第19話 調査隊の帰還

 教会の使者が帰ってから数日が過ぎた。その間シーアの周りは平和そのものだった。

「え?あの教会の教会長、変わったんですか?」

 ギルド近くの食堂の女将さんが、シーアに教えてくれる。

「そうなのよ、なんでも教会のお金を着服していたらしくてね。貴族から賄賂までもらって私腹を肥やしていたらしいわ」

 さもありなんとシーアは思う。シーアが居た時から教会長はアニータの言いなりだった。裏で賄賂をもらっていたんだろう。

「良かったわね、シーアちゃん。教会長は捕まったらしいから、もう会うことも無いわよ」

 いつの間にか知れ渡っていたシーアの事情に同情してくれる人は多かった。この女将さんもそのうちの一人で、教会の情報を仕入れてシーアに教えてくれる。

「正直また連れ戻されたら嫌だなと思っていたので、もう会うことも無いなら良かったです」

 シーアはアニータが今どうしているのか少し気になったが、ひとまず安心した。ギルドの居心地が良すぎてシーアはこの場所から離れたくなかった。アニータもシーアの事を忘れてくれるといいと強く思う。

「ぷぴぃ……」

 ハニュはまだ心配そうにしているが、今のシーアには味方がたくさんできた。滅多なことにはならないだろうとハニュを撫でる。

 リマにもハニュの感情が伝わったのだろう。食事の途中なのにハニュを見ていた。二匹を撫でて落ち着かせる。

 

 シーア達が食事を終えてしばらく街を散策していると、何やら街が騒がしくなった。耳を澄まして周囲の会話を聞くと、なんでも森の調査隊が戻って来たらしい。シーアは休憩を終えて急いで冒険者ギルドに戻った。

「皆さんお帰りなさい!」

 ギルドに着くとリマはリンデルの元に走っていった。リンデルの腰に前足をかけ尻尾を振って撫でられている。診療所で治療している内に仲良くなったようなのだ。

「あら、シーアちゃん。休憩?」

 リマの後を追うと、エステラが疲れた面持ちでシーアに声をかけて来る。ゴードンは成果をギルド長に報告しているらしく居なかった。

 

「リマもハニュも元気そうだな。最近殺伐としていたから癒されるよ」

 リンデルはリマとハニュに干し肉をあげて満足そうにしている。

「魔力溜まりは見つかったんですか?」

 シーアはリンデルに干し肉のお礼を言うと、問いかける。

「ああ、見つかったよ。あとは軍が何とかするらしい。冒険者は帰れと言われたよ」

 それはいささか横暴ではないのかとシーアは思う。ギルドは善意で軍に協力しているのだ。軍より冒険者の方が森に詳しいからだ。

 手柄だけ横取りするような理不尽さを感じた。

「もうあの馬鹿な軍の連中と一緒に行動しなくて済むと思ったら、嬉しいわ」

 エステラが晴れ晴れとした表情で言い切る。他の冒険者も同じ意見の様で、いったい何があったのかシーアは気になった。

 

 長い遠征だったので冒険者達の健康診断が行われることになり、シーアは診断中に色々な愚痴を聞いた。なんでも軍は魔物の相手を全て冒険者にやらせていたらしく、自分達は戦わなかったのだそうだ。

 契約違反だと訴えたが聞く耳を持たなかったらしい。

 冒険者ギルドはまた正式に国に抗議する姿勢のようだ。

「最近軍の動向がきな臭かったから、映像保存の聖物を持たされてたのよ。それで訴えるつもりらしいわ」

 聖女のロキシーが近々軍の責任者が変わるかもしれないわねと笑っていた。

 ギルド長は頼もしいが、敵に回すと怖ろしいなとシーアは苦笑する。

「そうだ、魔力を流して患部の異常を確かめるってやつ、あとでやり方教えてくれない?使えるようになったら治療も楽になると思うの」

 シーアは快く了承した。ギルドの聖女不足は深刻だ。一人一人の技量が上がれば負担も減るだろう。

 

「リンデルさん。左腕はどうですか?」

「なんの問題も無いよ。あっという間に前と同じように使えるようになった……シーアちゃん様様だよ」

 リンデルは左腕を大きく回しながら笑う。

 シーアは役に立てて良かったとホッとした。念のため魔力を流して確かめるが、異常はみられない。ハニュも嬉しそうだ。さっきからリンデルの膝の上に乗って撫でられている。リマならともかく、ハニュが他の人に近づくのは珍しい。

「治療のお礼に今度食事でも奢るよ。美味しい店を知ってるんだ」

「わぁ、いいんですか!嬉しいです」

 リンデルの言葉にシーアは喜んで、お言葉に甘えることにした。美味しい料理と聞いてハニュも嬉しそうだ。リマも何か嬉しいことがあると察したのだろう。リンデルの足に体をこすり付けている。

 シーアはとても楽しみだった。

 

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