのは内緒にしとこう。
村尾と出会ってしまったのでそのまま教室に向かおうとすると、村尾の視線が少し離れた下駄箱に向いていることに気づく。
「おい、村尾……何を見て――」
視線の先には登校してきた笹倉の姿があった。笹倉を見る村尾の目は、友達に向ける目じゃないように思えた。
「今でもライバル現る……か。どうすっかな、マジで……」
「ん? ライバル? 何の?」
「気にすることじゃねえよ。悪い、おれは先に行く! お前もちゃんと来いよ、栗城」
笹倉の方に視線を飛ばしていたら気にするだろ。
それなのに笹倉を見ているだけで満足したのか、村尾は俺を残して行ってしまった。
いや、置いて行くなよ。
「おはよう、笹倉!」
「はい、おはようございます。きちんと登校してきたみたいで何よりです」
「……ん、その束は何だ?」
笹倉の手には持ちきれない量の手紙のようなものがあった。
確か月田も中学時代に置きまくったらしいが、まさか今でもそうなのか?
「栗城くん。私、信じられないくらいモテるんですけど、羨ましいですか?」
モテという言葉にはついつい反応してしまう。
「そ、そりゃあな。笹倉も嬉しいんだろ?」
「……誰かさんと違って、重みのない気持ちをたくさん貰ってもちっとも嬉しくないです」
「え、誰のことだ?」
「友達です」
「あぁ、だよな。笹倉の友達は俺以外にもたくさんいるもんな! 愚問だった」
俺のうっかりな言葉で楽になったのか、笹倉はいつもの笑顔を見せる。しかし、気のせいか笹倉の笑顔が無理をしているようにも見える。
「栗城くん」
「……ん? どうした、笹倉」
何やら俺の首元を見つめているが、またしてもお怒りモードか?
何となく身構えていると俺の元に――
「――ネクタイ、曲がってますよ。そのままじっとしてください。わたしが直してあげますね!」
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