第41話 佐下君と吉井さんをマッチング 準備編

 リビングで、陽子さんから彼女と吉井さんの関係を聞いたボク達。衝撃的な内容だったけど、その影響で何か忘れてるような…。



 「…思い出した! 佐下君の事だ!」


陽葵さんに言われてボクもハッとする。ようやく思い出したぞ。


「佐下君がどうかした? お姉ちゃん?」


「あのおばさんが朝日君に頼んだの。『Hしたくてたまらない男の子を紹介して』って。朝日君の友達にそういう人はいないから、アンタのクラスメートの佐下君が候補になったんだよ」


「佐下君って、この前の演劇の脚本書いた子よね?」(9話参照)


「母さんも覚えてたか~。あのエロに対する情熱は、きっとあのおばさんに合うって!」


「仮に合ったとして、どうやって2人を結び付けるの?」


陽菜さんの疑問は当然だ。佐下君と吉井さんに接点はない。


「そこで陽菜の番だよ。うまくマッチングさせて」


「吉井さんはともかく、佐下君と話すの嫌なんだけど…」


「何で? かつて演劇をすると誓い合った仲じゃん?」


「誓ってない! 最近の佐下君の行動は目に余るから、近付きたくないんだよ。前はあんな事しなかったのに…」


「ついに演劇関係なしにスカートめくりし始めた?」


「そうなったら通報だね。じゃなくて、何もしないで階段下で待機してるの。他にも色々あるけど…」


佐下君がやりそうな事をイメージすれば、答えは出るな。


「階段の高低差を利用した覗きか~。やる事がアレだね」


「何度か、不審に思った先生がその件で佐下君を注意した事があるの。そうしたら『たまたまいただけ』とか『自意識過剰だから気になるんだ』などと言って反論したらしいよ」


「卑劣ね」

陽子さんの容赦ないツッコミが出る。


「佐下君は覗き目的で階段下にいるんだから、自意識過剰はあり得ないじゃん」


「そうなんだけど、証拠がなくて…。いるだけなら自由だから」


「ないなら作るしかないか~」


「でも好き好んで佐下君の相手をする人はしないよ。だから彼が後ろにいる時は、どこでもスカートを抑えるのが暗黙の了解になりつつあるね」


そんな彼を吉井さんとマッチングさせて良いのか? …待てよ、それをうまく活かせば良いじゃないか!


「陽菜さん。吉井さんとマッチングさせる事を条件に、迷惑行為を止めさせよう!」


「それはアタシも思った。下手したら、佐下君逮捕されるんじゃない?」


陽菜さんがいる学校はボクの母校でもある。母校にそんな汚名がつくのは嫌だ。


「わたしも何とかしたいけど…」


彼の行動がひどすぎて、コンタクトを取ること自体困難だ。一体どうすれば良い?


「ねぇ。あの人を学校に呼ぶのはどう?」


陽子さんの一言で気付く。陽菜さんは、常連の吉井さんとはそれなりに親交がある。佐下君と話すよりハードルは低いはずだ。


「アタシはそれが1番だと思うな~。朝日君・陽菜、どう思う?」


「ボクも同じ。いずれ佐下君と吉井さんは会わないといけないから、手間は省けるね」


「はい、わたしも異存ありません」


「そうと決まったら、明日の木曜に3人でやろっか」


「待ってお姉ちゃん、明日はバイトがあるから3人は無理だよ」


明日のシフトはボクと陽菜さんだ。佐下君の件がどれだけ長引くかわからない以上、参加するのは難しい。


「ん~、休もう」


「そんな事でバイトを休むなんてダメだよ!」


「大丈夫だって。店長に正直に言えば許してくれるでしょ、きっと」


陽菜さんの心配をよそに、陽葵さんは素早く携帯を操作する。そして数分後…。


「店長から許可もらった」

陽葵さんはそう言って、携帯の画面をボクと陽菜さんに見せてきた。


『仕方ない、許可する』と言っている、煙草を咥えた渋いオジサンのスタンプが押されている。店長さん、どこでそのスタンプを手に入れたんだろう?


「後は相沢さんに連絡して、あのおばさんの明日のスケジュールを確認するだけだね」


相沢さんと吉井さんは家が隣同士らしく、連絡先を交換してると聞いた。忙しい相沢さんを経由するのは心苦しいな…。


「お姉ちゃん、そっちを確認するのが先だったんじゃない?」


「確かに。もしダメだったら、休むのを撤回しよう」


店長さんも振り回してるな…。そんな事を思いながら、相沢さんの返信を待つ。


…彼女の返信は10分後ぐらいに来た。


「あのおばさん、明日空いてるって」


「これで準備完了したわね。明日の行動をみんなで話し合って決めましょう」


陽子さんも協力してくれるようだ。ありがたいよ。



 4人で話し合った結果、明日の行動についてまとまった。


陽菜さんは明日6限授業みたいなので、それが終わる時間あたりにボク・陽葵さん・吉井さんは校門付近で待機する。周りの人に怪しまれない事を祈ろう。


帰りのホームルームが終わった陽菜さんは、なるべく早くボク達と合流。そのまま待ち続け、佐下君が校門を出た時に声をかける。


そこから先は未知数だ。彼と吉井さんがどう出るかわからないからな。


「朝日くん・陽葵・陽菜。私が協力できるのはここまでね。吉報を期待してるわ」


2人をマッチングさせる事は、陽菜さんのためでもありバイト先の“マコール”のためでもある。どちらにもお世話になってるから、何とか力になりたい。


「朝日君。たくさん話し合ったから、夜遅くなったね。今日泊まってく?」


「そうさせてもらおうかな」

着替えの予備は、お父さんの部屋に置かせてもらってるから問題ない。


「これ以上遅くなると困るし、一緒にお風呂入ろうか♡」


「そうだね」

時短できるならしたほうが良い。


「ズルい…」


陽菜さんが不満気だ。すぐフォローしないと。


「今度2人きりで入ろう」


「約束ですからね!」


陽菜さんの視線を受けながら、ボク達はリビングを後にした。

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