第42話 佐下君と吉井さんをマッチング 実践編

 木曜日の6限の終わり頃を迎え、ボクと陽葵さんは母校のそばにあるコンビニ駐車場で待機している。車で来る吉井さんを待つためだ。


佐下君と彼女をマッチングさせるのは容易ではないはず。何とかなると良いけど…。


そう考えてる時にボク達のそばに1台の黒い軽自動車が停まり、吉井さんが運転席から降りる。


「ぼく・陽菜ちゃんのお姉ちゃん、お待たせ。学校に行く前にお買い物しましょうか」


コンビニの駐車場代としてだろうな。でなければ、今する必要はない。


「早く紹介してくれたご褒美に、何か奢ってあげる」


「やったね。朝日君、お菓子とか買ってもらおうか」


「うん…」


ボク達3人は、早速コンビニに入る。



 吉井さんは本当にボク達の欲しい物を買ってくれた。陽葵さんは嬉しそうだけど、マッチングが成功してないのに奢ってもらうのは良くないかも。


もし失敗したら、間違いなく次を要求されるよな…。


「そういえばさ~、相沢さんから佐下君の事聞いてるよね?」

歩いて学校に向かう途中、陽葵さんが声をかける。


「もちろん。陽菜ちゃんのクラスメートで、とてもスケベな子なんでしょ? 会えるのが楽しみで、昨日はあまり寝れなかったわ~」


佐下君をこんなに好意的に思うのは、吉井さんだけかもしれない。



 母校である、高校の校門前に着いたボク達3人。まさか卒業した後に来るなんて思わなかったよ…。


「ここで陽菜ちゃんが来るのを待つのよね?」


「そう。佐下君の事がわかるのは陽菜だけだから」


「もう少しで会えるのね。楽しみ」


それからのんびり待ち続ける事で、下校する生徒が多くなってきた。


「やっぱり若い男の子は良いわ~♡ あの子カッコいいわね~♡ あっちの子はやんちゃそう♡」


独り言を言いながら男子生徒をジロジロ見る吉井さん。このままだとボクと陽葵さんも不審者扱いされそうだ。陽菜さんと佐下君、早く来て!



 変わらず男子生徒をジロジロ見る吉井さんと微妙に距離を空けて待っていると、陽菜さんが早歩きでやって来た。


「朝日さん、お待たせしました」


「陽菜遅いよ!」


「ごめん。思ったより、帰りのホームルームが長引いて…」


「後は、佐下君が校門に来るのを待つだけだね」

どれぐらい待つ羽目になるのか…。


「田中君に『帰ろうぜ』と言ってたので、もうすぐ来ると思います」


…吉井さんはボク達の会話を聞いてなさそうだ。佐下君が来るまで放っておこう。



 陽菜さんが校門に来て数分後。彼女が校外に出た、ある男子2人組を指差す。


「あの2人組の、少し背の低いほうが佐下君です。もう1人はさっき言った田中君になります」


いよいよマッチングの時だ。果たしてうまくいくのか…。


「吉井さん!」

陽菜さんがよそ見している彼女に声をかける。


「えーと、お目当ての子はどこかしら?」


「あの男子2人組の少し背の低いほうです」


「わかったわ。後は私に任せなさい」


何を任せるんだ? 当然不安なので、ボク達も付いて行く。



 「君達、ちょっと良いかしら?」


吉井さんが声をかけて、佐下君と田中君を引き止めた。2人は彼女ではなく、陽菜さんのほうを見る。


「古川さんと…誰?」


訊いてきたのは佐下君だ。軽く自己紹介したほうが良いかも。


「アタシは陽菜の姉」


「ボクは友達かな」

口が裂けても、Hの事は言えない。


「私は3人のバイト先の常連よ」


「はぁ…」


奇妙な組み合わせだからか、彼の反応が鈍い。


「噂で聞いたんだけど、君はとてもスケベらしいわね?」


「おい佐下。お前学校じゃなくても、あんな事してるのかよ!?」


「してねーよ! 古川さんがこのおばさんにチクったんだって!」


「私、スケベな男の子が大好きなの♡ これから遊ばない?」


「そんな事言って、俺をからかってるんだろ?」


さすがにすぐ信じないか。


「じゃあこうすれば信じてもらえる?」


吉井さんはそう言って、佐下君の手を自分の胸に押し付けた。


「おっぱぱぱぱぱ…」


彼は顔を赤くして取り乱し、壊れた機械みたいになった。余程衝撃的だったんだな。


「私が嘘を付かない事、わかってくれたかしら?」


「よくわかりました!」


「佐下君チョロいね」

ボクに耳打ちする陽葵さん。


人の事を言えないけど、ボクもそう思った。


「この学校の近くにコンビニがあるでしょ? そこに私の車が停まってるから、続きは他のところでしましょう。でも良いわよ?」


「さすがにそれはダメだって!」

陽葵さんがツッコむ。


万が一、車外から見えたらヤバい事になるな…。


「あの、こいつも一緒で良いですか?」

佐下君は隣の田中君を指差す。


「田中。お前が初Hの証人になってくれ! 俺が言っても、誰も信じてくれないからな!」


「君も来て良いわよ? “3P”してみる?」


「……じゃあおれも」


「決まりね。みんな、今日は本当にありがとう」


吉井さんは嬉しそうに佐下君と田中君を引き連れて去って行った。



 思ったより早く終わったので、ボクと陽菜さんは店長さんに連絡してから“マコール”に行く事にした。シフトがない陽葵さんとは学校付近で別れる。


「佐下君と田中君が心配です…」


「ボクもだけど、吉井さんの良心を信じるしかないね」


「はい…」


今回は吉井さんのためを思って行動したものの、それが原因で佐下君と田中君に悪影響が及んだら意味がない。彼らのその後を知るには…。


「陽菜さん。余裕がある時で良いから、2人を気にかけて欲しい」

部外者のボクに出来る事は皆無だからな。彼女の力を借りるしかない。


「もちろんわたしもそうするつもりです。会話はちゃんと聞いておきますよ」


「お願い」


佐下君と田中君はもちろん、吉井さんが暴走しないように祈ろう。それぐらいしか今のボクに出来る事はないのだから…。

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