第21話 食事会
「……シーアちゃん、迎えに来たよ」
シーアは『スカーレット』のメンバーに食事に誘われた。仕事終わりの飲み会なんて初めてで、シーアはとても楽しみにしていた。
「ありがとうございます。アマンゼさん、先に上がらせてもらいますね」
「行ってらっしゃい、楽しんでくるんだよ」
今日もシーアに薬学を教えてくれていたアマンゼが笑って手を振ってくれる。
冒険者ギルドは夜は遅く、朝は早朝からなので、勤務時間は朝番と夜番二つに分かれていた。今日のシーアは朝番だった。
シーアが鞄を取りに行っている間、リンデルに遊んでもらっていたらしいリマとハニュは楽しそうにしている。
「お待たせしました!」
「おう、今日はとっておきの店を予約しておいたからな。たんと食えよ」
ゴードンさんに頭を撫でられてシーアはお礼を言った。ゴードンとエステラから見たらシーアは小さな子供だ。リンデルとはそこまで歳が離れていないが、それでも五つは上だろう。どうしてこの三人でパーティーを組むことになったのか、シーアは気になった。
店に向かう道すがら問いかけてみると、予想外の返答が帰ってくる。
「ああ、俺達は昔馴染みなんだが、リンデルが家出しようとしてな。危なっかしいから俺達もついて行くことにしたんだよ」
リンデルは気まずそうな顔で目を背けた。シーアは思わずリンデルを見てしまう。
「あー、家出したくなる気持ちはわかる家だったもの。家を出ること自体には私達は賛成だったし、ちょうど私達もそろそろ別の街にって思っていたからね」
エステラが慌ててフォローする。シーアは色んな家庭があるよなと納得することにした。リンデルも苦労してきたのかもしれない。
楽しく話しているうちに、目的の店にたどり着く。そこはとても雰囲気のいいお店だった。お酒は扱っているが冒険者がよく利用する騒がしい場所ではなく、どちらかというと小料理屋といった感じだ。ハニュが目をキラキラさせてリマの背中の上で飛び跳ねていた。
「女将さん、個室空いてるか?」
「あら、ゴードンさん丁度一部屋空いてますよ。……この間言ってた従魔連れの子ですか?一緒にどうぞ」
ゴードンは従魔も入れるか事前に確認をとってくれていたらしい。シーアはゴードンに感謝した。二匹を外に置いておくのが心配で、今まであまり料理屋には入れなかったのだ。リマとハニュも嬉しそうにしている。
個室に案内されると早速料理を注文した。お酒を飲むかと聞かれたシーアは頷く。
ハニュはまだ十代前半のシーアがお酒を飲むと聞いて心配になった。ハニュの常識では子供の飲酒はあまりよろしくない。お酒は二十歳からである。心配でシーアを見つめるがシーアは不思議そうな顔をするばかりで伝わらなかった。異世界の価値観にハニュはまだ馴染めないのである。
「今日はお礼だからな、たくさん食べてくれ」
リンデルが大きな骨付き肉をシーアの皿に置いてくれる。シーアはハニーエールを飲みながら肉に齧り付いた。
「ハニュも飲むか?」
ゴードンが基本雑食のスライムであるハニュにお酒を与える。ハニュは大喜びで飲み干していた。
「本当にハニュは変わったスライムよね」
エステラの発言に二人はどきりとしたが、シーアが笑ってごまかした。
「ハニュは頭のいい子ですから」
シーアの発言にリマがワンと吠える。まるでそうだと言っているようでみんなで笑った。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、お腹もいっぱいになったシーア達は帰宅する。もう暗いからとシーアはギルドの寮まで送ってもらえることになった。
「ぷぴぃーぷぴぃー」
お酒で酔ったのかハニュは上機嫌に鳴いて揺れている。リマが少し心配そうに背中に乗るハニュを気にしていた。シーアもほろ酔いのいい気分でエステラと会話していた。
「ゴードン、多分誰かに付けられてる」
突然リンデルがゴードンにささやいた。シーアは驚いてリンデルを見る。
「……確かに気配を感じるな。二人か?」
ゴードンが視線だけ後ろに向けながら言う。シーアはまだ混乱していた。
「狙いは誰かしら。シーアちゃんだったら困るわね」
「え!?」
自分が狙われる心当たりなど全くないシーアは驚く。
「従魔持ちの聖女だからな、狙われるのもあり得るだろう」
シーアはどういうことかさっぱりわからなかった。まだ自分の価値を正しく把握していないのだ。誘拐してでもシーアが欲しいという人間は多くいるだろうとゴードン達は考えていた。
「とにかく早くギルドに戻ろう。さすがにギルドでは手は出せないだろう」
リンデルに促されるまま、シーアは急いで冒険者ギルドへ戻った。
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