第11話 ギルドの研修

 教会の任期もあと一月という時になって、シーアは教会の帰りに冒険者ギルドに寄るようになった。毎日少しずつ、ギルドの規則を勉強するためだ。少しずつ勉強した方が後で楽だとギルド長に言われたのでそうしている。この勉強期間中もほんの少しだけどお給料が発生するのでシーアとしては嬉しい限りだ。

 ギルドの職員さん達とも仲良くなって、たくさんのお菓子をもらったりもした。みんなシーアの境遇を知って気にかけてくれているのだと知って心が温かくなった。

 孤児院以外で、人の優しさに触れるのは久しぶりだった。シーアはこの場所でなら聖女として頑張れるように感じていた。

  

 あと一か月で教会から逃げられるとあって、シーアは機嫌がよかった。ギルドの専属聖女は住み込みだし待遇もいい。早く一月が過ぎないかなと思っていた。

 ギルドからの帰り道、少しだけもらったお給料で屋台の串焼きを買うと、リマ達と分け合って食べる。教会での奉仕期間中は給料などもちろん出ないので、シーアにとっては初めての贅沢だった。

 ギルドの職員さんから貰ったお菓子は孤児院の子供達と一緒に食べる。みんなあと一か月でシーアが居なくなると知って寂しそうにしていた。今のシーアは孤児院の希望の星だった。冒険者ギルド専属の聖女なんて、孤児院の子供からしたら大出世だ。みんなシーアの様にいい仕事に就きたいと思っていた。

 シーアは時間の許す限り子供達に勉強を教えた。冒険者ギルドはそう孤児院から遠くないから、引っ越してからもたまに帰って勉強を教えてあげようと思っている。

 

「え?魔物の様子がおかしいんですか?」

 ある日冒険者ギルドに行くと、同じギルド専属の聖女であるロキシーさんにそう言われた。

「そうなの、それでけが人も増えてて……スタンピードの前触れかもしれないから、森に入るときは気を付けて。孤児院は森のすぐそばにあるんでしょ?」

「わかりました!ありがとうございます」

 孤児院の側の小さな森は普段は魔物はほとんどいない。居ても弱い魔物ばかりだ。でもスタンピードとなると話が違う。森の奥に強大な魔物が出現して、追い立てられた魔物が森から出てきてしまうのだ。

 この冒険者ギルドも森に近いところにあるが、孤児院側の森とは別の広大な森だ。孤児院と冒険者ギルトを結ぶ中心には、教会がある。立地としてはこんな感じだ。

 

 シーアは不安になった。最近はギルドの職員さんだけでなく冒険者さんも話かけてくれるようになって、シーアの正式な着任の日を心待ちにしてくれていた。

 冒険者さんにとってギルド専属の聖女は生命線であり、従魔を持つシーアは特に歓迎されたのだ。あとはリマがなぜか冒険者さんに気に入られて、よく狩ったお肉の切れ端をもらっていた。リマはあまり人見知りしないので、冒険者さんも可愛いと思うのだろう。

 冒険者さんはハニュにもお肉の切れ端を渡そうとするが、シーアがハニュはグルメなので調理された食べ物しか食べないというと腹を抱えて笑われた。それ以来屋台の料理などをくれるようになってハニュも喜んでいる。

 シーアは気のいい冒険者さん達が怪我をしないといいなと思っていた。

 

 シーアがギルドの規則が書かれた本を読んでいると、ハニュが横からのぞき込んでくる。一緒に覚えるつもりのようだ。リマはギルド長に魔物の骨をもらってカリカリと齧っている。

「ハニュはずいぶん大人しいのね。スライムはもっと自由に動き回るものだと思ってたわ」

 ギルド長の言葉にハニュが動揺しているのがシーアに伝わってくる。

「ええ、とっても大人しいんです。いたずらもしないので世話も楽なんですよ」

 シーアがとっさにごまかすと、ハニュはホッとしたようだ。ハニュの特異性がバレるわけにはいかない。

「そう、ハニュはスライムの中でも賢いのかしらね。たまに簡単な魔法を使えたりする賢い個体が居るみたいだから」

 ギルド長はそれで納得した様だった。スライムの生態は未だに謎に包まれている部分が多いのだ。シーアはハニュと目を合わせて一緒にため息をつく。なるべく怪しまれないように気をつけようと二人は思った。

 

 

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