第33話 早く帰りたい
「ハニュ、大丈夫?」
かつてないほど小さくなったハニュにシーアが動転していると、近くにいた聖女と思しき女性が追加の魔力回復薬をくれた。
計三本の魔力回復薬を飲ませると、ハニュはやっと元の大きさに近くなった。
「良かった、死んじゃうかと思ったよ」
「ぷぴぃ!」
ちゃんと死なない程度に加減はしたと言っているのか、ハニュはちょっと偉そうだ。王子の病を治したことを誇っているのかもしれない。
「へえ、従魔ってかわいいね、僕も欲しいな」
治療前まで顔色の悪かった王子はすっかり健康そうな顔になって、ハニュとリマを見つめている。
「従魔を得るのは難しい。この国でも研究はしているが、確実に従魔にできる方法など見つかっていない」
「そうなのですか?残念です」
二人の会話を聞いて、そういえば王と王子が居たのだと思い出したシーアは恐る恐る振り返る。
目が合うと、王も王子もにこりと笑った。
「ぷぴぃ……」
その笑顔に何やらうすら寒いものを覚えたのか、ハニュが不安そうに鳴いた。
シーアは思わずハニュを強く胸に抱き、身構える。
「聖女シーアよ、助かった。今までどんな聖女も医者も治すことができなかったハリスの病をよく治してくれた。褒美は何が良い?」
「私は冒険者ギルド所属の聖女ですので報酬はギルドにお願いします」
シーアは事前にギルド長と打ち合わせしていた内容を話す。あくまでギルド所属の聖女だと言い張ることで、引き抜きなどの話をされにくくするらしい。シーアは褒美よりもギルドに居たいので力いっぱい宣言した。
「……そうか、それとは別に個人的な褒美をと思うのだが、何か欲しいものはないか?」
「ギルドへの適切な報酬だけで十分です」
個人的な褒美を受け取ってしまうと懐柔しやすいと思われて、今後が面倒なことになる可能性があると、シーアは教えられていた。面倒ごとは勘弁だ。王侯貴族の相手もこれきりにしたい。
「……ふははは、そうか。では報酬に関しては冒険者ギルド長と話すことにしよう。こちらとしても息子の恩人を困らせるつもりは無いのでな」
王は思ったより話の分かる人だった。あわよくばシーアを手中に収めたいと思ってはいるようだが、この場で恩を仇で返すような真似はしないくらいの分別のある人だ。だてに玉座に座っていない。
シーアの発言の意味を、完全に取り違えた人間が一人だけこの場に居た。王子である。
「シーアは本物の聖女なんだね、まるでシーラ様のようだよ」
面倒ごとから逃れたい一心のシーアの発言を、王子は無私の奉仕精神だと受け取った。
キラキラと目を輝かせてシーアを見つめる。
「ランチを用意させよう。君ともっと話がしたい」
ハリスバリエはシーアの手を取ってそう言った。シーアからしたら鳥肌ものである。
「いえ、結構です!帰ります!」
シーアは全力で拒否した。お城の料理は気になるがマナーなど知らないし、王子と食事などしたら絶対に緊張で味がしない。
早くこの場違いな所から帰りたかった。
「シーアにはこの後も仕事がございますの。殿下の病が良くなったのでしたら早々にお暇させていただきますわ」
ギルド長が助け船を出してくれたので、シーアは全力で頷いた。そろそろ高貴な人と話す緊張でお腹が痛くなってきた。こんなこともう二度とごめんだ。
ハリスバリエが残念そうにシーアの手を放す。
侯爵が手配してくれた帰りの馬車にギルド長とシーアが乗り込むと、冒険者ギルドに戻っていった。
「またね、シーア。今度お礼に行くよ」
最後に王子から何か不穏な言葉を聞いた気がするが、疲れ切ったシーアは聞き流した。
「お疲れ様、シーア。ハニュも疲れたみたいね。ギルドに戻ったら食堂で乾杯しましょうか。私のおごりよ」
シーアは馬車の椅子に深く座り込みながら喜んだ。ハニュからスペアリブを催促されている気がする。
「もう二度とお城なんて行きたくないです」
本気のシーアにギルド長は笑った。
シーアは足元でお座りするリマをもふもふして、今日は大変だったなとため息をつくのだった。
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