第43話 神おばさん誕生!
金曜日のバイトを終えたボクは、同じシフトだった陽葵さんと一緒に彼女の家に向かう。理由は、陽菜さんに直接話を聞くためだ。
昨日、吉井さんは佐下君と田中君を連れてどこかに行った。学校でその後の進捗を話してる可能性があると思い、携帯で陽菜さんに尋ねてみた。
結果は予想通り話したらしい。陽葵さんも気になってるようなので、今日聞く事にする。あの2人は、ボク達と別れてからどうなったんだろう…?
陽葵さんの家にお邪魔してからリビングに向かうと、陽菜さんはテーブルの椅子に座って待っていた。…陽子さんの姿は見えないな。
ボクは陽菜さんの向かいに座る。陽葵さんは隣だ。
「陽菜。あの2人はどうなった?」
「とんでもない事になったよ…」
「へぇ~。聞くのが楽しみ」
何でそんなに面白そうにしてるんだ? ボクはちょっと責任を感じているよ…。
「順々に話すね。田中君はいつも通り登校したけど、佐下君は遅刻ギリギリに教室に来たの。来てからすぐ彼は…」
何となく想像できる気がする。
「『俺、ついに童貞を卒業したぜ!』って、大声で男子グループに向かって宣言して…」
陽菜さんの学校は共学だ。つまり、その宣言は女子に丸聞こえになる。
「後先考えないね~。それからは?」
「男子のみんなは軽くあしらってたよ。『嘘付くな!』とか『ついに頭おかしくなったのか!』とかね」
日頃の行いのせいだよな…。
「それは予想通りだったのか、佐下君は携帯を取り出して『動画撮ったから見ろよ!』と言ったの。田中君も撮ってたみたいで、途中で呼ばれてたよ」
「田中君可哀想じゃない? 巻き添え食らってるじゃん」
確かに呼ばれなければ、無関係を装えたはず。佐下君は彼の今後を考えたのかな?
「そういえば、その動画って音はどうだった?」
「さすがに聞こえなかったよ。聴いてる時はイヤホンを着けてたから」
教室に吉井さんの喘ぎ声が聞こえなくて良かった…。
「それから教室は大騒ぎ。『佐下とHするこのおばさん何者だよ!?』とか『俺もヤりて~』とか、男子の欲望を聞きたくないのに聞かされたよ…」
「陽菜さん、お疲れ様」
何か言葉をかけようと思ったら、真っ先にこれが出た。
「ありがとうございます。少し気が楽になりました」
「あのおばさんは、男子の英雄になったんだね」
陽葵さんの言いたい事は何となくわかるけど、それ誤用じゃない?
「英雄どころじゃないよ。佐下君が『頼めば誰でもヤらせてくれるらしいぞ!』なんて言うから『神だ!』『“神おばさん”じゃねーか!』となって…」
「年下好きのおばさんが神ね~。あの人的に悪魔の方が合うんじゃない?」
「悪魔ならアスモデウスだね」
色欲の悪魔だっけ…。ボクも神より悪魔派だな。
「みんなが落ち着いてからは、佐下君・田中君が吉井さんと出会ったきっかけについて、根掘り葉掘り訊かれてたよ」
「2人はなんて言ったの?」
「それが『俺のヤりたい思いが、おばさんを引き寄せた!』って…。田中君は文句を言わずに合わせてたよ」
「何それ? アタシ達の事は言わなかったの?」
「わたしが聞いた限りではまったく。どういう事だろう?」
あの場には、ボク・陽葵さん・陽菜さんもいたんだ。“紹介された”って言うのが普通なのに…。
「……もしかして、陽菜さんを庇ったんじゃない?」
「わたしを? どうしてですか?」
「もし佐下君達が『ボク達に紹介された』なんて言ったらどうなると思う? 『吉井さんのような人をもっと紹介してくれ』ってならない?」
「なるかもね~。陽菜が『知らない』と言っても、信じるかどうか…」
「だから佐下君は、ボク達の事を言わなかったんだよ」
彼なりに礼をした結果かも。
「朝日さんの言いたい事はわかりますが、佐下君がそこまで気が利くとは思えません」
「アタシは“独占”だと思うな~。機会を見つけて陽菜に『他のエロい人を俺だけに教えてくれ』って言うつもりだったんじゃない?」
「…その可能性もありそうだね」
というか、それが正解かも?
「何にせよ、わたし達の事を話さないのは好都合。そう思ってたのに…」
「他に気になる事があるの? 陽菜さん?」
「経緯はわかりませんが、吉井さんは“マコール”の常連である事を佐下君達に話したようです。彼らもそれについては、気にする素振りを見せずに話してしまい…」
「それぐらい良くない? 何が問題なの?」
「『“マコール”って店は、エロいおばさんが集まるところなんじゃね?』って聞こえたの。様子を見に、男子達が店に来るかもしれないよ?」
「ん~、それはマズいかも」
女性客の客足が遠のく可能性があるな…。下着屋に異性の視線は厳しい。
「でしょ? だからお姉ちゃん達も気を付けてね」
「はいはい。朝日君、何とか頑張ろう」
「そうだね」
店長さんと相沢さんに迷惑をかけないようにしないと!
「結局さ~、佐下君と田中君はどこでHしたんだろうね?」
陽葵さんの言うように、それは話に出てなかった。
「さぁ、言ってなかったよ…」
「本当に車内でヤってそうで不安だよ」
「不審者・不審車両の情報はなかったと思うから、多分吉井さんの家じゃない?」
「あのおばさんが普通のHで満足するかな~? 野外プレイしたりして」
絶対ないと言い切れないのが、吉井さんの恐ろしいところだな…。
「好き勝手話すのは吉井さんに悪いし、お姉ちゃんが訊いてみたら?」
「そうするかも~」
吉井さんの悪い影響を受けないと良いけど…。そんな風に思うボクだった。
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