第7話 リマの治療

 リマを連れてさあ帰ろうという段になって、シーアは気が付いた。ハニュが一向にリマの足を治そうとする気配がないのだ。

「もしかして、治らないの?リマの足」

 ハニュは首を横に振るような動きをした。治らないわけではないらしい。

「もしかして、すぐには治せない?」

 そう言うと、正解と言うように飛び跳ねる。確か教会で習った知識では、骨折などの治癒には時間がかかるという事だった。治療に数日かかったりするらしい。色々と規格外なハニュでもそうなのだからリマの足は見た目より重症なのかもしれない。

「じゃあ、とりあえず帰ろっか」

 ハニュがリマの歩行のサポートをして、ゆっくりと孤児院に戻る。明日は週に一度、教会での授業が休みの日だ。ゆっくりリマの治療ができるだろう。

 リマはハニュと違って人の言葉がわかるわけではないようだった。でも賢い。シーアの感情を読み取って察してくれる能力が高かった。

 帰り道、ハニュはずっと上機嫌で嬉しそうだった。狼が好きなのかなと、シーアは不思議に思っていた。

 孤児院に帰るとリマはすぐに眠ってしまった。血を流しすぎて限界だったのだろう。

 

 次の日、リマが目を覚ますとハニュが早速リマの足の治療を開始した。シーアは横で見学している。ハニュが何か魔法を使うと、リマはリラックスしたように目を閉じた。

 すると、ハニュが何かを訴えかけるようにシーアに魔力を流してくる。シーアは困惑した。

「ぷぴぃ!ぷぴぃ!」

 ハニュが必死に訴えかけるので、ハニュの魔力の行く先を追ってみると、それはリマの足に続いているようだった。そういえばハニュはいつも治癒魔法を使う時、先に相手の体に魔力を流していたなと思い出す。ハニュの魔力は、リマの左後ろ足から怪我をしている右後ろ足に向かって流れていた。

 シーアは集中して魔力の流れを追った。するとだんだん、左と比べて右後ろ足がおかしいことに気が付く。

「脱臼してる?」

 ハニュが大正解と言うように飛び跳ねる。そして今度はシーアの手を咥えるとその手をリマの足に持っていく。

「元の位置に戻せって?」

 ハニュがまた嬉しそうに飛び跳ねる。シーアは緊張しながら、リマの膝の脱臼を元の位置に戻した。なるべく左足と同じになるように慎重にはめ込む。綺麗に収まると、すかさずハニュが治癒魔法をかけた。

 すると、先ほどまで不自然に曲がっていたリマの足は元通りになった。

 普通脱臼は、もっと治療に時間のかかる怪我のはずだ。

 シーアは感動した。初めてちゃんと治療に参加したような気がしたのだ。教会では、こんな治療法習わなかった。ただ治癒魔法をかける方法や、それぞれの怪我にどれくらいの治療期間がかかるかなど教わっただけだった。

 ハニュの様に最初に魔力を流して内部の症状を確かめるなんて普通はしないし、症状に応じて自らの手を使うなど論外だ。そもそも神聖な存在である聖女は患者の体に触れることは無いのだ。でもこちらの方が、ずっと簡単に早く怪我が治せるのだとわかった。

 

「ハニュ、凄いね。私、早くハニュみたいになりたい」

 シーアは尊敬の目でハニュを見る。ハニュは胸を張って得意そうにしていた。これからハニュが治癒魔法を使う時は、もっと注意して何をしているのか観察してみようとシーアは思った。

 ハニュは最高の先生だ。教会で習うよりもっと、きっと素晴らしい技術を学べる。シーアはリマに治癒魔法をかけ続けるハニュの魔力の流れを追った。

 

 その日の昼には治療は全て終わった。シーアが魔力を流して確かめてみても、左足と遜色なく治っていた。リマは立ち上がって不思議そうにしている。歩いても問題ないことに気づくと、嬉しそうに駆け回った。まだすこし歩き方はおぼつかないが、いずれ慣れるだろう。

 

 歩行訓練もかねてリマを庭で遊ばせていると、窓から院長先生が顔を出した。

 シーアはリマの事を院長先生に報告する。院長先生はシーアの話を嬉しそうに聞いてくれた。

「そうかい。友達が増えてよかったじゃないか。もうすぐ独り立ちするんだ。これでここを離れても寂しくないね」

 院長先生の言葉にシーアは涙が出そうになる。そう後数か月で教会の任期が終わる。そうすれば、シーアは行く先を決めなくてはならない。ここにずっといたいと、頭では思っている。でもシーアはもうすぐ十三歳だ。通常十二歳で出なければならない孤児院に、特別に一年も長く居させてもらえたのだ。それだけでも感謝しなければ。

「はい、見習い期間が終わる前に職を見つけようと思います。きっといい聖女になって孤児院に恩返ししますから、楽しみにしていてくださいね!」

 シーアは笑ってそう言った。院長先生は優しくシーアの頭を撫でてくれた。

 

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