第22話 対策

 ギルドにたどり着くと、スカーレットの面々はシーアをギルド長に預けて外へ出た。

 シーアが不安に思っていると、数刻で戻ってくる。

「つけられているのは恐らくシーアだ。俺達が外に出ても、奴らは反応しなかった」

 ゴードンの言葉にシーアは青ざめる。感じたことのない恐怖を感じていた。

「まったく、シーアちゃんを狙うということはギルドを敵に回すという事なのに……どこの馬鹿かしらね」

 ギルド長が呆れた口調で言う。

「スカーレットに任務を命じます。シーアちゃんを守り抜くこと。いいわね」

 命令されたスカーレットの面々はそれぞれ頷く。スカーレットはこのギルドの中でも危機管理能力に優れた優秀な冒険者グループだ。ギルド長は彼らを信頼して重用している。

 シーアはそんな優秀な人達に自分の護衛なんて仕事を任せていいのか不安になった。シーアは聖女として皆の尊敬を集めても、増長することは無かった。しかし反対に自己評価が低すぎたのだ。治療を行っているのがほとんどハニュであるせいかもしれない。

 

 その日はもう遅い時間だったので、シーアは部屋に戻された。

 今夜からエステラがシーアの隣の部屋で寝泊まりすると聞かされると、シーアは平身低頭の思いだったが、同時に感じていた恐怖が少し和らいだのを感じた。

 部屋に戻りほっと息をつくとリマが噛みつくような動作をした。

「リマも私を守ってくれるの?」

 誇らしげに胸を張るリマに笑って、ありがとうと撫でる。ハニュは酔いがさめたらしく、少し落ち込んでいるようだった。

「どうしたの?ハニュ」

 シーアがハニュを持ち上げると、ハニュの感情が伝わってきた。

 危険な目にあわせてごめんと言っているようだった。

「どうしてハニュが謝るの?私はリンデルさん達を助けられたこと、後悔してないよ。たしかにハニュが凄すぎてちょっと目立っちゃったけど、私はハニュを誇りに思うよ。これからも一緒にたくさんの人を助けよう」

 

 ハニュは異世界の知識をこの世界に持ち込むことの危険性を、軽く考えていた。まだ幼いシーアが危険にさらされて、初めてそれに気づいたのだ。ハニュの前世は外科医だった。怪我人を見ると救わずにはいられない。

 だからといって、シーアを隠れ蓑にして治療してしまって良かったのか。ハニュは今、自分の行動の責任を自らとれる立場にない。なんたってスライムなのだから。シーアが居なければ何もできない。ハニュはぐるぐると考え込んでいた。

「お休み。ハニュ、リマ」

 眠るシーアを見つめながら、ハニュは考える。これから先もきっと自分は怪我人を見捨てることなんてできない。いっそ自分が消えるべきだろうか。しかしシーアはもう有名人だ。今更自分が消えたところで危険度は変わらない。

 深く後悔するハニュに、リマが心配そうに寄り添う。ハニュはきっと、どれだけ考えても答えなんて見つかりやしないのだと思った。前の人生でも、何人もの患者の死を経験してきた。それをどれだけ悔やんでも、失ったものは元に戻りはしないのだ。なら前を向いて進むしかない。

 ハニュは自分のエゴで一人の女の子の人生を大きく変えてしまった。ならば最後まで見守り、助けよう。そう結論付けると、目を閉じた。

 

 翌朝シーアがエステラに付き添われながら出勤すると、アマンゼとロキシーが心配していた。

「よかった。ちゃんと眠れたんだね。ギルド長からギルド職員と複数の冒険者達に通達があったんだ。シーアちゃんが狙われてるって。買い物なんかは僕達が代わりに行くから、シーアちゃんはあんまり外に出ないようにね」

 アマンゼはそう言うと、シーアに高価なお菓子をくれた。ロキシーはリマに、シーアちゃんを守るのよなんて言っている。

 シーアは安心して仕事を始めた。仕事の間、ハニュとリマは退屈だろうと診療所のすぐ隣にある庭に出した。

 最近のシーアの仕事は治療よりも勉強と雑用だ。ハニュ流の治療術を聖女達に教えると、聖女達はこぞって患者で練習しだした。だからシーアに治療の役目が回ってくることが無くなってしまったのである。

 重傷者が来たらハニュを呼べばいい。そう思っての行動だったが、シーアはその行動を深く後悔することになる。

 

 昼頃シーアが庭を見にいくと、二匹の姿は忽然と消えていたのだ。

 

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