第6話 新しい仲間
シーアとハニュが出会っておよそ一か月の月日が過ぎた。二人の日々は相変わらずで、シーアは教会でアニータに難癖をつけられては雑用を押し付けられ、治癒魔法の練習はさせてもらえなかった。
その代わり孤児院での日々は充実していた。シーアはハニュのおかげで色々な魔法が使えるようになり、ハニュのサポートが無くても魔法で魔物を狩れるまでになった。
その日は少し森の奥に来ていた。孤児院に新しい子が入ったので、お祝いのために大きな獲物が欲しかったのだ。
「よし、ハニュ!脂ののった猪あたりの魔物を探そう!」
ちなみに魔物と動物の違いは魔力を持っているか否かなのだが、なぜか同じ姿をした動物と魔物では魔物の方が美味しい。そのうえ魔力を持っているため探しやすい。魔法を使う分倒すのは少し大変だが、魔物の方が狩人には人気の獲物である。
シーアはハニュと共にぐんぐん森の中を進む。
途中で丸々太った猪の魔物を見つけると、シーアはハニュに教わった風の刃で首を落とした。速度が足りなくて途中で気づかれてしまったため、なかなか急所に当たらず少々傷だらけになってしまったが及第点だろう。
どういう原理かシーアには全く分からない魔法でハニュが猪の血抜きをすると、シーアは猪を背負子に縛り付けて背負った。
「よし、帰ろっか、ハニュ」
二人で木の実などを採取しながら帰ろうとしたとき、そばで何かの魔物が戦っている気配がした。
「お、チャンスだよ、ハニュ。あわよくば苦労せずに狩れるかも」
シーアはそっと気配を消して争いの場所に近づく。そっと覗いてみると、そこでは一匹の子供の狼と小熊が争っていた。狼の方が血まみれで劣勢に見える。
「なんだ、残念。狼は美味しくないし、親熊は執念深いから小熊を狩るのはやめよう」
シーアは引き返そうとするが、なぜかハニュがじっと戦いを見つめていた。
「どうしたの?ハニュ?」
不思議に思ったシーアがハニュの視線の先を追うと、どうにも狼は右の後ろ足が動かないようだった。もしかしたら怪我でもして、群れに捨てられたのかもしれない。まだ生後一年に満たないほどだろうに、可哀そうだなとシーアは思った。
その時、ハニュが魔法を使う気配を感じた。まさか助けようというのだろうか。助けたところで群れから追い出された子供の狼なんて長くは生きられないのに。
シーアは止めようとしたが、ハニュは魔法を放ってしまう。耳をつんざくような轟音があたりに響き渡った。これは雷だ。そんな魔法も使えたのかとシーアは驚く。
熊は驚いて逃げていった。
走ることができず、逃げられなかった狼はその場に取り残される。もう虫の息だった。それでもシーアとハニュを見ると、必死に威嚇してくる。
ハニュは臆することなく狼に近づいていった。
ハニュからシーアに、なんとなく嬉しそうな感情が伝わってくる。ハニュは治癒魔法を使って狼の傷を癒した。しかし、後ろ足の怪我だけは治さなかったらしい。足はだらりと垂れ下がったままだった。
狼は何が起きたのかわかっていないのか、挙動不審になった。やがてハニュを見つめてその場に伏せをする。まるで服従を誓ったかのようだった。
ハニュがキラキラとした目でシーアを見つめる。まるで褒めてと言っているようだ。シーアはどうすればいいのかわからなかった。
「えっと、友達になったのかな?」
絶対に違うと思いながらもハニュに聞いてみる。ハニュは呆れたような顔をしてシーアに魔力を流した。
もしかしてと、シーアは思う。
「従魔契約するの?」
ハニュはぷぴぃぷぴぃと嬉しそうに飛び跳ねた。シーアは唖然として狼に向き直る。狼は伏せをしたまま静かな目でシーアを見つめていた。
シーアは唾を飲んで、狼に近づき魔法を発動する。二度目の従魔契約は、呪文を詠唱しなくても簡単に行うことができた。
二人の間に風が吹き、狼の額とシーアの左手が光り輝く。無事契約の紋章が刻まれ、ハニュは嬉しそうに狼に向かって飛んで行った。
シーアはなんだかどっと疲れてしまい、その場に座り込む。目の前では二匹の従魔が仲睦まじそうに戯れていた。体の中に、新しく狼の魔力が流れ込んでくるのを感じる。
ハニュを従魔にできただけでも奇跡的な事なのに、新たな従魔が増えてしまってシーアは混乱していた。教会に連れて行っても怒られないかなと心配になる。
「ぷぴぃ!」
ハニュに呼ばれてシーアは顔をあげる。そうだ、名前をつけなくちゃ。メスの狼だから可愛いやつにしようと考える。
「リマ。リマはどう?」
シーアが言うと、リマはきゃんと鳴いた。嬉しそうな感情が伝わってくる。
こうしてシーア達に新たな仲間が増えたのだった。
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