ハーフタイム

 俺が泰斗と初めて出会ったのは、11年前の『仮面バトラーフォワード』のオーディションの日だ。今でこそ『主人公の』で『2号バトラー(バレーボールモチーフ)』の望月勝風しょうぶ役として名の通っている俺だが、主人公の望月勝利役のオーディションを受けていた。


 結果として主人公役は射止められなかったわけだが、オーディションを受ける前の二十歳の俺は自信満々だった。作品のオーディションを受けるのは人生で二度目。一度目はとある少年マンガの舞台化したもの。その一度目が難なく合格してしまったから「言うほど落ちないじゃんか」と、軽く見ていたのはある。


 当時新人だった俺は、無知ゆえの怖いもの知らず。この『仮面バトラーフォワード』のオーディションも、当然のように合格するものだと思い込んでいた。


 フォワードは『仮面バトラー』シリーズの4作目。サッカーの『仮面バトラー』だ。両親が葛飾の某サッカーマンガのファンというのがあって、小学校から地域のクラブチームに所属し、中学と高校もサッカーを続けていた俺にはぴったりの題材モチーフだったのも、根拠のない自信に拍車をかけていた。実際、オーディションの途中でサッカーボールを渡されて、番組プロデューサーから「リフティングしてください」と振られたしな。


 逆にバレーボールは体育の授業でしかやってなかったから、猛勉強したよ。企画でバレーボールのプロの試合を見に行った時は楽しかったな。また見にいきたい。


 泰斗は、サッカーボールをポーンと蹴り上げて、会議室の天井にぶつけてたな。リフティングだっつってんのに。本当に申し訳なさそうな顔をして「すいません! すいません!」ってペコペコと頭を下げていた。


 そんな泰斗が、なぜ望月勝利役に選ばれたか。


 最終オーディションには、俺と泰斗含めて七人の候補者が参加していたのかな。その中でいちばん、泰斗が望月勝利。これはテレビシリーズが終わって、劇場版もあって、ファイナルステージとか客演とかを経た現在だからそう言えるのではなくてね。最終オーディションの七人の中で、望月勝利まさにその人だったのが、泰斗だった。あの会議室に一番乗りしたのが俺。泰斗は面接開始のギリッギリに「あの! フォワードの最終オーディションってここで合ってますか!?」って、慌てて会議室に入ってきた。


 泰斗が入って来た瞬間に、面接官の一人――フォワードのメインの脚本家。10 years afterも先生の書き下ろしだ――が「おおっ」と言ったのを覚えている。


 あの時点で、9割ぐらい決まっていた。というか、俺も、俺と同じ芸能事務所の先輩も、他の候補者ですら、口には出さないけれど「コイツが望月勝利じゃん」と思っていたに違いない。あの瞬間、みんながそんな顔をしていた。


 ご本人登場だった。


 それでもまあ、オーディションはオーディションだから、その後に面接官とのやりとりはあったし、さっき言ったようにリフティングしたし、終わって撮影所を出るときには「受かりますように」って天に願った。隣に先輩がいたから、控えめに。


 考えてみると、あの日、泰斗とは話さなかったな。

 駅まで事務所の先輩と帰った。


 オーディションの結果の電話は、俺のバイト中にかかってきていて、バイト上がってからかけ直したよ。手が震えてた。そこで、主人公役ではなく主人公の兄役と聞かされたわけ。


 主人公ではなくて悔しいとか、主人公ではないけども嬉しいとか、そういう感情は出てこなかった。いや、まあ、あの『仮面バトラー』だから、悔しいし、嬉しいんだけどさ。自分のことよりも、主人公として選ばれた泰斗のことが気になった。だって、一目見て「コイツが望月勝利じゃん」と思わせちゃうような男だぜ。


 だから、その電話で泰斗の連絡先を教えてもらった。撮影が始まる前に親睦を深めておきたい、と伝えたら教えてもらえたんだ。……これは今考えるとアレだな、個人情報だもんな。十年以上前の話だから大目に見てもらって。


 *


「それから俺と泰斗のながーい付き合いが始まるってわけよ」

「ラーメンのびちゃいますよ? 美味しそうなのにもったいないです✨」

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