第39話 吉井さんのお願い
水曜日を迎え、ボクと陽葵さんは2限と3限の講義を受ける。その後は“マコール”のバイトで、シフトはボク達だ。
そういえば昨日、ボクがいない時に吉井さんが店に来たらしい。一体何の用だったんだろう? 嫌な予感がするな…。
“マコール”のスタッフルームに入ると、今日は副店長の相沢さんがデスクワーク中みたいだ。
「朝日ちゃん・陽葵ちゃん。陽菜ちゃんを含んだ3人の関係は、未来ちゃんから聞いたわ」
彼女が作業の手を止めてから言う。相沢さんは“ハーレム”についてどう思うんだろう? 緊張しながら次の言葉を待つ。
「草食系かと思いきや、意外と肉食系なのね。朝日ちゃん」
「そうなんだよ~。朝日君はヤる時はヤるタイプなんだ~」
「『メリハリを付けてくれたら』あたしは何も言わないわ。AVの影響を受けて、バイト中に変な事しないでね」
「わかってるって。バイト前としてる時はしないから」
言い換えると、終わった時は可能性があると…。
「2人共、今日もよろしくね」
「は~い。じゃあ着替えようか、朝日君」
「そうだね」
ボク達は一緒に更衣室に入る。
「そういえば、一緒に着替えるのは今日が初めてだね」
「うん」
昨日は姉妹が着替えてる時に、ボクがお邪魔したからな。
「やっぱり、朝日君が脱いでるところを見るとHしたくなるな~♡」
陽葵さんが舐め回すようにボクを見る。
「今は無理だよ」
「わかってるって。後なら良いんだよね?」
扉の向こうで相沢さんが仕事してる最中のH。普通はダメだけど、月曜・火曜の2日抜いてないからな…。判断力が鈍りつつある。
「ボクの気分と状況次第だね」
ダメとは言い切れなかった。
「その言葉を聞けただけで十分だよ。やる気出てきた~!」
本当にやる気を出してくれたら、Hする流れにしよう。そうしないと陽葵さんが拗ねる気がする…。
制服に着替え終わったボク達が店に出ると、吉井さんが既に来店していて、店内の下着を物色している。声をかけずに見守るのも接客の1つだ。
「あら? ぼく、久しぶりね」
ボク達に気付いた吉井さんがそばに来る。
「どうも…」
日曜日にファミレスで見かけたけど、彼女は本当に気付いてなかったか。
「今日も試着室で楽しみましょうね♪」
「ちょっと待った!」
陽葵さんが声をかける。
「どうしたの? 陽菜ちゃんのお姉ちゃん?」
「この数日で、アタシ達の関係は劇的に変わったの。前みたいに2人きりにさせないから!」
「ぼく、どういう事かしら?」
ボク達の関係は遅かれ早かれ、吉井さんに話すべきかもしれない。
「これから話す事は他言無用でお願いします…」
「わかったわ」
周りの人に聞かれないよう、小声で話した。
「2人とHしたからハーレムを目指すのね。なら私も仲間に入れてちょうだい♪」
「何で!?」
異議を唱える陽葵さん。
「ハーレムは、男の子1人に対して女は何人いても良いでしょ? 私は2人よりおばさんだけど、その分経験はあるわよ?」
「それはダメ。朝日君はアタシと陽菜だけを大切にしてくれるんだから」
「ぼくはどう思う? 正直に教えてちょうだい」
「陽葵さんの言うように、2人だけを大切にしたいです。吉井さんには申し訳ないですが…」
「そう、わかったわ。ぼくの気持ちを尊重して、これからは一定の距離を空ける事にするわ。ぼく、女の嫉妬は怖いのよ。覚えておきなさい」
「……」
陽葵さんの表情を察するに、疑心暗鬼みたいだ。ボクも鵜呑みにするつもりはない。
「私はぼくのお願いを聞いたんだから、今度は私の番よね」
吉井さんのお願いか。彼女は常連だし、なるべく叶えないと。
「ボクは何をすれば良いでしょうか?」
「そんなに緊張しないでちょうだい。ぼくの友達に『Hしたくてたまらない男の子』はいるかしら? いたら紹介して欲しいのよ」
「朝日君どう? そういう友達いる?」
「思い付かないな…」
そもそも友達がいないんだけど。
「簡単には見つからないわよね…。急いでないから、わかり次第教えてくれる?」
「はい…」
わかる訳ないけど、こう答えるしかない。
吉井さんはボクが選んだ下着を2枚購入してから、店を後にした。
「朝日君。面倒な事になったね」
お客さんがいないので、陽葵さんが声をかけてきた。
「アタシ達があのおばさんのお願いを聞かないと、向こうが何やってくるかわからないし…」
お願いはお互いに聞くから意味がある。片方だけでは効力は期待できない。
「そう言われても、本当に思い付かないんだよ」
「ちゃんと信じてるから安心して。でもどうすれば良いんだろう?」
「…陽葵さん、お客さんが来たよ。その話はバイトの後にしようか」
「わかった」
相沢さんにメリハリについて言われてるから、吉井さんの件は後回しにしてバイトを頑張る。そして終わりの時間を迎え、ボク達は更衣室で着替え始める。
「朝日君。アタシ思い付いたの」
「何を?」
「あのおばさんが言ってた『Hしたくてたまらない男の子』だよ」
「その人は誰なの?」
「陽菜のクラスメートの佐下君。覚えてない?」
会った事はないものの、話は何回も聞いた事がある。
「もちろん覚えてる。陽菜さんに手を出す演劇の脚本を考えてたよね」
「そう。佐下君の性欲なら、あのおばさんのお眼鏡に適うんじゃない?」
「確かに可能性はありそうだけど、ボク達は佐下君に会った事ないよ?」
「だから陽菜に協力してもらうしかないね。事情を話せば何とかなるって」
今はその可能性に賭けるしかなさそうだ。
「わかった。陽菜さんに直接話したいから、この後寄って良いかな?」
「もちろん」
明日の木曜日の講義は3限からだ。なので遅くなっても問題ない。
「朝日君。おバカなアタシが頑張って考えたからさ~、ご褒美が欲しいよ~」
陽葵さんの視線はあそこに向けられている。吉井さんの件が何とかなりそうなのは彼女のおかげだから、確かにご褒美は必要だな。
「わかった。でも相沢さんが向こうにいるから、静かにしようね」
「そうだね♡」
陽葵さんは嬉しそうにしゃぶり出す…。
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